第23話王都へ

盗賊達のもとまで戻ったエヴリンは、

全員を連れて王都に行くことを告げる。


それは、『裁きを受けさせる事』を宣言したようなもの。


その為、多少の反抗は、覚悟していたが、

横に並ぶエンデのおかげか、誰も反抗の意思を示さなかった。



いくら降伏したところで、罪が消えることはない。


だから、王都で、裁きを受けてもらう。


それが、貴族としての義務であり、正しい判断。



物資が増えた為、盗賊の馬車を奪い、

王都へ行く為の準備を進めていると、

捕らわれていた女性が、我が子を抱きながら、

盗賊と思える男を伴い、エヴリンに話しかけてきた。


「お嬢様、あの・・・・・お願いがございます」


そう告げた2人は、地面に膝をつき、

頭を下げた後、男の方が、話始めた。


「俺は盗賊で、沢山の人を殺しました。


 だから、大人しく裁きを受ける覚悟はできています。


 ですが、妻と子は、許してほしい。


 私と妻は、元々は、行商をおこなっていたのですが、

 その最中、盗賊に捕まり、今は、このような有様です。



王都に着いて、妻が、盗賊の妻だと判明すれば、

妻もまた、裁かれることになります。


ですが、お嬢様もご覧になったと思いますが、

女子供は、牢獄に閉じ込められており

自由など御座いません。


まして、人を殺すことなど、できません。


つ、妻が、牢獄を出られるのは・・・・・その・・・・」


突然、口籠った男の様子から、牢獄を出られるのは、

慰み者にされる時だけだと、理解できてしまう。


そうすると、今、抱かれている子の本当の父親は、

この男では無いかもしれない。


それでも、この男は、頭を下げ、懇願しているのだ。


ここまでの話から、その事が理解できたエヴリンは、

男の話を遮り、質問をする。


「話は分かったけど、 

 この事は、奥さんも納得しているの?」


男は、子を抱いている妻の方に顔を向けた。


女性は、俯いたまま、我が子を力強く抱きしめているだけで

返事はない。


しかし、納得していれば、女性の方から、エヴリンに話しかけたりはしない。


出来れば、助けて欲しいと思っているだろう。


だが、自分の口から、それを伝えなければ、どうすることも出来ない。


何も聞かず、今の話だけでエヴリンが行動すれば

勝手に解釈したこととなるからだ。


そうなれば、そこに妻の覚悟も、意志も存在しない。


だからこそ、エヴリンは、強い口調で告げる。


「黙っていても、分からないわよ。


 それから、先に言っておくけど、盗賊は、死罪よ」


その言葉を聞いた女性は、思わず顔を上げ、エブリンに懇願する。


「何でもします。


 本当に何でもします。


 私は、汚れた身です。


 何も怖くありません。


 ですので、どうか、どうか、この人が死罪になることだけは、お許しください」



女性が、必死に訴えていると、

その話が、耳に届いたようで、夫婦と思われる者達が、

エブリンの足元に集まり、頭を下げ始めた。


今の状況から、セルグードが

こんな山の中で、どうやって手下を増やせたのかがわかる。


セルグードのやったこと。


それは、女子供を、人質に取った後、

男を襲撃に参加させ、人を殺させることで、罪悪感で縛り付け

この場から逃げれないようにした後、手下として、働かせていたのだ。


エヴリンは、考えてしまう。


先程告げたように、盗賊は『死罪』だ。


だが、今の話を聞くと、流石に、悲しすぎる。


──助けてあげたい・・・・・


そんな事を考えていると、少し離れた所から

男の罵声が、聞こえてきた。


エヴリンが、そちらに視線を向けると、

『お前も来い!』と強引に引っ張られる女性の姿があった。


死罪と聞いた男は、

所有物にしていたであろう女性を使い

助かろうとしているのだ。


だが、女性の思った以上の抵抗にあい

頭に血が上ってしまった男は

エンデとエヴリンの前だという事を忘れ、暴挙に出る。


痺れを切らした男が、女性の頬を殴ったのだ。


しかも、『グー』で・・・・・


「あっ!」


思わず声を上げるエンデ。


一緒に見ていたエヴリンは、何も言わず、男に向かって歩き出す。


男は、殴った女性の腕を引く。


「ほら、立て!

 さっさと歩け!」


腕を掴まれたまま、顔を上げた女性の口から、血が流れている。


そんな2人の前に、立ちはだかるエブリン。


「ちょっと、あんた、なにをしているの!」


「ああん?」


男は、怪訝な顔をしながら、視線を移す。


「えっ!」


思わず漏れ出た声と同時に、体が強張る。


「あの・・・その・・・これは・・・」


「嫌がっているんだから、離しなさいよ!」


怒気を込めて命令したが、男は動けない。


そんな男に、再び、命令をする。


「聞こえないのかしら、

 私は、離しなさいと、言ったのよ!」


先程までの威勢のよさが消えた男は、

力が入らず、怯えた表情を見せている。



「早く、こっちに!」


女性は、エヴリンのもとまで駆け寄り、背中に隠れた。


その間、男性は、一歩も動けない。



それもその筈、エヴリンから、少し離れたところにいるエンデが、

鋭い目つきで、男を睨んでいたのだ。


──逆らえば、殺される・・・・・


男は、必死に声を絞り出した。


「す、すまねえぇ・・・・・悪気は、無かったんだ」


男性の謝罪に、エヴリンが答える。




「本当に、そうかしら・・・・

 まぁ、面倒臭いのも嫌だから、今は、許してあげようかしら」


その言葉を聞き、男の緊張が解けた。


しかし・・・・・


「でも、殴った事は事実だから、こちらからも、一発殴って終わりにするわね」


エヴリンは、そう言うと、エンデに向かって手招きをした。


「えっ!?」


男は、セルガルとの戦いを見ていたので、

エンデの恐ろしさを、知っていた。


──こんなの、無理・・・・・・


呆然とする男の正面に、エンデが立つ。


「やっちゃって!」


その命令に、男は、後退りながら、謝罪を口にする。


「す、すまない、悪気は、無かったんだ・・・・・」


無表情で、迫るエンデ。


男性は、堪らず、その場で土下座をする。


「もうやらねぇ、本当だ。


 た、頼む、見逃してくれ」


地に着くほど頭を下げている男の肩を、エンデは軽く叩く。


その様子から、許して貰えるかもと、

淡い期待をした男が顔を上げた瞬間、衝撃が走る。



上から振り下ろすように放たれた拳が、顔面を捉えたのだ。


突然視界が奪われ、意識を飛ばされた男は

『ピクピク』と痙攣を繰り返していた。


「手加減したんだけど・・・」


「ええ、上出来よ」


エヴリンは、エンデを褒めた後、

その場から離れた。



その後、旅支度を再開させたのだが、

既に、日が傾いていたので

仕方なく、ここに泊まることにし、一度解散させた。




そして、翌日。


準備の整ったエンデ達は、盗賊を引き連れて王都を目指して出発する。


王都までは、約1日。


学園の入学式は、2か月先。


王都の生活になれる為に早く出て来ているので、何も問題は無い。


その後の旅は、穏やかなもので、ここまでは順調。


しかし、予想以上の大人数で、馬車の速度が出せなかった為、

急遽、一泊することにした。



少し早めに馬車を止め、野宿の準備に取り掛かる。


野宿にも慣れて来たのか、てきぱきと動く事が出来たので、

少し早めの食事を摂った。


その日の深夜、屋外で寝ていた盗賊達の中の3人が目を開ける。


「おい、起きているか?」


「ああ、大丈夫だ」


ゆっくりと起き上がると、辺りを見渡した後、低い姿勢のまま進み始めた。


男達は、周囲を警戒しているが、誰にも気づかれていない様子。



「もう少しで、道に出る。


 そうしたら・・・・・・」


「ああ、わかっている」


3人は、逃走を謀ろうとしているのだ。


このまま王都に連れていかれたら、死罪が待っている。


それがわかっているだけに、男達は、覚悟を決め、脱走を試みたのだ。


しかし、あと少しというところで、見えない壁にぶつかった。




仕掛けたのは、エンデ。


当然、脱走の事も考えて、辺り一面に、結界が張り巡らされていたのだ。


「なんだよ、どうなっているんだ?」


男達が、どの場所に進んでも、必ず見えない壁に阻まれる。


それでも、諦めず、必死に逃げ道を探す。


彼らは、追手が来ない事で、希望を持っていたのだ。


だが、それが間違いだとは、気付かない。


必死になって出口を探した結果

彼らは、テントに戻る事が出来ない程、疲れ果て

朝を迎えることとなった。



「俺達・・・・・何してたんだろうな」


「見張りを置いていない理由は、これだったんだ・・・・・」


「これから、王都まで、歩くのかよ・・・・・」


3人は、肩を落とした。


その後、3人は、探しに来た者達に発見され、テントに連れ戻された。




本来、する筈の無かった野宿を終えた一同は、

再び、王都を目指す。



「エヴリン、いつ頃王都に到着するの?」


「そうね、太陽が少し傾いた頃かしら」


「ふ~ん・・・・・」


旅は、順調。


外の景色を楽しんでいるエンデ。


そんな中、エヴリンは、まだ、答えを見出せていない。


──本当に、どうしようかしら・・・・・


悩んでいても、時は過ぎる。


日が真上を過ぎた頃、

とうとう、王都の白い壁が見えてきた。


どこまで続いているのかわからない程、長い。


その壁に、近づいて行くと、それなりに人の数も増えた始めた。


ただ、どの人達の視線もエンデ達に向いている。


4台の豪華な馬車の後ろに、3台の見窄みすぼらしい馬車。


その後ろに、紐で繋がれた男達。


どう見ても、目立たない筈が無い。



行き交う人々の視線を集める中、

エヴリンは、急に馬車を止めた。


そして、馬車を降りると、エンデを伴い最後尾へと向かう。


そこにいるのは、盗賊達。


「貴方と、貴方。


 それに、貴方もだったわよね」


エヴリンが、差した者達は、あの時、懇願してきた者達だ。


妻を人質にされ、有無も言わされず、盗賊となった者達。


その者達を、女性達が乗っている馬車に乗せ換えた。


「どうするの?」


「私では、判断が難しいのよ。


 でも、このまま見過ごすのも、気が引けるから

 お父様に、任せるわ」


エヴリンの出した答え。


それは、マリオンに丸投げする事だった。


気が楽になったエヴリンは、再び馬車を出発させると

心の中で願った。


──お父様。よろしくお願いいたします・・・・



それから、間もなく、

王都に入る為の検問に、辿り着く。


本来なら、馬車に刻んである紋章から、貴族だという事がわかるのだが

今回乗っている馬車は、ジョエルが用意したもの。


その為、紋章は、刻まれていない。


だから、検問所にて、検査を受けなければならないのだ。


「おい、お前達は、何処から来た?」


兵士に、問い掛けられ、返答に迷うエンデ。


その姿を見兼ねたエヴリンが変わる。


エヴリンは、紋章の入った短剣を見せた後、

続けて答える。



「私は、ヴァイス家の長女、エヴリン ヴァイス。


 この子は、弟のエンデ ヴァイス。


 私達は、この馬車の持ち主、ジョエル商会のご息女たちと一緒に

 学園に入学する為に、来たのよ。


 あと、後ろに繋いでる男たちは、旅の途中で、捕らえた盗賊。


 貴方達に、任せてもいいかしら?」


紋章の入った短剣を見せつけながら、自己紹介を終えると

兵士の態度が一変する。


「し、失礼いたしました!」


兵士は、背筋を伸ばし、エヴリンとエンデに改めて、挨拶をした。




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