第17話お披露目

事件が解決し、穏やかな日が戻ってきた。



だが、事件の最中、ルーシアの事を母様と呼んだ事で、

エンデは、マリオンとルーシア、エヴリンの3人に呼び出され、

家族会議が開かれる事となった。



「エンデちゃん、これからは、家族としてここで過ごしてくれるのよね?」


エンデの覚悟は、決まっている。


一度は、コルドバの街に帰ることを考えたが

黄金郷も閉店しているかもしれないし

母であるエドラも、もう、この世に存在しない。


そんなエンデに、ヴァイス家の人達は、親切にしてくれた。


たとえ、それが、亡くなったマッシュの代わりだったとしても

エンデは、嬉しかったのだ。


だがら、返事は、決まっている。


「うん、迷惑でなければ・・・・・・」


「迷惑なんかじゃないわ。


 でも、これからは、お客様ではなく、息子として扱うから、遠慮はしないわよ」


「わかった」


エンデの言葉に、笑顔を見せる3人。


そして・・・・・・


「では、明日から、家庭教師が付くから、

 しっかりと貴族としての勉強を、してくれるかい?」



マリオンの言葉に、『はい!』と返事をすると

今度は、ルーシアだ。



「覚えることは、沢山あるわよ、

 語学、政治、剣術・・・・・・頑張ってね」


思いのほか、覚える事が多いらしく、

少し戸惑いを見せてしまうが、それでも、

返事は、変わらない。



「はい・・・頑張ります」


「ああ、期待しているよ」


マリオンは、笑顔で告げた。




それからは、本当に覚える事が多く、

忙しいながらも、毎日、充実した日々を送る事となった。



ある時は、部屋に篭り、朝から夜まで、勉強漬け。


また、ある時には、マリオンの視察に同行し、

直接、教えを乞う事もあった。


そんな毎日の中、

エンデは、学ぶ楽しさを知り、教えられた事を、どんどん吸収し、

数年経った今では、すっかり貴族らしい振る舞いを身に着けていた。



エンデは、もうすぐ10歳の誕生日を迎える。



その日は、盛大なパーティーが開かれ、貴族として

紹介されることが決まっていた。


所謂、社交界デビューの日となるのだ。



パーティー当日。


エンデは、用意された服に着替える。


「へぇーなかなか似合うじゃない」


エンデの後ろで、腕を組み観察しているエヴリン。



「姉様、おかしくないかな?」



「大丈夫、問題ないわ。


 それより、もう時間よ。


 早く行きましょ」




エヴリンに腕を掴まれ、エンデは、パーティー会場へと向かった。


初めてのパーティー。


いつもの大広間は装飾が施され、

テーブルの上には、豪華な料理が並んでいる。


「うわぁ~凄い・・・・・」


思わず、感嘆の声を漏らしたエンデ。


足を止めて、会場内をしばらく見ていたが

同行しているエヴリンが、急かすように、声を掛けた。


「そんなところに立っていないで、

 お父様とお母様の所に行くわよ」


「あ、うん」



2人が、向かった先で、

大勢の大人達に囲まれているマリオンとルーシア。


そんな2人に、エヴリンが声をかける。



「お父様、お母様!」


その声を聞き、周囲の大人達が道を開けた。



「エヴリンにエンデか。


 うん、似合っているぞ。


 では、行こうか」




マリオンは、エンデを連れ、壇上へと向かうと

その後ろから、ルーシアとエヴリンが続いた。


4人が、壇上に上がると、

会場が、静まりかえる。


「本日は、多くの方にお集まり頂き、感謝申し上げる。


 今日は、ここにいる我が息子、

 エンデ ヴァイスが、10歳の誕生日を迎える事が出来たお祝いの席だ。


存分に、楽しんでくれ。


だが、その前に、我が息子を紹介しよう」


エンデが、1歩前に踏み出す。


「皆様、お初に、お目に掛かりますエンデ ヴァイスです。


 まだまだ、未熟者ですが、どうぞ、宜しくお願い致します」


挨拶を終えたエンデだが、慣れない事に、緊張したままだった。


だが、挨拶は、上手く出来たと思う。


壇上から降りると、直ぐにエヴリンが、からかって来る。


「フフフ・・・・・エンデって、意外と緊張する人なのね」


「どういう意味だよ?」



「だって、襲撃者には、そんな素振り見せないでしょ」



「うん、でも、挨拶は苦手だよ。


 襲って来る人達の方が、楽」


「でも、少しは慣れるように、なりましょうね」


後ろから、優しく声を掛け、微笑むルーシア。


「はい、母様」




一段落着いたところで、

マリオンは、エンデを連れて貴族達への挨拶周りにむかう。



その最中、一際目立つ者がいた。


派手な洋服に、豪華な指輪。


ぽっこり出たお腹。


その者は、この街で、一番といわれる商会の主人【ジョエル】だ。


馬鹿な成金のような恰好をしているが、

見た目とは違い、誠実で、温厚な男なのだ。


ジョエルは、2人の娘を連れてパーティーに出席していた。


ジョエルのもとに、エンデとマリオンが歩み寄る。


すると、マリオンより先に、ジョエルが声をかけて来た。


「マリオン様、本日は、ご子息のお披露目の席に呼んで頂き、

 誠に、有難う御座います」




ジョエルの後ろに控えている女性2人も、頭を下げる。


女性の年齢は、エンデとあまり変わりが無いように思えた。


その2人の女性は、ジョエルに、声を掛けられ、

マリオンたちの前に並ぶ。



「この2人は、私の娘です。

 改めて、ご挨拶をさせて頂いても、宜しいでしょうか?」


マリオンが、『構わない』と返答すると

2人の女性が、挨拶を始めた。



「初めまして、マリオン様、エンデ様。


 私は、ジョエル家の長女【ヘンリエッタ】と申します。


 どうぞ、お見知りおきを」


ヘンリエッタは、華麗にカーテシーを決める。


続いて、次女。


「初めまして、マリオン様、エンデ様。


 私は、ジョエル家の次女【ジャスティーン】と申します。


 お話を伺いましたところ、エンデ様とは同じ年ですわ。


 どうぞ、宜しくお願い致します」


ジャスティーンも、カーテシーを決めた。



2人に習い、エンデも改めて挨拶を行う。



「丁寧な、挨拶をありがとう。


 私は、エンデ ヴァイス。


 10歳です」


差し障りのない挨拶に留める。


これも、貴族としての教育の賜物の1つ。


上の者は、下の者に対して、多くを語らない。


それは、変に勘繰られる事を避ける為。


勿論、この事は、ジョエルも理解している。


だが、ジョエルは、これを機に、

2人の娘のうち、どちらかと縁を深めて頂きたいと思っていた。




商人にとって情報は、命。


この街で起こった出来事は、すべて把握している。


勿論、あの事件の事も・・・・・・


襲撃者達を一人で、行動不能に陥れた子、エンデ。


興味を惹かない訳が無い。



その事実を知った時から、この日を楽しみにしていたジョエル。


そのせいもあって、2人の娘を、最高の衣装で、飾らせたのだ。




──今日を逃せば、今度はいつ、お近づきに、なれるかわからん・・・・・・・




その思いから気合を入れて、自身も着飾って出来たのが、この成金姿だった。


完全に、空回りをしているが

それでも、記憶に残ればいいと、割り切っている。


──せめて、もう少し、もう少しだけでも、

  娘たちと、お近づきになっていただかなければ・・・・・

  帰って、何を言われることやら・・・・・


ジョエルが畏怖しているのは、妻の【リオノーラ】だ。


実際のところ、ジョエル商会を取り仕切っているのは、

このリオノーラである。


『リオノーラに、任せている限り、問題は無い』


そう断言出来るほどのやり手なのだ。


その全てを取り仕切っているリオノーラは、

今回のパーティの事に関しても、口を出そうとしたが

夫であるジョエルの

『マリオン様とエンデ様とお近づきになって来る』

そう断言する姿を見て、溜息を吐きながら、見送ったのだ。


溜息の理由は、勿論、その出で立ちなのだが・・・・・


実際、パーティ会場内でも、ジョエルの出で立ちを笑う者もいた。


しかし、マリオンとエンデは違った。


笑いもしない。


小馬鹿にするような態度も、とらなかった。


ジョエルの目を見て、話しをする。


他の来場者達と同じように扱う。


その2人の態度を見て、マリオンと縁を持ちたかったジョエルは、

自身の勘

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