第31話王都 謁見の間にて

エヴリン達が、全てを話した3日後、

ロナウ オーディンは王城に呼ばれる運びとなった。




本来なら、ロナウの父親である【リドガー オーディン】も王城に出向くはずだったが、半年前より、病に伏している為、この場に姿は無い。



その為、謁見の間に姿を見せたのは、ロナウただ1人。


取り巻き達は、この場に呼ばれていない。



玉座に座る国王【ゴーレン アンドリウス】。


隣にいるのは、宰相のグラウニー。



「さて、ロナウ オーディン。


 何故、この場に呼ばれたのか、わかるか?」



思い当たる節が多い故に、言葉に詰まる。




「・・・・・い、いえ」



「そうか・・・・・

 出来れば、自らの口で、語って欲しかったのだが・・・・」



アンドリウスは、グラウニーに合図を送る。


グラウニーは、控えていた場所から、一歩、前に出た。




「では、問おう。


 ロナウ オーディンよ、

 最近、街中で貴族の悪い噂が流れている事をご存じか?」



質問に、俯いたまま答える。


「はい、私の耳にも届いております」


「そうか、知っておるか」


「・・・・・はい」


「ならば話が早い。


 先日、私の姪が、あらぬ疑いをかけられてな。


 それで、とある貴族と兵士がグルになって、

 牢獄に放り込まれたようだ。


 お主に、心当たりはあるか?」


ロナウには、誰の事か察しがつく。


──あの女、宰相の姪だったのか・・・・・・


後悔をするが、それは、しでかした事に対してではなく、

絡んだ相手が悪かったという、運の悪さに対してだ。


悪態をつきたくなるが、ここは、謁見の間。


何も出来る事はない。


動揺するロナウに、畳み掛けるように

グラウニーが話を続ける。



「その一件にも関わり、国民達を虐げていた兵士どもは、既に捕えた。


 勿論、そ奴らも、尋問にかけ、首謀者の名も聞いておるが・・・」


グラウニーの視線が、ロナウを貫く。


ここまで来て、言い逃れの出来ない状態に、戸惑うしかないロナウ。


「申し開きが、あるのなら聞いてやるぞ」


「く・・・・・」


ロナウに、判決が下ると思われたその時、謁見の間の扉が開く。


「失礼致します」


声を上げたのは、初老の男の肩を、担いだ執事。


「失礼を承知で参りました。


 こちらは、オーディン家、現当主【リドガー オーディン】様でございます」



リドガーは顔色も悪く、執事とメイドに肩を借り、

息も絶え絶えで、この場にやって来たのである。


リドガーは、息子のロナウの隣で膝をつく。


「陛下、この度の件、誠に申し訳御座いません」


床に頭をつけて、謝罪の言葉を口にする。


「リドガー、そなたは、大病を患っておったのではないか?」



「はっ、その通りでございます。


 しかし、息子の仕出かした不始末を聞き、

 居ても立っても居られず、不躾ながら、この場にやって参りました」


「うむ・・・・・」


ゴーレンは、リドガーの言葉を聞き、視線をロナウへと向ける。


「ロナウよ、お前の横で、頭をさげる父を見て、お前は、どう思う?」


「・・・・・申し訳なく思います」


「そうか・・・・」


言葉とは、裏腹にロナウの顔には、捕まった事に対する後悔と

この場に引きずり出した張本人、エヴリン達への怒りで染まっている。


その事に、誰よりも早く気が付いたリドガーが、国王に慈悲を乞う。


「陛下、言葉を挟む無礼、お許しください。


 この度の一件、我が子、ロナウの仕出かした事ですが

 その責任の一端は、この私に御座います。


 ですが、私は、この様な体ですので

 こ奴を、強く咎め、行いを正すほどの体力も残っておらず

 制裁を加える事も出来兼ねますゆえ、

 我が爵位を返上し、この度の責任を果たそうと存じます」


爵位を返す。


これは、貴族で無くなる事。


リドガーは、平民に戻る決意であることを伝えたのだ。



この言葉に、『はっ!?』となり、驚愕するロナウ。


「父上・・・・・・何を言っているのですか?」


「言葉の通りだ」


ロナウは、我を忘れ、国王の御前だといのに

思わず立ち上がった。


「何を寝ぼけたことを言っているのですか!?

 爵位を返す?

 今更、平民に戻れと?」


大きく溜息を吐き、言葉を続ける。


 「・・・・・貴方は、どうやら病で、呆けてしまったようだ。


 早く、爵位をこの私に譲り、隠居でも、何でもしてください!」


病に伏していても、この場に参上したリドガーの気持ちも分からず

あろうことか、『呆けている』とまで、言い放つ始末。


その言葉に、誰もが更生の余地なしとの判断を下す。


リドガーも、その一人で、自身の教育を悔やみ、拳を握りしめた。



そんなリドガーの姿に、思うところがあったのが

国王ゴーレン アンドリウスが、口を開く。


「そうか、それがお前の本心か・・・・・

 病を押して迄、この場に現れた父の事よりも、

 貴族という位にしがみ付きたいようだな」


その言葉に、ここが、陛下の御前だったことを思い出す。


「あ・・・・・こ、これは・・・・・・」


縋りつくように、リドガーを見る。


しかし、リドガーは、頭を床に付けたまま微動だにしない。


顔を青くし、その場にへたり込むロナウ。


普段から、好き勝手に振舞い、我慢することを知らなかったロナウ。


我慢や辛抱が、出来る筈が無い。


その結果、病を押して迄、この場に姿を見せ、

息子の減刑の為、爵位を捨てるとまで言い放った父までも、裏切る形となった。




「リドガー、何か言う事は、あるか?」


「・・・・・いえ、何も御座いません」


「では、裁きを言い渡す」




貴族という地位に溺れた男の末路。


「ロナウ オーディン。

 

 継承権剥奪後、オーディン家からの追放とする。


また、牢獄にて、30日の収監、

 その後、鉱山にて5年の労働に処す」


これは、父であるリドガーに対する

国王ゴーレン アンドリウスの最大の譲歩だった。


死罪を覚悟していただけに、

ゴーレンの下した判決に、一度、顔を上げた後、再び頭を下げるリドガー。


心の中で呟く。


──感謝致します・・・・・・


継承権は、失ったが、5年と30日後は、自由の身となれるのだ。


死罪を免れただけでなく、やり直せる機会も頂けたことに

感謝し、安堵するリドガーとは、真逆に

ロナウは、納得していなかった。


張本人でありながら、未だに反省の色も謝罪の言葉もない。


1人、項垂れ、『なんでこの俺が・・・』と独り言を呟いている。


その姿は、陛下にとって、毒でしかないと判断するグラウニーは

兵士に命令する。


「連れて行け」


兵士によって両腕を掴まれ、連行されてゆくロナウ。


その間も何か叫んでいるが、誰も聞く耳を持たなかった。





ロナウの退場で、静けさを取り戻した謁見の間での、その後の出来事。


「さて、リドガーよ・・・・・良いのだな?」


「はい、お願い致します。


 それと、寛大なお心遣いに感謝申し上げます」



「うむ。


 では、この場にて宣言する。


 リドガー オーディン。


 子爵の地位の返還を認め

 この街からの退去を命ずる」


リドガーは、無言で深く頭を下げた。




6日後、リドガー オーディンは、『リドガー』となり、家族と共に街を去った。


また、共に悪事を働いていた貴族の息子や、兵士、商人には、

それぞれに、厳罰が与えられた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る