第25話冒険者ギルド2

彼女は、ギルドマスターの【ヴィネーゼ】。


エルフの女性。


「貴方達、いったい、何をしているの?」


「いや、この子が・・・・・」


ナウールが、咄嗟に何か言おうとしたが、エンデが遮る。


「最初に、仕掛けて来たのは、このおじさんだよね」


エンデが指を差したのは、床で蹲っているランバーだ。


腕を折られ、額から脂汗を流しながらも、

ヴィネーゼに、訴えようとしている。


「こいつらが・・・・・」


あくまでも、自分達は悪くないと、アピールしようとしているようだが、

あまりの痛みに、上手く言葉に出来ない。


その姿に、溜息を吐くヴィネーゼ。


「もういいわ。


 詳しい話は向こうで聞くから、貴方達もついて来てくれるかしら?」



そう伝えた後、ヴィネーゼは、ギルドの職員に、

ランバーの治療をするように伝えた。


ヴィネーゼの案内で、ギルドの奥に向かって歩き出すエンデ達。


通された部屋で、席に着くと

ジョエルが、ヴィネーゼに、声を掛ける。


「ヴィネーゼ様、お久しぶりで御座います」


ジョエルの顔を見るヴィネーゼ。


「確か、貴方は・・・・ジョエル商会の・・・・」


「はい、覚えていて下さって有難う御座います。


 会長のジョエルで御座います」


「もしかして、この子達は、貴方のお知り合いかしら?」


その質問に答えたのは、エヴリン。


「知り合いというか、ジョエルは、お父様の所に、出入りしている商人よ」


『出入りしている商人』


所謂、御用商人だ。


その言葉だけで、ヴィネーゼの顔色が悪くなる。


──まさか・・・・・


思わず、ジョエルの顔を見ると、

諦めたように、ジョエルが答えた。


「はい、

 この方々は、エヴリン様とエンデ様。


 マリオン ヴァイス子爵家のご息女とご子息でございます。


 この度、私の娘たちと一緒に、学園に通うことになりましたので

 こうして、ご案内してきた次第で御座います」

 

ヴァイス子爵家、その家名は、ヴィネーゼも知っている。


また、一介の冒険者が、

手を出しても、よい相手では無いことも、理解していた。


大きく溜息を吐くヴィネーゼ。


遅れて仲裁に入ったナウールも、顔色を失っている。


まさか、子爵家の子供達が相手だと、思っても見なかったのだ。


状況が、悪すぎる。


結果はどうあれ、貴族の子供たちに、

大の大人である冒険者が、喧嘩を売った事実に変わりはない。


ヴィネーゼが、なんとかこの場を収めようと考えていると

ナウールが立ち上がる。


「わ、私は、あいつを助けようとしただけですので

 失礼します」


それだけ伝えると、静かにその場から、立ち去ろうとした。


しかし・・・・・


「何処に、行こうとしているのだ!?」


ヴィネーゼに、呼び止められた。


「いや、その・・・・・」


相変わらず、歯切れの悪い言葉しか話さないナウールに、

ヴィネーゼが、叱咤する様に言い放つ。


「貴様は、そこから動くな!

 しっかりと事情を聞くからな!」


「・・・・・はい」


逃げる事が許されず、その場で立ち尽くすナウール。


そんなナウールを放置した状態で、

ジョエルが、口を開く。


「私も、このお二方をお預かりしている以上、

 報告する義務が御座いますので・・・・・ご理解ください」


先程までとは違い、顔つきのが変わったジョエルの言葉に

緊張が走る。


「貴方の立場も、十分理解しています。


 ですが、私も、騒ぎに気付いて、駆け付けたところですので

 詳しい事情は、まだ、理解しておりません」


「そうですね・・・・」


「もちろん、事情を聞いた後、きっちりと、けじめは、つけさせていただきます」


「わかりました。


 では、その言葉を信じましょう」



ジョエルの返事を聞き、安堵したヴィネーゼは、

未だ、立ったままの、ナウールに問いかける。


「貴方は、最初から、最後まで見ていたんですよね」


ヴィネーゼの問い掛けに、顔が強張る。


「あ、その・・・」


相変わらず、口籠るナウールは、額に汗を掻いている。


そんなナウールに、追い打ちをかけるジョエル。


「先にお伝えしておきますが、ここでの会話は、

 ヴァイス子爵家、当主、マリオン様に、

 そのままお伝え致しますので、

 良くお考えになってから、お話しください」


これは、ナウールに対する牽制でもある。


『いらぬ暴言を吐けば、そのまま伝えるので、お前達は覚悟して話せ』


ジョエルは、そのように言っているのだ。


勿論、ヴィネーゼも、ナウールも、

その意味を理解している。


その為、迂闊に喋る事が出来なくなった。


貴族を相手に嘘を吐けば、『不敬罪』で、罰せられる可能性もある。


重々しい空気の中

そこに、治療を終えたランバーが、姿を見せた。


部屋の雰囲気から、状況が芳しくない事は、一目瞭然。


黙って立ち尽くしていると、ヴィネーゼが、声を掛ける。


「何を突っ立っているのですか?


 貴方は、当事者ですので

 正直に、話す義務があります。

 ですが、その前に、この方たちを、ご紹介しておきますね」


そう告げたヴィネーゼが、改めて、エンデ達を紹介すると

ランバーも、ナウール同様、顔色を失う。


一気に、既に酒が抜け、自身の行動を反省するしかないランバー。


ランバーは、エンデ達の事を、小金持ちの息子程度にしか思っていなかったのだ。


日頃から、新人冒険者を甚振いたぶっていたランバーからしてみれば

冒険者ギルドに立ち寄ったエンデ達は、格好のおもちゃ。


だから、いつものように、因縁をつけた。


後は、適当に甚振って、放り出せば済む。


そう思っていた。


だが、目の前の椅子に座っているのは、本物の子爵家のご子息とご息女。


『貴族なら、護衛の兵士位連れておけ!』


思わず、そう言いたくなるが、そんな事を考えても、仕方がない。


喧嘩を売った事実は、覆せない。


ナウール同様、言葉に詰まるランバー。


そんなランバーに、ヴィネーゼが告げる。


「取り敢えず、正直に話しなさい。


 全ては、その後です」


覚悟を決めたランバーが、口を開く。



一連の話を聞き、頭を抱えるヴィネーゼ。


完全に、喧嘩を吹っかけたランバーが悪い。


──新人いじめも、問題だが・・・・・

  今は、それよりも・・・・どうすればいいのだ・・・・・・


煽るような真似をし、助ける事もしなかった者達も、

万が一、処分の対象となれば、ギルドとしての活動が止まる。


それは、避けたい。


しかし、このままというわけにもいかない。


話し終えたランバーとナウールも、呆然としている。


事の重大さに、気付いているのだ。



解決策の見出せないヴィネーゼは、

ジョエルに助言を求める。


「ジョエル殿、貴方に問うのは、お門違いだとわかっている。


 しかし、このままでは、冒険者ギルドの活動まで、止まってしまうのだ。


 何か、いい案は無いだろうか?」


「そうですね・・・・・」


考え込むジョエル。


そこに、エンデが口を挟む。


「2人に、死んでもらったら?

 何なら、僕が殺そうか?」


その言葉に、絶望する2人。


確かに、貴族相手に、喧嘩を売ったのだから

不敬罪で裁き、事を納める事は可能だ。


だが・・・・・


『ゴンッ!』


表情を変えず、言い放ったエンデの頭に、ゲンコツが落ちる。


落としたのは、エヴリン。


「すぐに、そう考えるのは、ダメって教えたでしょ」


「でも、話が纏まらないみたいだから・・・・・」


「それでも、ダメ!

 いい?

 わかった?」


「うん、わかったよ・・・」


素直に、エヴリンのいう事を聞くエンデ。


その会話から、エヴリンと話をした方が、

安全に事が運ぶことを確信するヴィネーゼだった。


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