第27話冒険者ギルド 結末

ヴィネーゼは、エンデ達と共に、職員の帰りを待っている間

頭を悩ませていた。


──また、要らぬことをしてくれたものだ・・・・・


先程、なんとか騒ぎを収めたところだというのに、この騒動。


完全に、ギルドが約束を破ったと思われても仕方がない。



不安に駆られながらも、

ヴィネーゼが待っていると、

息を切らせた職員が戻って来た。


「た、ただいま、戻りました・・・・・」


後に続くように、他の職員達も戻ってきたが、一様に顔色が悪い。



ヴィネーゼは、戻って来たギルド職員の【トマソン】に

話を聞こうと思った時、トマソンの手に握られている

冒険者プレートに、気が付いた。


「まさか・・・・・」



トマソンの手に握られているプレートの数は、全部で9枚。


どのプレートにも、べったりと血が付いていた。


「これを・・・・・」


トマソンが、ヴィネーゼに、プレートを差し出す。


「これは、本当なのか・・・・・」


未だ、信じられないヴィネーゼは、エンデの方に向き直る。

 

ヴィネーゼとしては、怪我を負い

動けない程度の事だと思っていたのだが、

事実は、手渡されたプレートが物語っていた。


9人もの冒険者が、殺された事実に、怒りがこみ上げる。


感情に任せて、ヴィネーゼは、エンデに詰め寄った。


「これは、どういう事ですか?」


言葉の端々に、怒気を孕んでいる。


だが、エンデは、そんなヴィネーゼを気にする素振りも見せず、言い放つ。


「さっきも言ったけど、襲って来たのは、こいつらだよ」


エンデの差し示す方向には、スコールの姿がある。


「こいつだけは、話が聞きたいから、生かして連れて来たけど・・・・・

 もしかして、不満?

 生きていると都合が悪かった?」


エンデのその言葉を聞き、『ハッ』とした表情を見せた後

ヴィネーゼがエンデを睨みつけた。


「まるで、ギルドが仕掛けたと思っているような言い草だな」


「うん、半分は、そう思っているよ」


「貴様・・・・・」


確かに、そう思われても仕方が無いことは理解しているが

このまま、身に覚えのない罪を着せられることは御免だ。


ヴィネーゼは、エンデの言葉を、全力で否定する。


「私は、そんな命令は出していない。


 それに、貴様を殺すことになれば、この私の手で殺す」


その言葉を聞き、エンデの表情が変わる。


「ふ~ん、僕に勝てると思っているんだ・・・・・・」


小さく呟いた言葉だったが、

エルフであるヴィネーゼの耳に届いてしまい。


先程以上に、険しい表情へと変化したヴィネーゼ。


「おい、今、何と言った!?」


その言葉に、不味いと感じたエブリンは、

話を変える為、2人の間に割って入る。


「2人とも、落ち着いて!

 ね、ねぇ、ヴィネーゼさんでしたね。


 本当に、貴方達の仕業では無いのね」


「勿論だ」


「そうなの・・・・・わかったわ。


 この件は、保留にしておいてあげる。


 でも、私達が『ギルドの命令か?』って聞いたら、

 顔を背けて、何も喋らなかったのよ。


 これでは、疑われても、仕方ないでしょ」


エヴリンの話を聞き、

ヴィネーゼは、ギルドで屯している冒険者達へと視線を移す。


「おい、お前達らの中に、この一件について、何か知っている者はいるか!?」


通常モードではなく、完全に、お怒りモードのヴィネーゼの言葉に

冒険者達は、沈黙している。


それは、恐怖からというのもあるが、

それとは別に、仲間を売る事に抵抗があるからだ。



そんな思いの冒険者達を、見渡すヴィネーゼ。


誰一人として、ヴィネーゼと目を合わせようとはしない。



同時に、上位ランカーであるスコールの仲間が

たった1人の子供に殺されたという事実に、

冒険者達の酒を飲む手が止まっている。


その中に、顔を青くしている2人の男いた。


彼らは、俯き、顔を背けているが

ヴィネーゼの目は、その2人を捉えた。


「【デント】、【イーゴ】、どうした?

 顔色が悪いぞ・・・・・


 もしかしてだが・・・、お前達、何か知っているのか?」




名指しで、声を掛けられた2人は、お互いの顔を見合わせた後、

床に、座らされているスコールへと視線を向ける。



2人と目が合ったスコールは、歯を食いしばりながら顔を背けた。


そして、再び顔を上げ、何かを語るような目で、2人に訴えかける。


──お前ら、黙っていろよ・・・・・・


その意図に気付いた、デントとイーゴは

固く口を閉ざした。


だが・・・・・


そんな態度を取るという事は、『知っている』と吐いたも同然。


ヴィネーゼは、2人に告げる。


「お前達が、ここで黙秘する事が正しい行為だと思うなら

 それで、構わん。


 貴様がそう思ったのなら、仕方がない。


 だが、1つだけ伝えておこう。


 貴様らが黙秘するという事は、

 この度の一件は、ギルドだけでなく、

 ここにいる全員が、共犯と捉えられても、文句は言えんぞ」


「そ、そんな・・・嘘だろ・・・」


「嘘なわけがあるか!

 第1に、この度の愚行に関しては、

 相手側に譲歩して頂いて、和解へと導けた話だったのだ。


 それなのに、ギルドから出た途端に、冒険者達に襲われたのだぞ。


 誰がどう考えても、和解に納得していないから、

 襲撃したと思われても仕方がない」


捲し立てる様に、一気に話したヴィネーゼは、大きく息を吐いた後

話を続けた。


「いいかよく聞け、まだ話は思わっていない。


 この先の話の方が、重要なのだ」


「どういう事だ?・・・」


疑問を投げかけた冒険者に対してだけではなく、

この場にいる者達に全員に告げる。


「彼らは、貴族であり、子爵家のご子息とご息女なのだぞ」


その一言で、理解した。


その場にいる冒険者達から、ざわめきが起きる。


同時に、無関係の冒険者達から、非難の声が上がった。


「イーゴ、お前達が何を企んだかは知らんが、俺達まで巻き込むな!」


「そうだ!

 知っていることがあるなら、早く話すんだ!」


普段、仲良くしていた冒険者たちから浴びせられる言葉に、

疲弊ひへいしていく2人。


それも仕方がない事なのだ。


この事が、公にさらされれば、最悪『不敬罪』で、

死罪まであり得るのだ。


それに、万が一助かったとしても、今後、どの街に行っても

歓迎されなくなる。


どちらにしろ、死活問題である事に、変わりはない。


その為、冒険者達は、己の関与を否定する為にも

2人の口を割らなければならないのだ。


だが、再三の説得にも、彼らは応じない。


だんまりを決め込んでいる。


そうなれば、彼らの行動も、直接的なものへと変化する。


痺れを切らした冒険者の1人が、彼らの背中を蹴り上げたのだ。


すると、それに続くように、

1人、また1人と、2人を攻撃する者達が増え始めた。


響き渡る罵詈雑言の中、時折、聞こえて来る鈍い音。


自白するまで、続くであろう出来事に、

2人の中の1人、デントが、とうとう口を開く。


「は、話す・・・話すから・・・勘弁してくれ・・・」


冒険者達からの攻撃が止むと、ヴィネーゼが

デントの前に立つ。


「では、話してもらいましょうか 」


「ああ・・・・・

 俺達は、ランバーさんと仲が良かったんだ・・・・・

 でも、そこの小僧のせいで・・・・

 だから、その・・・・・し、仕返しを・・・・・」



たしかに、ランバーとスコール達は、仲が良かった。


いや、正確には、ランバーの手下的な存在だったのが、スコールなのだ。


そのスコールは、今回の処分に不満を抱いていた。


何故、ランバーさんだけに、『降格』と『罰金』という処分が下されなければ

ならないのか?。


今までだって、新人いじめについて、

ギルドは、沈黙を貫いてきた筈だと、スコールは思っている。


だから、今回だけ処分が下るのは、おかしい。


どうしても納得できない。


そう思っていた時、ランバーと仲の良かったギルド職員【セイク】から

情報を得る事が出来た。


だからこそ、先回りし、待ち伏せが可能となったのだ。


彼らは、エンデを痛めつけて

ランバーの仇を討とうとしたのだ。


だが、ランバーに迷惑が掛かっては、意味が無いので、

スコールは、口を割らなかった。


話を聞き終えたヴィネーゼは、

思わず、呆れた顔する。



「完全な逆恨みで、9人もの冒険者が、命を落としたなんて・・・・・」


返す言葉もない。


彼らにとっては、大切な事だったのかも知れない。


だが、ヴィネーゼからしたら、

馬鹿げた行為にしか思えない。


そんな事で、ヴィネーゼは責められ、戦闘にもなりかけた。


それに、彼らの行動は、冒険者ギルドの名を汚す行為。


この国の冒険者ギルドの中心でもある王都冒険者ギルド。


その名を貶める行為を、許せる筈がない。


「デントとイーゴ、それにスコール。


 あと、セイク!」


突然、ヴィネーゼに、名前を呼ばれたセイクは、

慌てて逃げようとしたが、

他のギルド職員たちの手によって、捕らえられた。


「貴様らの行為は、冒険者ギルドの名を貶める行いだ。


 覚悟しろ!」


職員までが、関与していたことに驚きを隠せないが

これで、冒険者ギルドの潔白は、証明出来たといえる。




この後、4人は、ギルドの職員達の手によって、

地下にある牢獄に収監された。



騒ぎが収まり、静まり返るギルドフロア。


ヴィネーゼとエンデの前に、ランバーが立つ。


「今回の事、全て俺の責任だ」


「そうだ、日頃から、再三、注意していたはずだ・・・・・」


「ああ、わかっている」




今まで、聞く耳を持たなかったランバーも

今回の出来事で、自分の過ちを痛感している。


ランバーは、エンデに歩み寄ると、

丁度、正面で立ち止まった。


「9人が、命を落とした。


 あれは、俺のせいだ・・・・・」


「うん・・・・・」


ランバーは、エンデと向き合っている。



「そう言う事だから、

 今回の責任は、全て俺にある。


 ギルドは無関係だ。


 俺の事は、好きにして構わない。


 だから、あいつ等を、許して貰えないだろうか?」




ランバーは、床に膝をつき、エンデに頭を下げた。




エンデは、どうしていいのかわからず、エヴリンを見る。


『はぁ~』と溜息を吐きながら、エンデの代わりに声をかけた。



「貴方達は、子爵家に敵意を向けたのです。


 そう簡単に、許せることでは、ありません」


「わかっている・・・・・」


「それに、ギルドの信用問題もあります」


「・・・・・ああ」


「なので、それ相応の対価を払って頂きます」


ランバーが、顔を上げる。


「対価?」


「ええ、対価です。


 貴方達には、冒険者を辞めて頂きます。


 そして、ギルドの信用が戻るまで、ここで働きなさい。


 それが、私からの条件です」




『後は、貴方にお任せするわ』


そう言って、エヴリンは、ヴィネーゼに、バトンを渡した。


突然告げられた提案に驚いた顔をしていたが、

ランバー達を、雇用することに決めた。




「自分達の失態は、その身で返しなさい。


 給料は、安いです。


 今までのように、毎日酒場にも行けなくなるでしょう。


 それでも構いませんか?」


「ああ。


 それが、罪滅ぼしになると、いうのであれば構わない。


 感謝する」


ランバーは、この提案を、あっさりと受け入れた。


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