第28話王都 街

ランバーが提案を受け入れた事で

デントとイーゴ、それにスコールも、ギルドの提案を受け入れた。


だが、ギルド職員であり、情報を漏らしたセイクは

罪に問われる事となった。


こればかりは、どうしようもない。


秘匿義務のある筈のギルド職員が、情報を提供するだけでなく

襲撃を後押しするような真似をしたのだ。


同情する余地もない。


セイクは、弁解の余地も与えられず

地下の牢獄へと、連行された。


セイクを見送った後

エンデも、屋敷に向かう事に決め、皆に声を掛ける。


「そろそろ、僕達も、行こうよ」


「そうね」


エヴリンの返事に、ジョエルも頷く。


「では、参りましょう」


エンデ達が、冒険者ギルドを出ようとすると、

ヴィネーゼが、エンデの肩を叩き、耳元で囁いた。


「あなたには、色々聞きたいことがあるから

 近いうちに、屋敷に寄らせて頂きます」


その言葉に、溜息を吐く。


──このまま終わりってわけには、いかないよね・・・・・・


こればかりは、予想も出来た出来事なので、

エンデは、ヴィネーゼに笑顔を向けて答える。


「はい、お待ちしております」


「な・・・・・」


先程までとは全く違うエンデの態度に、

ヴィネーゼは驚きを隠せなかったが

それでも、了承を得る事が出来たので、

『それでは、また』とだけ伝えた。




冒険者ギルドを出たエンデ達は、

再び、馬車を止めてある広場へと向かう。


当然だが、今回は、無事に辿り着く。


皆が馬車に乗り込み、出発した時には、既に日が傾いており

街行く人たちの足も、幾分か早く見えた。


夕日に染まる街並みを眺めるエンデ。


思い出すのは、コルドバの街。


この時間になると、街頭に明かりが灯り、客の受け入れを始める。


そうなると、エンデは娼婦たちの待合室で、

エドラの仕事が終わるのを待っていた。



エドラは売れっ子だったから、ここに姿を見せる事は滅多にないのだが

待合室には、他の娼婦の女性が大勢いたので、

エンデが寂しくなることも無かったのだ。


だが、その場所も、もう無くなっていると思われる。


そのことを思い出していると、

胸のあたりに、冷たい風が吹いたような気がした。


込み上げてくる寂しさ。


二度と戻らない娼館での生活。


エドラもイビルも、もう、いない。


外を眺めるエンデの頬に、一滴の涙が零れ落ちた。


──母様・・・・・


顔を外に向け、1人で感傷に浸っていたエンデだが、

直ぐに現実に引き戻される。


「そろそろ、着くらしいわよ」


そう声を掛けたのは、エブリンだった。


顔を見た途端、直ぐに違和感に気付いたエブリン。


「ちょっと、どうしたの?

 何か、困った事でもあるの?

 なんでも、わたしに相談そるのよ」


「あ、うん・・・・わかった」


そう答えたエンデだが、頬には涙の痕が残っていた。


そんなエンデの頬を、エヴリンは、これ以上何も聞かず

取り出したハンカチで優しく拭った。


優しさが染みる。


エンデは、笑顔を見せた。


「心配かけてごめん。


「何でもないよ、ちょっと欠伸をしただけだから」


エンデは、そう伝えると、外を眺める事をやめた。



馬車は進み、貴族街に入る道を左に曲がると、

大きな屋敷が見えて来た。


「今日から、あそこが、ご自宅になります」


ジョエルの屋敷は、貴族の屋敷にも引けを取らない大きさだった。


「凄いお屋敷ね」


「ええ、ここでしたら、平民街とも少し離れておりますし

 貴族街にも近いので、なかなか良い物件だと思います」



ジョエルの説明を終えると同時に

馬車が、屋敷の前に止まった。


「さぁ、着きましたよ」



皆が馬車から降りると、ジョエルが、屋敷への案内を始めた。



入り口の扉を潜ると、広いエントランス。


その奥には、2階へと続く階段があった。


「お2人の部屋は、この2階に、御座います」


階段を上り、廊下を奥まで進むと

廊下を挟んで、2つの角部屋がある。


そこが、エンデとエブリンの部屋。


互いの部屋の扉を開けると、

部屋の中には、既に、家具が揃っており、

何も不自由をすることが無いように思えた。


一緒に、部屋の確認をしたエリアルとアラーダは、

既に、荷物を運び始めている。


その間、エンデ達は、他の場所の案内をしてもらい、色々と見て回った。


冒険者ギルドでの一件もあり

この日は、到着も遅くなった為、

ある程度の片づけを終えると、

その後は、食事をし、就寝する事となった。




翌日、朝早く、目を覚ましたエンデは、

外の空気を吸おうと庭に出た。


日の光を浴び、暫く『ボー』っとしていると、

エブリンが顔を覗かせる。


「なにしているの?

 食事の時間よ」


思った以上に長い時間、空を眺めていたようで

エヴリンに誘われるまで気付かなかったが

既に、食事の時間になっていたようだ。


「うん、わかった」


エンデが、そう返答すると

いつものように、エブリンはエンデの手を引き、食堂へと向かった。


食堂に到着すると、既に、ジョエル達も席に座り、

エンデを待っている状態だった。


「おはようございますエンデ様。

 

 昨日は、ごゆっくりお休み頂けたようで

 何よりです」


「うん、ありがとう。


 皆を待たせて、ごめんね」


「いえいえ、お気になさらず。

 

 それでは、いただきましょう」



こうして、皆での食事が始まった。


その後、食事を終えると、

お互いの今日の予定を話した。


この後、ジョエルは、用事があるらしい。


その事を知り、エヴリンは、

ヘンリエッタとジャスティーンを買い物に誘ってみると

2人は、喜んで、その提案を受け入れたので

本日は、4人で、街に出掛けることになった。


話を終えると、それぞれの部屋に戻り、

身支度を整え、買い物の準備を始める。


だが、男のエンデは、これといって準備する事が無いので、

一足先に、入り口で待つ。


女性は、準備に時間が掛かる。


エンデにとって、それは当たり前の事なので、

1人で待っていても、苦にならない。


暫くして、3人が姿を見せる。


「待たせたかしら?」


エヴリンのいつもの言葉。


それに対し、エンデが答える。


「ううん、そんな事はないよ。


 それよりも、姉様。


 そのお洋服。


 いつも以上に、お似合いです」



普段は、『お姉ちゃん』と呼んでいるが、

この時だけは、『姉様』と呼ばなければならない。


こうして、いつものルーティーンともいえる一連のやり取りを

終えたのだが、今日は、それだけでは、ダメなのだ。


女性は、エヴリンだけではない。


なので・・・・・


「ヘンリエッタとジャスティーンも、よく似合っているね」


そう伝えると、エンデに褒められて

満更でもない2人は、笑みを零している。



その後、4人は、馬車に乗り込み

目的地である、市場へと向かった。


馬車の中で、のんびりとした時間を過ごしていると

直ぐに、目的地となる市場に到着する。


ここは、市場の外れにある馬車の停車場所。


御者を務めるネッドに、馬の番を任せ、エンデ達は市場へと向かった。


市場に近づくにつれ、まだ午前中だというのに、大勢の人の姿が目に留まる。


──流石に、王都は、違うなぁ・・・・・


そう思いながら、エンデ達も、その賑わいの中に溶け込んでいく。


市場を散策しながら、買い物をしていると、

薄暗く、細い路地で、屯している少年達の姿が目に留まった。



彼らは、ボロボロの服を着ているわけではなく、

どちらかと言うと、高そうな衣服を身に纏っているせいか

エンデは、余計に、気になった。


──何をしているんだろう・・・・・


暫くは、様子を伺っていたが

買い物を終えたエヴリンに手を引かれ、次の場所に向かう事となり

その場から離れた。



その後、3人の買い物に付き合いながら、市場散策を楽しんでいると

突然、道を塞がれる。


──この人達、さっきの・・・・・


エンデ達の道を塞いだのは、あの路地で見た少年達だった。



「おい、お前、さっき俺達を見ていたな」


「僕に何か用ですか?」


「そうそう、用事だよ。


 まぁ、お前というよりは、そっちのお嬢さん達に用があるんだ」


男の中の一人が、そう言って、ジャスティーンの腕を掴んだ。


「きゃぁ!」


声を上げるジャスティーン。


少年は、嫌がるジャスティーンの様子を見て、楽しそうに笑う。



「あんた達、嫌がっているのが、わからないの?


 その手を離しなさい!」


エヴリンが睨みつけると、ジャスティーンを掴んでいる少年が笑みを浮かべる。


「出来るものなら、やってみな」


その言葉に従い、エブリンが少年の腕を掴むと

突然、大げさに叫び声をあげた。


「うわぁぁぁぁ!!!

 痛い!痛い!」


大げさに痛がる少年に、仲間が声を掛ける。


「おい、【ラドルフ】、大丈夫か?」


「う、う、腕がぁぁぁ!」


その場でしゃがみ込み、大声で叫び続けている。


そんなラドルフに寄り添いながら、

仲間と思われる少年達が、エヴリンを睨みつけた。


「おいおい、どうしてくれるんだよ!

 怪我をしたみてぇじゃねえか!」


声を掛けて来たのは、少年達のリーダーの【ロナウ】だ。


ロナウは、言葉を続ける。


「これ、どうするんだよ。


 なんなら、出るとこ出てもいいんだぜ。


 こっちには、大勢の目撃者がいるんだからなぁ」


そう言い終えた後、ロナウが辺りを見渡すと、

露店を出している人達が、気まずそうな顔をした。



ロナウは、そんな様子にも、気に留めることなく

一番近くで露店を開いていた男に、話しかける。


「なぁ、あんた、証言してくれるよな?」


「は、はい、も、も、勿論です」


露天商の男の返答を聞き、エヴリンは、眉を顰める。


「はぁ?


 どう見ても、先に絡んできたのは、こいつらでしょ。


 おじさん、見ていたんだから、知ってるはずよね!」


エブリンの問いかけに、露天商の男は、

気まずそうに『さっ』と顔を逸らした。



「おじさん・・・・・・」



男達は、ニヤニヤした表情で、エブリン達を見ている。


ロナウは、エヴリンの肩に手を置く。


「いいか、よく聞け。


 俺達だって、騒ぎを大きくしたい訳では無いんだ。


 ちょっと、俺達のいう事を聞いてくれれば、今回の事は、見逃してやるぜ」


ロナウは、エブリンに、顔を近づけた。


次の瞬間。


『パァァァァァン!!!』


大きな音が響く。


「え?????」


突然の出来事に、ロナウも驚いている。


普通の少女なら、ビビッて、震えたかもしれない。


だが、ここにいるのは、エヴリンだ。


彼女に対して、この様な行為は、愚行でしかない。


一瞬、何が起こったのかわからなかったロナウだったが、

正気に戻った途端に、ビンタをされたと理解し、

怒りが込み上げてくる。


「貴様、誰に手を出したのか、わかっているのか!」



いくら凄んで見せても、

頬についた手の跡が、あまりにも見事で、滑稽に見えてきた。


事実、エンデは、『クスクス』と笑っている。


その態度に、益々、怒りを覚えるロナウ。


「クソガキが・・・・・ケラケラ笑いやがって・・・・・」


ロナウは、仲間達に命令をした。




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