第16話顛末

市場での一件から数日後、再び領主の館に集まった3人。


領主、ファーガス ゲイルド。


マリオン ヴァイス子爵。


そして、仲裁役として王都から来たビートル ガンマ。


その、ビートルガンマだが、顔色が良くない。


それに、目の下にも隈が出来ていた。


彼の顔色の優れない理由。


それは、子供を攫いに行かせた冒険者達が、

誰一人帰って来ていないからだ。


──クソッ、どうなっているんだ・・・・・・


心の中で、悪態をつきながら

チラッとマリオンを見るが、変わった様子はない。



約束の時間となり、前回の続きから、話が始まる。



「それで、私には、任せて頂けないという事でしたね」


平静を装うビートル。


マリオンが口を開く。


「やはり、認める訳には、いきません・・・・・」


ビートルが、マリオンの方に目を向けると、マリオンもビートルを見ていた。


「な、何か、気になることでも?」


焦りを隠して、必死に言い返したビートルから

マリオンは、目を逸らさない。


マッシュが殺され、今度は、エンデとエヴリンが狙われたのだ。


心中穏やかで、いられるわけがない。


マリオンが見せる、その目、その様子から、

ビートルは、冒険者達が捕まった事を確信する。


──このままでは不味いぞ・・・・・


そう思っても、雇った冒険者達が戻って来ていない為、

何の情報も得ていない。


それどころか、あ奴らが、捕らえられ、口を割っていれば、

ビートルの立場の危うくなってしまう。


そう考えた時から、汗が止まらない。


もう、カーターを助けるどころの騒ぎではない。


──どちらにしろ、ある程度の情報は、掴んでいるだろう・・・

ならば、致し方あるまい・・・・・。


己の身を案じたビートルは、この場からの逃走を考え始めた。


一分、一秒でも早く、この場から立ち去りたいと願うビートルの耳には

2人の会話が、聞こえていない。


1人、ブツブツと呟くビートルに、ファーガスが問いかけた。


「ビートル殿、ビートル殿、どうしたのですか?」


突然話し掛けられたと思い、驚いて立ち上がったビートルは、

辺りを確認した後、ボソッと呟く。


「どうやら、体調が優れない様なので、帰らせてもらう」


そう伝えると、足早に、扉へと向かう。


だが、このまま帰らせるつもりなどない。


マリオンが先回りをし、扉の前で、立ち塞がる。


「まぁ、まぁ、お待ちください。


 私が良い薬を知っているので、お持ちしますよ。


 ですが、その前に、やまいの原因を突き止めなければ、なりませんね」



マリオンは、それだけ伝えると、軽く扉を叩いた。


すると、外で待機していた者が、扉を開け放つ。


大きく開かれた扉の先にいたのは、今回の襲撃者である冒険者達だった。


「お、お前達・・・・・」


思わず声を漏らし、顔色を失うビートル。


それもその筈。


彼らは、両足を失っている為、台車に乗せられていたのだ。


当然、両腕も、拘束具で、動きを封じられている。


マリオンは、何事も無かったかのように、ビートルに告げた。


「病の原因は、これですかな?」


問いかけらえれたビートルは、言葉に詰まってしまう。


──どこまで、話したんだ・・・・・


何とか探ろうと、冒険者の1人、ギルに顔を向けるが

視線が合わさると、ギルは、すかさず目を逸らした。


「お、おい・・・・・」


その態度に、思わず手を伸ばしたビートルに、

ファーガスが問いかける。


「ほぅ、こ奴らを、知っているようだな」


ビートルの態度から、知り合いであることは、一目瞭然の事なのだが、

それでも、しらを切ろうとする。


「わ、私は、知らん。


 こんな奴ら見たこともない」


あっさりと、子飼いの冒険者達を切り捨てるビートル。



──奴らの代わりなど、いくらでもいる。


  それよりも、早くこの場から立ち去らねば・・・・・・


ビートルの頭にあるのは、自己保身だけ。


「も、もう良いかな、私は体調が優れぬ、

 申し訳ないが、今日は、帰らせてもらう」


再び、きびすを返して、部屋から出て行こうとする。


だが、それを許す筈が無い。


数人の兵士が、ビートルの前に、立ち塞がった。


思わず、声を荒げるビートル。


「貴様ら、どういうつもりだ!


 そこをどけ!」


兵士を押し退け、その場から逃げようとするが、

手を掛けた兵士達に、押し倒され、身動きを封じられてしまう。



「な、なにをする!


 貴様ら、この私が誰かわかっているのか!」


必死に暴れるビートルだが、

鎧を着た兵士が体の上に乗っている為、身動きが取れない。


その様な状態のビートルに、マリオンは近づき

視線を合わせるように、腰を低く構えて、告げた。


「彼らが、全て話してくれたよ」


その言葉を聞き、ビートルは、絶望の表情を浮かべると同時に

冒険者達を睨む。


そのような態度をとるビートルに、ファーガスが告げる。


「ビートル殿、彼らを責めてはならぬ。


 あの姿を、よく見てみるのだ。


 あの両足は、戦いで失ったとは思えぬ程、上手く切れているぞ」


その言葉を聞き、ビートルも理解した。


「それでは、自白させる為に・・・・・」


「まぁ、そうだろうな。


 だから、1つだけ、忠告させてくれ。


 貴殿も、そうならないようにと、儂は、願っておるよ」


「・・・・・」


ビートルは、項垂れる事しか出来ない。


「クッ・・・・・」


その後、ファーガスの命令で、ビートルも地下の牢獄へと連行され

翌日から、尋問が開始されたが、

先日の冒険者達の姿を見ていたせいか、

大人しく、全てを自供した。




ビートル ガンマ。


ガンマ子爵家の次男。


実家の子爵家は、長男のハウロ ガンマが継ぐ為、

ビートルに、居場所はない。



その為、王都で役所に勤めながら、

荒くれ者の冒険者を使って、小銭稼ぎを繰り返していた。



そんな日々の中、ビートルの耳に入った、魅力的に思えた出来事。


ゲイルドの街に住む知人。


カーター レイトン子爵の逮捕。


貴族を裁くためには、王都への連絡が不可欠。



ビートルは、直ぐに行動に移し、

賄賂と脅迫で、自身が仲裁者となる様に書類を書き換えて、報告したのだ。



その結果、ゲイルドの街に向かうのは、法で貴族を裁く執行官ではなくなり、

あくまでも、揉め事が大事になった時に向かわせる

仲裁者へと成り代わったのだ。


ビートルの狙い。


それは、カーター レイトン子爵家に入る事。


貴族世界において、後継者は、男性と決まっている。


その為、娘しかいないレイトン家は、

何処からか、婿養子をもらわなければ、子爵の地位を返還することになる。



だから、今回の事件をビートルが解決し、

知人であるカーター レイトンに恩を売り、

自身が、子爵家の跡取りになろうと計画したのだ。



だが、その計画は崩れ去り、

最終的に、全てを自供することになったビートル。



今回、マリオン家の跡取りを殺したカーター レイトンの事件から

王都のガンマ子爵家を巻き込む事態にまで発展した為、

一領主の判断で、決めかねる事が多くあり、

ファーガスは、再び、王都に手紙を送る事となった。


領主としては、頭の痛くなる課題を多く残すこととなっていたのだが

王城からの連絡より先に、1通の手紙が届き、事態が好転する。


その手紙の主は、ガンマ子爵家、当主からだ。


子爵家が、どんな手段で、この情報を手に入れたかは分からないが

手紙には、こう記されていた。


当家に、ビートル ガンマとかいう者は、いない。


もし、そのような輩が、貴殿の街に現れ、当家の名を騙ったのであれば

そちらの判断で、処分してもらって構わない。


貴殿の判断に任せる。


そう記すと同時に、証書まで添えていたのだ。


これにより、貴族でなくなったビートル ガンマは、平民として裁かれる事となり

死罪が決定した。


残る問題は、カーターだけとなったが、

その件も数日後に解決する。


ファーガスのもとに、新たに派遣されて来た執行官は、

【クリス アダムス伯爵】だったのだ。


クリスは、領地をもつ貴族なのだが、

今回の出来事を、重く受け止めた王都からの命を受けて

この地に赴いたのだ。


クリスは、連れて来た部下と共に、

もう一度、カーターの起こした事件の書類を読み直し、適切な処分を下した。



重罪人カーター レイトン子爵は、爵位はく奪の上、

全財産を国が没収し、死刑を宣告する。


これが、クリス アダムス伯爵が下した判断。


他貴族の跡取りを、殺したことへの罪は重い。


だが、貴族の地位は失ったが、

家族にまで、罪が及ばなかったこと対しては、

クリスに、感謝すべき事だろう。



クリス執行官が滞在して、6日後・・・・・・



街の広場にて刑が執行され、

この日を以って、カーター レイトン子爵家は、

この世から抹消された。


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