第14話待ち伏せ

ビートルの部屋に集まった者達。


それは、金で雇い、王都から連れて来ていた冒険者達だった。


彼らは、冒険者でありながら、

ギルドを通さず、時折、ビートルから依頼を受けていた。


勿論、その仕事内容は、表立って依頼出来ない内容なので、

ギルドを通しても、依頼事態を却下される。


それに、そんな事を依頼すれば、ビートル自体も、ただでは済まないだろう。


その為、金の為なら何でもする冒険者を、密かに集め

手足のように動かし、思う通りに事を進めていたのだ。


そんな奴らが、ビートルの前に集合している。



「今回は、時間がない。


 一気に片を付けてくれ」



「ほう・・・・・面白いねぇ、

 それで、どんなことをするのですか?」


「マリオンとかいう、子爵のガキどもを攫う。

 男と女らしいが

 どちらでもいい、攫って来い」



ビートルの言葉に、男達は笑みを浮かべた。



「旦那、あっしらも、ここまで来たんだ。


 仕事をやらねぇとは、言わねぇ・・・・・

 ただ相手は、子爵様の子供だ。


 少しばかり、色を付けてもらわねえと割が・・・・」


男の言葉を聞き、ビートルは答える。


「わかっている。


 ただし、失敗は、するなよ」


「へへへ・・・・わかっていますよ。


 明日にでも、探りを入れてみますわ」


「ああ、頼んだぞ。


 それから、これは、手付てつけだ」



ビートルは、金の入った小袋を男達の前に置いた。


男は、袋を受け取ると中身を確認する。


「これ、前金ですよね?」


「当然だ、後は依頼を終えたら払ってやる」


「ありがてぇ、旦那は、いつも羽振りがよくて助かるぜ」


男は、小袋を懐にしまうと、仲間と共に、部屋を出て行った。



男達が去った後、

ビートルは、部屋に用意させていた葡萄酒をグラスに注ぎ

一気に飲み干した。


「この私に逆らった事、必ず後悔させてやる・・・・・・」





翌日、ビートルに雇われた冒険者達のリーダー【ギル】は、

仲間を引き連れて、市場を歩いていた。


その理由は、情報屋と落ち合う為。


市場を抜け、その先の指定された廃屋前に来ると、足を止めた。


「ここだな・・・

 お前たちは、周囲を警戒していてくれ」


そう言い残し、廃屋へと足を踏み入れる。


中に入れるのは、リーダーのギルだけ。


それが、情報屋の条件だった。


情報屋は、大勢の前には、姿を見せようとはしない。


だが、この情報屋の情報は、信頼のできるものとして、

裏の世界では有名なのだ。


廃屋に入ったが、誰の姿もない。


「ちと、早かったか・・・・・」


ギルが、そう呟いたとき、声だけが聞こえてきた。


「金を、そこのテーブルに置け」


「えっ!?」


一瞬、驚いたが、前もって聞いていた通りだったので、

落ち着いて、金を指定されたテーブルに置く。


「後ろ向いてくれ」


ギルは指示に従う。


すると、その隙に、突如、獣が現れ、金の入った小袋を奪って消えた。


どこかに隠れている情報屋が話しかける。


「聞きたい事はなんだ?」


「ヴァイス家の事だ。


 出来たら、弱みもあれば教えて欲しいんだがな」




ギルは、できる限り聞き出そうとする。


しかし・・・・・



「この金額では、見合わん。


 欲しい情報を絞れ、そうでなければ、この話は無かったことにする」



『チッ』と舌打ちをするギル。


「ああ、わかった、わかったよ。


 娘とガキの事。


 行動などを教えてくれ」



「・・・・・わかった」


ギルは、一通り情報を得ると、廃屋を出た。



「おい、行くぞ」


仲間を引き連れ、その場から足早に去る。


向かった先は、貴族街ではなく、先程、通り過ぎた市場。


情報から、狙われたのは、エンデではなくエヴリンだった。



情報屋から聞いた話では、今現在、エヴリンがメイド達と一緒に、

市場に買い物に来ているというのだ。


──こんなチャンス、二度と無いかもしれない・・・・


そう思い、急いで市場まで戻ってきた。


ギルは、エヴリンの特徴を仲間達に伝え、四方に分かれて探し始める。


人の多い市場での探索。


この状況は、ギル達にとって好都合。


暫くして、ギルの仲間の一人【グレッグ】が、それらしき集団を発見する。



綺麗なドレスを着た少女。


その子に伴って歩く2人のメイド。


その後ろから、荷物を持つ下僕と思われる少年。


グレッグは、近くにいた仲間に合図を送った。


グレッグが見つけた一行は、どうやら買い物を終えたようで

馬車を止めている広場に向かって歩いている。


馬車に向かう途中、人気ひとけのない道を通るのは確実。


襲撃をかけるのには、好都合。


仲間達も集まった。


ギルは、先回りをし、一行を待ち伏せる。



そこに現れるエヴリン達。


買い物を終え、楽しそうに話しを、しながら歩いている。


──今のうちに、精々楽しんどきな・・・・・・


ギルは、その一行を、密かに眺めていた。


そして、網に入った瞬間、

ギル達は姿を現し、有無を言わせず襲い掛かった。


狙われたのは、メイドの1人。


「きゃぁぁぁぁ!」


悲鳴を上げたメイドは、初手で傷つき、その場に倒れた。



「エヴリン様!」


周りを取り囲む襲撃者達から、

体を張ってエヴリンを守ろうとする、もう1人のメイド。


メイドが叫んだ名前を聞き、間違いが無い事を確信すると、ギルが声をかける。


「大人しくしていれば、その娘の命は保証してやる。


 まぁ、メイドとそこのガキの命は、保証できねえがな・・・・・」


「でも旦那、このメイド、中々いい女ですぜ・・・・・」


下卑た笑みを見せる男。


「好きにしたらいい。


 だが、娘は、傷つけるなよ」


「ええ、わかってます」


襲撃者達が、再び襲い掛かる。


しかし、何かに弾かれて、吹き飛ばされた。


突然の出来事。


エヴリン達に、近づくことすら、出来ない。


「なんだこれっ!」


見えない何かによって阻まれている状況に、困惑している。


荷物を下ろした少年、エンデは、傷ついたメイドに近寄り、傷を癒す。


『ヒール』


かざした右手から、放たれる癒しの奇跡。


メイドの傷は、一瞬で完治した。


「あれ、私・・・・・」


エヴリンを守っているメイドが告げる。



「大丈夫です。


 坊ちゃまが、治して下さいました。


 それよりも、悲鳴を上げるとは何事ですか!


 お嬢様を守りなさい!」



「は、はいっ!」



慌てて起き上がったメイド。


そんな2人のやり取りを見ていたエンデは、笑顔で応える。



「大丈夫、安心して。


 もうあいつ等、近づけないから・・・・・

 でも、そこから動かないでね」



エンデの言葉を聞き、安心したエヴリンは強気になる。



「マッシュ、命令よ!

 あいつ等、やっちゃって!」


「えっ!

 いいの?」


「当然よ、私たちを襲ってきたのよ。


 それに、【エイダ】なんて、怪我をさせられたのよ!

 万死に値するわ」


未だ、マッシュと呼ばれる事の多いエンデだが、

マリオンとルーシアから、

街中では、あまり力を使わないようにと、釘を刺されていた。


その為、攻撃を仕掛ける事に、躊躇していた。


だが・・・・・

エヴリンは、違う。


お構いなしだ。


「おねぇちゃんの命令よ!」


「わかったよ・・・・・」


使用人だと思っていた子供がエンデだと知ると、

ギル達の形相が変わる。


「こいつがもう一人のガキだったのか・・・・・」


今回の狙いだった2人が、ここにいる。


「おい、おめえら、どっちでもいい。


 攫ったら、ずらかるぞ!」


「おう!」


襲撃者達は、気合を入れなおした。


しかし、どう足掻いても、エンデの結界のせいで

近づく事さえ、不可能。


「クソッ!

 これは、なんなんだ!」


そんな襲撃者たちの慌てる姿を見ながら

エンデは、ゆっくりと結界の外に踏み出した。



「翼は、出しちゃダメよ!」


エヴリンの忠告に、エンデは頷く。


メイド達も、エンデの事は理解している。



一度、マリオンとルーシアは、メイド及び、全ての使用人達を集めて、

エンデの事を『我が子』だと紹介し、

その上で、翼を見せ、不思議な力があることも伝えていたのだ。



勿論この事は、外部に漏らさないようにと、厳命もしている。


だから、この場にいるメイド達も安心しているのだ。


先程、傷を治してもらったエイダは、すっかり元気を取り戻し

声をかけて、応援している有様。


「坊ちゃま、やっちゃって!」


呆れた顔を向ける、もう一人のメイド【アラーナ】。


「貴女は・・・・・」


2人のやり取りに、思わず笑ってしまうエヴリン。


そんな和気藹々わきあいあいといった状況とは異なり

結果の外に踏み出したエンデに対しては、襲撃者達の攻撃が開始されていた。




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