第26話冒険者ギルド3

ヴィネーゼは、

エブリンとの話し合いを優先して、結論を出す事にした。


その結果、今回の騒ぎについて、

子爵家への報告は、ギルドからの謝罪の手紙も添えて

エヴリンが手紙を送ることになった。



こうして、エヴリンが説明することで、

ヴァイス家の事は抑えてもらい、

ギルドとしては、ランバーに、降格の処分と、ギルドへの罰金。

エンデへの治療費という名目の迷惑料を払うことで決まった。


だが、冒険者が、大金を持っているとは限らない。


ランバーも、想像通り、貯金などは無いに等しく

直ぐに支払う事は無理だったので、

一時的に、冒険者ギルドが、立て替える事となった。


勿論、冒険者ギルドは、立て替える為の条件を提示した。


その条件とは、支払い終えるまで間、

冒険者ギルドからの依頼は、必ず受ける事とのこと。


ギルドからの強制依頼は、一般的に、誰も受けない依頼。


所謂、不良案件だ。


それは、依頼者との付き合いがあり、仕方なく安価で受けたものや

リスクを伴う、危険な依頼などである。


当面、ランバーは、ギルドの管理下に置かれ、

そういう仕事を、優先して受ける事になった。


続いて、ナウールだが、

彼は、割って入っただけで、 罪は犯していない。


それに、ナウールを裁いてしまうと、

その場にいた全員を、裁かなければならなくなる為

お咎めなしとした。


だが、二度と、同じ過ちを犯さないようにする為

冒険者全員に、今回の事を通達し、

今後、同じような事があれば、

それに関わった者は、全員、厳罰に処すことも記している。



これ以上、騒ぎを大きくすれば、自分達も屋敷に戻される可能性もある為

エヴリンは、この条件を受け入れた。


話し合いを終えたヴィネーゼは、改めて、冒険者ギルドからの謝罪という事で

エンデ達に頭を下げると同時に、迷惑料を支払った。


話が纏まったところで、エンデ達は、ここに来た本来の目的を果たす事にする。


落ち着きを取り戻したヴィネーゼの前に、

ジョエルが、懐から冒険者の証であるプレート取り出し、テーブルに並べた。


「これは?」


「王都に来る途中で盗賊達に襲われ、命を落とした者達の物です」


「どういう事ですか?」


「実はですね・・・・・」


ジョエルは、王都に来る途中で、盗賊から襲撃を受けた件を

掻い摘んで説明をした。


話を聞き終えたヴィネーゼは

プレートを手に取り、名前を確認する。


「本当に、残念です。


 この盗賊討伐の依頼は、前から提示しているのですが・・・」


ヴィネーゼの説明によると、アジトの場所に、人数、

そのあたりも、まだ、把握できておらず、

斥候を含めた冒険者達を、募集している状況との事だった。


そう説明したヴィネーゼは、ふと、疑問に思った。


「あの、護衛の冒険者達は、全滅したと仰いましたよね」


「ええ」


「では、どうやって?・・・・・」


「ああ、その事でしたら・・・」


ジョエルは、エヴリンに視線を向ける。


「ん?

 盗賊なら、倒したわよ」


その言葉を聞き、ヴィネーゼは、驚きながらも、もう一度、ジョエルの顔を見た。


ジョエルは、ゆっくりと頷いた後、ここに来た理由を説明する。


「それで、数人は、生きたまま捕らえて、門兵の方に 引き渡したところ、

 こちらで、依頼が出ているとの事だったので

 こうして、寄らせて頂いた次第です」


話を聞き、本来なら、喜ぶところだが、

それ以上に、ここにいる子供達が倒したという事実に、驚きを隠せない。


それは、ヴィネーゼだけでなく、ランバーとナウールも同様だが

特に、ランバーは、とんでもない奴に、喧嘩を売った事に気付き

愕然としている。


「おい、ランバー、命拾いしたな」


ナウールのその言葉に、

ランバ―は、『ああ・・・』としか言葉を返せなかった。



静まり返る部屋の中、エンデが口を開く。


「ねぇ、僕は、冒険者ではないけど、

 討伐料って、貰えるの?」


「え、ええ、勿論です。


 直ぐに準備を致します」


そう返事をしたヴィネーゼは、

直ぐに、ギルド職員を呼びつけ

討伐料支払いの手続きをするように伝える。


その後、暫くしてギルド職員が、討伐料の入った小袋を持って現れた。


それを受け取ったヴィネーゼは、そのままテーブルに置いた。


「これが、今回の討伐料です」


テーブルに置かれた小袋を受け取るエヴリン。


「これで、用事は終わりね。


 エンデ、帰るわよ」


立ち上がった後、エンデの手を引き、部屋を出て行くエヴリン。


その後ろで、ヴィネーゼに一礼をし、部屋を出て行くジョエル。


皆が出て行った後、ヴィネーゼは、大きく溜息を吐くと

ランバーとナウールに視線を向ける。


「貴方達、命拾いしたわね」


その言葉は、思った以上に重く伝わり、

2人は、愕然としていた。



プレートを渡し終えたエンデ達は、冒険者ギルドから出ると

馬車を待機させているに広場に向かって、歩き始めた。


「なんか、思ったより、長居してしまったわね」


「うん」


ジョエルの案内で、馬車を止めている広場に向かっていると、

先程の冒険者ギルドでの一件を、こころよく思わない者達が道を塞ぐ。


彼らは、ランバーの仲間。


仲間がやられて、黙っていられなかったのだ。


彼らは、エンデ達がヴィネーゼに連れて行かれた後、

仕返しをする為に、直ぐに冒険者ギルドを出て行ったので

その後の事は知らない。


だからこそ、こんな暴挙に出る事が出来た。


正面に立つ男が、エンデ達を睨みつける。


「おい、お前、このまま無事に帰れると思うなよ」


その言葉を合図に、隠れていた冒険者達が

ゾロゾロと姿を現す。


溜息を吐き、冒険者達を睨みつけるエヴリン。


「あんた達、まだ懲りていないの?」


正面に立つ男【スコール】が叫ぶ。


「女は、すっこんでな!

 俺達が用があるのは、そこのガキだ」


武器を抜き、戦う気満々の冒険者達。


狙いはエンデ1人。


「おい、くそガキ。


 調子に乗ったことを、後悔するんだな」


有無を言わせず、一斉に襲い掛かる冒険者達。


エンデに、逃げ道はない。


「死ねぇぇぇぇ!!!」


痛めつけるだけと言っていたが

その攻撃は、殺す気満々に思えた。


エンデが、ボソッと呟く。


「そういうつもりなんだ・・・・・・」


エンデは、襲い掛かる冒険者を無視して

右手を空へと向けた。


その瞬間、光のカーテンがエンデを包み、敵の攻撃を防ぐ。


攻撃が弾かれ、思わず尻餅をつく冒険者達。


そんな冒険者達に向けて、ゆっくりと歩きだすエンデ。


立ち上がった冒険者達は、武器を構える。


エンデは、やる気だ。


この場で、エンデを抑えることが出来るのは、

エヴリンだけだが、止める気などない。


それどころか、発破を掛ける。


「やっちゃえ!」


「うん、わかった」


そう返事をした瞬間、エンデの姿が消える。


「えっ!?」


驚く冒険者達。


だが、直ぐに我に返ることになる。


その中の1人が、胸を貫かれたのだ。


その場に倒れ込む仲間の姿に、動揺が走る。


「まず、1人・・・」


そう呟いたエンデは、

直ぐに2人目へと向かった。


再び姿を消したエンデ。


何処から現れるか分からない冒険者達は、

必死に、耳を澄ませるが、そんなことで、わかるはずが無い。


当然のように、2人目の犠牲者が出る。


背後に現れたエンデに、首を飛ばされたのだ。


2人目・・・


あっという間に、2人が殺されたことで、

冒険者達の意識に、変化が起きる。


「おい、これ、勝てるのか?」


「わからん・・・だが、後に引けるかよ!」


「そ、そうだな・・・」


そんな会話をし、覚悟を決めた冒険者達だが、

次々に、仲間が倒されていくと、

そんな覚悟も、何処かへ、吹き飛んでしまった。


もう、武器を握る手にも、力が入らない。


生き残っているのは、あと2人。


スコールと、もう1人。


その2人の前に

姿を現したエンデの服や顔には、返り血が付いている。


その姿に、恐怖が増す。


「かかって来ないの?」


そう告げたエンデに、力を振り絞り、スコールが襲い掛かる。


剣を振り上げ、距離を詰める。


そして、間合いに入った途端、その剣を振り下ろした。


だが、その剣は、空を切るだけで、エンデを捉えることは出来なかった。


その為、背後からの攻撃に備えて

振り返ったスコールが目にしたのは、

仲間の殺される姿だった。


「おい・・・なんなんだよ・・・」



10人いた筈の冒険者は、9人が死亡し、

残っているのは、スコール、ただ1人だけとなり

愕然とする。


「おじさんだけになったね」


距離を詰めるエンデに、思わず後退るスコール。


もう、戦う意思など、残っていない。


ゆっくりと近づき、スコールを間合いに捉えた瞬間

エヴリンが叫ぶ。


「エンデ、そいつは、殺しちゃダメ!」


「うん、わかった」


エンデは、エヴリンの言葉に頷くと、

スコールの剣を、弾き飛ばした。


「これでいい?」


「ええ上出来よ」


満足そうに頷いたエブリンは

スコールに近づく。


「これは、誰の指示?

 もしかして、冒険者ギルド?」


スコールが、顔を逸らす。


「答える気はないのね、

 なら、戻って聞いてみるしかないわね」


エヴリンの命令に従い、エンデは、スコールを引き摺りながら、

来た道を引き返し、冒険者ギルドへと向かう。


スコールを引き摺るエンデの後ろを、ついて歩くエヴリン達。


冒険者ギルド前に着くと、エンデは、扉を蹴破った。


『ドゴーン!』と大きな音を立てて吹き飛ぶギルドの扉。


当然、中にいた人達の視線を集めるが

そんな事、気にする素振りも見せず

姿を見せる、先ほど帰ったはずのエンデ達。


そのエンデの手には、引き摺られ、ボロボロになったスコールの姿があった。


受付に座っていたギルド職員は、急いでヴィネーゼを呼びに走る。


スコールを放り投げるエンデ。


「これ、どういう事?」


受付に残っていた職員に問いかける。


「あの・・・・・少々お待ちください」


おおよその見当はつくが、あまり考えたくない。


先程、謝罪をしたばかりなのに、

再び、冒険者が、エンデに襲い掛かったのだ。


これ程、最悪の事はない。


──この人達、何を考えているの?・・・・・・


女性職員は、放り投げられ、意識を失っているスコールを睨む。



そうこうしている間に、ヴィネーゼが姿を見せた。


エンデが、ヴィネーゼに向けたその目には、

殺意が込められている。



「ねぇ、さっきの約束は、僕達を油断させる為なの?

 これが、本当の狙い?」


ヴィネーゼは、全力で、首を横に振る。


──誤解だけは解かねば・・・・・・

  本当に、何をしてくれるんだ・・・・・


謝罪を後回しにしたヴィネーゼは、職員に命令し、スコールを捕えた。


だが、これで終わりではなかった。


エンデが告げる。


「襲って来たのは、その男だけじゃないから、

 向こうにも、沢山いるよ」


エンデが指したのは、馬車の待機場所の方。


ヴィネーゼは、顔を強張らせ、職員に告げる。


「急いで、見て来て!」


その言葉に、手の空いていた職員達は、

ギルドの外へと、飛び出して行った。


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