第24話王都 冒険者ギルド

エヴリンは、これまでの経緯を説明し、盗賊達をこの場で引き渡した。


だが、捕らわれていた女性と子供、それに関係のある男は、

引き渡してはいない。


この者達については、マリオンに任せる事にしたので、

このまま、ジョエルの屋敷に、連れて行くつもりなのだ。




盗賊達の受け渡しを終えたエンデ達に、兵士が話し掛ける。


「ご協力、感謝いたします。


 あと、冒険者ギルドが、盗賊討伐の依頼を出していると思いますので

 一度、立ち寄って頂ければ、有難いです」


「わかりました。


 それでは、この後、冒険者ギルドに寄ってから、屋敷に戻ることにします」


会話を終えたエンデ達は、

書類などにサインをした後、詰所を後にした。


無事、王都の街に入る事の出来たエンデ達は、

ジョエルの案内に従い、冒険者ギルドを目指す。


街の大通りを抜け、繁華街の手前にある大きな建物の前で馬車が止まる。


「ここが冒険者ギルドです」


「大きいね・・・・・」


馬車の中から、建物を見上げるエンデに、エブリンが声を掛ける。


「何をしているの?

 さっさと入るわよ」


既に、馬車を降りていたエヴリンとジョエル。


エンデも慌てて馬車から降りた。


エブリンは、エンデの手を引き、冒険者ギルドの中へと入ると

ジョエルも、その後に続き、冒険者ギルドの中に入って行った。


ジョエルが、同行する理由は、

盗賊との戦いで、命を落とした冒険者達のランクプレートを渡す為。


冒険者ギルドの中には、

『いかにも』と思えるような者達が、屯しており

中に入って来たエンデ達に、視線を向けている。


しかし、そんな視線など、気に留める事も無く

物珍しそうに、『キョロキョロ』と辺りを見渡すエヴリンとエンデ。


「ここが、冒険者ギルドなのね・・・・・」


エヴリンが、そう呟いた時、

様子を見ていた冒険者【ランバー】が、

声をかけながら、近づいて来た。


「坊ちゃん、嬢ちゃん、此処になんか用か?」


話しかけて来たランバーの息は、酔っているのか、物凄く酒臭い。


エヴリンは、顔をしかめ、少し距離を取る。


しかし、エンデは、その場で鼻をつまみ、手で扇いだ。


「おじさん、酒臭いね」


その態度に、明らかに、ランバーの表情が変わると

面白半分に、他の冒険者達からヤジが飛ぶ。


「ランバー、お前、酒臭いってよ」


その言葉で、ギルド内に、笑いが起きると

ランバーの顔が、真っ赤に染まる。


「てめえら、黙ってろ!」


そう吐き捨てたランバーは、エンデへと視線を向けた。


「おい、ガキ、誰が酒臭いって?

 もう一回、言ってみろよ」


凄みを効かせた声で、顔を近づけて来る。


普通の子供なら、怖がったり、泣き出したりするところだが

相手はエンデ。


表情一つ変わらない。


それどころか、鼻をつまみ、顔を背けた。


「おじさん、もう少し、離れて話してよ、

 臭すぎて、耐えきれないよ」


火に油を注ぐような、その態度に、

ランバーは、殺意をみなぎらせる。


「クソガキ、調子に乗るなよ・・・」


今にも襲い掛かろうとしているランバー。


この様な状況になっても、どの冒険者も、止めようとはしない。


それどころか、楽しんでいるようにも思えた。


エンデは、エヴリンを遠ざける。


「お姉ちゃん、あいつ本気みたいだよ」


「そうみたいね。

 

 でも、あれは駄目よ」


「わかってるよ」


そう告げたエンデは、ランバーの正面に立つ。


「おじさん、僕達を殺す気なの?」


確認するかのように問う。


「さあな・・・・・

 だが、事故で、そうなったのなら・・・・仕方ないよなぁ」



酔っているせいもあるのか、ランバーの発言は、

エンデにとって、許容できるものではない。


「ねぇ、事故でも、僕達を殺すってことは、

 殺されても文句は言えないよね」


「ほぅ・・・ガキのくせに、分かっているじゃねぇか。


 なら、死んでも文句言うなよ」


ランバーは、完全にやる気だ。


エンデも、向かって来るなら容赦はしない。


それに、今は後ろにエヴリンもいる。


エンデは、エヴリンを守るために、一歩前に踏み出た。


「エンデ・・・・」


呼びかけたエヴリンに、振り向き笑顔を見せるエンデ。


「大丈夫」


そんなエンデに、エヴリンは、念を押す。


「本気出しちゃ、ダメだからね!」


エヴリンの心配は、エンデの力。


エンデが負けるなんて、微塵も思っていない。


だが、この場で、魔力の開放や翼を出しては、大変なことになってしまう。


その事を危惧しているのだ。




だが、エヴリンは、エンデの事を心配するあまり、ランバーの事を忘れていた。


『本気出しちゃ、ダメだからね!』


この一言は、ランバーのプライドを傷つけるには、十分。


まして、冒険者仲間が見守る前で、言われたのだ。


「お前ら、泣いても許さねぇ」


殴りかかろうと、拳を振り上げたランバーは

エンデの顔面目掛けて、拳を振り下ろした。


ここで初めて、見ていた冒険者達も、

ランバーが、本気で殺そうとしていることを理解した。


「おい・・・・・」


『このままでは、あのガキが死ぬんじゃないか?』


誰もが、そう思った。


だが、そうはならなかった。


エンデは、軽やかに拳を躱すと、そのまま腕を掴む。


そして、勢いを利用して、肘の関節を、反対に折り曲げたのだ。


『ゴキッ』


鈍い音と共に、冒険者ギルドに響き渡るランバーの叫び声。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


その叫び声に、ギルド内が、静まり返る。


「何が、起こったんだ・・・・・」


「あいつ・・・・・折りやがった・・・・・」


酒を飲んでいたとはいえ、

Bランクという上位のランカーが、子供に腕を折られたことに

誰もが、息を飲む。


床にうずくまっているランバーのもとに、エンデが近づくと

咄嗟に、1人の冒険者が、間に割って入った。



「もう、いいだろ。


 それくらいに、しておくんだ」


彼の名は、【ナウール】。


ランバーと同じBランクの冒険者だ。


普段なら、Bランクの冒険者が、簡単に負けるはずがない。


そう思っていた。


それに、調子に乗っている子供に、痛い目を見せる程度の事だと考えていた。


しかし、今は違う。


Bランクのランバーが、腕を折られたのだ。


このまま放って置くことなど、出来ない。


だから、ナウールは、割って入ったのだ。


ナウールは、エンデに向けて言い放つ。


「これは、やり過ぎだ。


 腕を折るなんて、何を考えているんだ!」


エンデを𠮟りつけるナウールだが、

もし、ランバーが勝っていたなら、黙って見ていたかもしれない。


それに、本気で止める気があったなら、最初に止めていたはず・・・・・


エンデは、ランバーから、ナウールに標的を変更する。


「おじさんも、僕と戦うの?」


殺意を込め、睨みつける。


エンデから感じる圧力に、思わず腰が引ける。


「いや、そんなつもりはない。


 私は、そんな事をやる為に、出て来たわけではない」


「ふ~ん」


エンデは、不満を口にした。


「僕が殴られかけても、出てこなかったのに 

 このおじさんが倒されたからって、出てくるの・・・・・

 それって、おかしいよね」


エンデは、ナウールから、目を離さない。


「結局、僕たちの事は、どうなってもいい。


 でも、同じ冒険者が倒されるのは、我慢できない・・・・そういう事だよね」


返す言葉もない。


ナウールも、最初は面白がって見ていた。


しかし、ランバーが倒され、危機に陥ったのを見て、助ける為に出て来たのだ。


「もう一度聞くけど、おじさんは、僕と戦わないの?」


ナウールは、今までに感じたことの無いほどの殺気を、浴びせかけられる。


「ねぇ・・・・答えてよ」


「い、いや・・・・・その・・・・・」


口籠るナウール。


この状況に、先程まで、楽しんでいた冒険者達も、見て見ぬ振りをし

エンデと視線を合わせようとしない。


そんな中、突然、声が響く。


「そこまでよ!」


割って入って来たのは、耳の長い綺麗な女性だった。


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