第29話王都 連行

ロナウの仲間達は、逃げ道を塞ぐように、エンデ達を取り囲む。


「お前ら、絶対に逃がすなよ」


ロナウの言葉に、仲間達は、笑みを浮かべながら頷くと

それぞれが、腰に携帯していた武器を手にとった。



周囲には、野次馬が集まっていたが、

誰一人として止めようとはしない。


だが、その時、偶然、巡回をしていた兵士達が通りがかり、声を掛けて来た。



「お前達、そこで、何をやっているんだ!」


「これで、なんとかなりそうね」


そう思ったエブリンだったが、ロナウの顔を見た途端、

兵士の態度が、あからさまに変わった事で、

悪い予感がした。


その予感は、的中する。


兵士は、媚びた態度で、ロナウに接したのだ。


「ロナウ様では、ありませんか。


 いったいどうなさったのですか?」


「なんだ、【ユーゴ】か」


兵士は、ロナウの知り合いだっいたらしく、

ロナウから事情を聞き始めた。


「こいつらが、俺の仲間に手を上げてな、それで、問い詰めていたところだ」


「わかりました。


 では、後の事は、お任せください」


ロナウは、兵士の返事を聞き、思わず、笑みを零す。


そして、ゆっくりとエヴリンとの距離を詰める。


「俺に逆らった事を、牢獄の中で、精々、後悔するんだな」


そう伝えたロナウは、踵を返し、その場から離れようとした。


しかし・・・・・・


エンデが、立ち塞がる。



「ねぇ、ジャステーンに謝っていないのに、何処に行こうとしているの?」


「おい、貴様!」


ロナウより先に、エンデの言葉に反応したのは、兵士のユーゴだった。


ユーゴは、エンデとロナウの間に割り込む。


「ロナウ様に、逆らうとは・・・・・・

 貴様は、何を考えているんだ!」


ユーゴは、エンデを怒鳴りつけ、

『捕えろ!』と他の兵士達に、命令を出した。


兵士達も、ロナウの事を知っているようで、

エンデ達を取り囲む。


完全に兵士達も、ロナウの言いなりだ。


エヴリンとエンデは、顔を見合わせて、面倒臭そうな顔をした後

溜息を吐き、仕方ないとばかりに、エヴリンが問う。


「ねぇ、一つ聞きたいけど、

 この後、私達、どうなるのかしら?」


その問いに対して、ユーゴが答えた。


「決まっているだろ、お前達は、このまま連行する。


 その後の事は、取り調べ次第だ」


「わかったわ。


 なら、その前に、こちらも名乗っておくわ」


その言葉は、集まっていた兵士達の背筋を冷たくするには

十分だった。


『こんな言い方をするのは、貴族でしかない』


兵士達の頭の中には、その言葉が駆け巡り、動揺が走る。


「おい、どうする・・・・・」


「ああ・・・・・」


当初、何処かの金持ち程度にしか思っていなかったエヴリン達が、

貴族である可能性が高くなると、兵士達の戦意が一気に落ちる。


当然、ロナウの仲間達にも、動揺が見え隠れしていた。


「な、なぁ、ロナウ、もしかして、俺達・・・・・」


そんな仲間の態度に、苛立ちを見せるロナウ。



「相手が貴族だから、どうだと言うのだ。


 所詮、田舎の貴族だろ!

 

 お前達は、私が誰だか、忘れたのか!」


 その言葉に、仲間達は納得するしかない。


「そうだな、ごめん」


仲間達の謝罪の言葉を聞いた後、

ロナウは、ユーゴに、改めて命令をする。


「おい、こいつら、早く連れて行け!」


「わかりました。


 では、そうさせて頂きます」


そう告げたユーゴは、エンデ達に歩み寄る。


「大人しくしろ。


 あの方は、かのオーディン子爵家のご子息だ。


 お前達の敵う相手ではない」


そう告げたユーゴだったが、

ここにいる4人に、驚いた様子もない。


その事に、違和感を感じたが、

それを問い質す前に、ロナウが首を突っ込み、言い放つ。


「お前達は、この俺に逆らった事を後悔するんだな」


その言葉に、エヴリンは、再び、溜息を吐く。


そして、呆れたように、口を開いた。


「あんたねぇ、子爵家は、この世界に一軒だけじゃないのよ」


「そんな事、分かっている。


 だから、どうしたというのだ!」


ロナウは、強気な態度を崩さない。


エヴリンは、仕方なく名乗る事にした。


「私は、エヴリン ヴァイス。


 こっちが、弟のエンデ ヴァイス。


 父は、あなたの家と同じ、子爵家のマリオン ヴァイスよ」


その言葉に、一番驚いたのは、ユーゴだった。


命令されたとはいえ、貴族のご子息とご息女を

捕えようとしていたのだから、それは、もっともな反応だ。


「子爵だと・・・・・」


「ええ、そうよ。


 それで、私達の事を知っても尚、

 武器を、こちらに向けるのですか?」


エブリンは、そう言い放つと同時に、兵士達を睨む。


『はっ』と我に返った兵士達。


「失礼いたしました!!!」


慌てて、武器を手放す。


それは、ロナウの仲間も一緒だった。


だが、張本人であるロナウは違う。


「お前が、子爵だと・・・・・

 そんなの嘘だ!

 嘘に決まっている!

 貴様、平民が貴族を名乗れば、どういう事になるかわかっているのか!?」


未だに、事実を認めようとはしない。


そんなロナウは、思い出したように告げた。


「そうだ、貴様など、王都のパーティで見たこと無い。


 絶対に貴族でないぞ!

 お前達、騙されるな!

 こいつらは、偽物だ!

 偽物に、違いない!」


大声で、騒ぎ立てるロナウだが

他の者達は違う。


あからさまに動揺している。


その姿に苛立ち、痺れを切らしたロナウは、

ユーゴ達を怒鳴りつけた。


「兵士ども、さっさと捕えろ!

 父に言いつけるぞ!」


結局、逆らう事が出来ず、ロナウの命令に従い、

エンデ達に、歩み寄る。


そんな兵士たちに、最終勧告とばかりに、エヴリンが告げた。


「私は、子爵家の人間だと伝えましたよ。


 それでも、こちらの言い分も聞かず、私達を捕えるのですね」


その言葉に、動揺する兵士達。


再び、動きが止まった。


そこに、エンデが立ち塞がった。


その表情は、穏やかではない。


そんなエンデを、エヴリンが止めた。


「エンデ、私に考えがあるから、大人しく捕まりましょ」


一瞬、驚いた表情を見せたが、直ぐに、いつものエンデに戻る。


「お姉ちゃんが、そう言うなら、わかったよ・・・・」


抵抗を諦めたエンデを、兵士達が縛り始めた。


「大人しくしていろ・・・・・」


兵士達は、エンデに続き、

エヴリン、ヘンリエッタ、ジャスティーンを縛り上げる。


その様子に、ご満悦のロナウ。


「残念だな、俺の言う事を聞いていれば、こんなことにならなかったのだ」


『さっさと連れて行け!』とロナウが言い放つと

仕方なく、その言葉に従うが、

兵士達の顔色は悪い。



エブリンやエンデが、子爵家の縁者とわかっているので

このままで済む筈が無いことは、わかっている。


勿論、エンデ達を捕えた兵士達も、ただでは済まない。


なので、最低限の保険として、縛っているロープも緩めている。


その事に、エヴリン達は気付いていた。


わかっているからこそ、拘束されているにも拘らず、

普段と同じように振舞っているが、

その態度に、誰一人として、文句を言って来る兵士はいない。


その為、近くを歩くヘンリエッタ、ジャスティーンと会話を楽しんでいるエヴリン。


その後ろから、ついて歩くエンデだけが、心配そうに見つめている。


そんなエンデと、振り返ったエヴリンの目が合う。



「大丈夫よ、直ぐに釈放されるから。


 まぁ、そうならなかった時は、貴方に頼るから、お願いね」



「うん、わかった。


 みんなの事は、絶対に守るから」


その言葉に、笑顔で応える。


「頼んだわよ」


エンデが『うん』と頷くと、

エヴリンは、ヘンリエッタ達との会話へと戻って行った。



兵士達に従い、暫く歩くと、

高い壁に囲まれた建物が見えてきた。


「申し訳ないが、ここから先は、少し静かにしてくれるか?」


「えっ!

 何?」


「もうすぐ、着くんだ。


 他の兵士達の目もあるのでな。


 だから、静かにして欲しい」


たしかに、面目というものもあるのだろう。


だからこそ、ユーゴは、お願いをしているのだ。


「まぁ、いいわ。


 貴方の立場も理解できない事も無いから、今は、従ってあげるわ。


 でも、私達を捕えた事を、反故にするつもりはないわよ」



最後の一言を聞き、ユーゴの顔色は悪くなるが

ここで立ち止まっている訳にも行かず、

建物に向かって歩き始めた。


到着した建物は、兵舎で

ここには、街を巡回する兵士の他、常備、数百人の兵士達が、寝泊まりしている。


それと同時に、捕えられた者達も、ここの地下の牢獄に収監されているのだ。


建物の入り口となる門には、4人の兵士の姿があった。


「ユーゴ様、お疲れ様です」


「ああ、この者達を、いつもの場所へ・・・・・」


「畏まりました」


その場で、エンデ達を引き渡された門兵は、

拘束しているロープを強引に引き、連れて行こうとする。


「ほら、さっさと歩け!」


その様子に、思わず動揺するユーゴだったが

ここにいても、もう、何も出来る事が無いので、

急いでその場から立ち去るしかなかった。

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