第30話王都 再会

何も知らされていない兵士は、連行している者達の身形みなり

余りにも綺麗だったので、少し疑問に思ったが

上司の命令には、背けず、素直に地下牢へと放り込んだ。


「ここで、大人しくしていろ」


兵士は、そう言って立ち去ろうとする。


しかし、エヴリンが声を掛け、兵士を呼び止めた。


「貴方、悪いんだけど【グラウニー】を、呼んでもらえるかしら?」


「グラウニー?」


兵士の中に、そのような名前の者はいない。


「申し訳ないが、ここの兵士に、そのような名前の者はいない」


その言葉を聞き、エヴリンは『は?』っという顔をして、言葉を返す。


「グラウニーよ、宰相のグラウニー マルコールよ!」


兵士は、その名を聞き、思わず息を飲む。


「あの・・・・どういうご関係で?」


「私の叔父よ!」


「えっ!?」


「聞こえなかったの?

 叔父。


 お・じ・さ・ま・よ!」


「グ、グラウニー様が、叔父・・・・・・・!!!

 も、申し訳御座いませんでした!

 只今、呼んで参ります!」


兵士は、慌てて地下通路から飛び出していった。




王城に辿り着いた兵士の【ホフマン】は

息を切らしながら、詰所に顔を出す。


「悪いが、誰か、水、水をくれ・・・・・」


息絶え絶えのホフマンの様子から

何かが起こったと理解した兵士達が詰め寄る。


「おい、大丈夫か?

 一体、何があった?」


問いかける兵士を無視し、差し出された水を一気に飲み干すホフマン。


『フー』と一息つくと、疑問を投げかけた兵士の顔を見る。


「不味い事になった・・・かもしれない!」


それだけ告げて、詰所を飛び出すと、

宰相の仕事場所である執務室へと向かった。


執務室の前まで辿り着くと、一息ついた後、

扉を叩く。


『入れ』の言葉を聞き、執務室の扉を開けた。


一番奥の机で、仕事をしているのが

エヴリンの叔父にあたる、宰相のグラウニー マルコールだ。


グラウニーは、手を止めて、顔を上げた。


「何かあったのか?」


落ち着いた声で、問いかけたグラウニー。


問いかけられたホフマンは、緊張からか

上手く言葉が出てこない。


「なんだ、早く、要件を言わぬか?」


「はっ、その・・・・・」


ホフマンは、言い難そうに、モゴモゴとしている。


「はっきりと申さぬか!」


少し強い口調で、問いかけられたホフマンは、大声で叫ぶ。


「も、申し訳御座いません!

 先程、捕えられた者が、グラウニー様の知人のようでして・・・・・」


「なっ、なんだと!

 その者の名は、何というのだ?」


そう問われ、この時に、気が付いた。


「聞いていませんでした・・・・・

 ですが、グラウニー様の事を叔父だと・・・・・」


その言葉に、頭の痛くなるグラウニー。


「・・・・・もうよい、さっさとその場所に、案内しろ」


兵士に続き、執務室を出るグラウニー。


2人の向かう先は、勿論、兵舎の地下にある牢獄。




兵舎に到着したグラウニーは、案内をしているホフマンに問いかける。


「何故、ここに閉じ込める前に、私に伝えなかったのだ?」


「それは・・・・・」


「まぁ、よい。


 全ては、姪に会えばわかる事だしな」


兵士は、『間違いであってほしい・・・・・』


心の中で、そう思う反面、聞きたくない言葉を聞いた事に気付く。


グラウニーには、女性だと伝えていない。


しかし、グラウニーは、間違いなく『姪』と言った。




淡い期待など抱ける筈も無い。


1人頭の中で、悶絶するホフマン。


だが、無情にも地下の牢獄に辿り着いてしまう。


「この先です」


案内された牢獄。


ホフマンにとっては、地獄。


辿り着いた牢獄の鉄格子の向こうに立つグラウニーに、

エヴリンが気が付き、声を掛けた。


「叔父様!」


「やはりエヴリンだったか・・・」


鉄格子を挟み、久しぶりに再会する叔父と姪。


「今、ここから出してやるからな」


エヴリンに、そう伝えたグラウニーは、

目を見開き、ホフマンに同行していた兵士を怒鳴る。


「おい、何時まで、このままにしておくつもりだ!

 我が、姪に、なんてことを・・・・・

 早く、ここから出さんか!」


「は、はい!」


急いで鍵を開ける兵士。


その後ろで、完全に息を殺し、

透明人間と化しているホフマンだったが

突然、声を掛けられて、硬直する。


「私の姪に・・・・・・一体、どういうつもりだ!」


「も、申し訳御座いません!」


慌てて鍵の開いた牢獄の中に入り、

エヴリン達に、ここから出るように、促した。


牢獄の外に出て来たエヴリン。


「叔父様、有難う御座います」


「うんうん、元気そうでなによりだが

 怪我は、しておらぬか?」


「はい、大丈夫です。


 それも、叔父様が、早く来て下さったからですわ」


「そうか、そうか。


 まぁ、ここではなんだから、場所を変えようか」


そう告げたグラウニーは、兵舎の外に向かって歩き出した。



宰相のグラウニー マルコールは、

父の兄弟である。


名字が違うのは、

結婚したさいに、マルコール家に養子に入った為だ。


「叔父様、ご挨拶が遅れましたけど

 この子が、私の弟のエンデ ヴァイスよ」


地下の廊下で、エンデを紹介するエヴリン。


聞こえてきた言葉に、ホフマンは、倒れそうになる。


──本当に、最悪だ・・・・・


意識が飛びそうになっているホフマンとは、逆に、

グラウニーの頬は緩む。


「そうか、そうか、お前がエンデか?


 私は、マリオンの兄だ。


 お披露目パーティーに、出席できなくて、すまなかった」



「いえ、お気になさらないで下さい。


 これから、どうぞ、宜しくお願い致します」



礼儀正しく挨拶をしたエンデに、グラウニーは、満面の笑みを見せる。


「エヴリンよ、良い弟をもったな」


「はい!

 自慢の弟ですわ」


「そうかそうか、まぁ、ここで話し込んでも仕方がない。


 先ずは、儂の屋敷へと行こう」



牢獄から解放されたエヴリン達は、

グラウニーの屋敷へと向かう事となった。



屋敷に到着し、応接室に通されたエヴリン達。


その正面には、グラウニーが座っている。



「まずは、この様になった経緯いきさつを、話してもらえぬか?」


「はい・・・・・」


エヴリンは、市場での出来事を詳しく語る。


すると、話を聞いているグラウニーの表情が、段々と厳しさを増した。


「また、あいつらか・・・・・」


「叔父様、どうかなさいましたの?」


「ああ、実はな・・・・・」


グラウニーの話はこうだ。


少し前から、貴族の横暴な噂を聞くようになっていた。


被害者がいるのだから、証言を取ろうとしたが、

報復を恐れて、誰も口を割らない。


その為、取り締まりも兼ねて、警備兵の数も増やした。


だが、騒ぎは収まらない。


それどころか、今まで以上に、貴族の横暴を聞くようになった。


それだけではない。


その噂の中には、兵士達の噂も含まれるようになったのだ。



少し、悩んだ後、グラウニーが口を開く。


「それで、お前達に、こんな仕打ちをしたロナウ オーディンの事なのだが

 実は、前々から名前は上がっていたのだが、奴を恐れて誰も証言をしないのだ」


そう話した後、付け加えた。


「だが、今回は、お前達がいる。


 どうだ、私に、力を貸してくれぬか?」


グラウニーの発言に、満面の笑みをみせるエヴリン。



「勿論よ。


 叔父様の頼みというのもあるけど、それ以上に、あんな奴、許せないわ」


そう言い放ったエヴリンは、隣に座るエンデの手を握る。


「わかっているわよね」


「うん、姉上は、僕が守るよ」


その言葉を聞き、エヴリンは、エンデに抱き着いた。


「本当に出来た弟。


 大好きよ!」


「やれやれ・・・・・お前達は、本当に仲が良いのだな」


そう呟くグラウニー。


「当然よ、姉弟ですもの。


 この子は、ずっと私のもの。


 誰にも、あげないわ!」



その発言に、グラウニーは、大きく溜息を吐いた。



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