第13話会談

マリオン ヴァイス家へ、向かわせたヘルガからの連絡を待つビートル。



「遅い・・・・・もう、夜が明けるというのに・・・・・」



朝早く目覚めたが、未だ、本人からの連絡が無い事に、

不安を覚えつつも、ヘルガの今までの実績から、

失敗することはないと思っている。


しかし、夜が明けても、音沙汰なし。


この世にいない者を待っていても、連絡などある筈がない。


だが、ビートルは、その事を知らない。


本日は、領主ファーガス立会いの下、

マリオンとの話し合いの場が持たれているので、

ビートルは、時が進むにつれ、焦りを滲ませた。


──あいつは、何をしているのだ・・・・・


弱みを握り、ヴァイスに言う事を聞かせるつもりだったが

万が一にでも、ヘルガが捕らえられており、口を割っていれば大変なことになる。


その為、ヘルガの行方だけでも、知りたいところだが、

それもかないそうもない。


もう、時間が残っていないのだ。


その為、ビートルは、新たな手段を考える。



それから間もなくして、会談が開かれた。


ビートルの前には、ファーガスとマリオンの姿がある。


結局、何の情報も得られぬまま、マリオンと対峙することになったが

ビートルだが、焦りはない。


「改めて、ご挨拶を・・・・・

 私は、王都から派遣され、

 仲裁役を仰せ付かったビートル ガンマと申します。


 この度の事、上手く収めよとの命を受け、この場に参上した次第です」



ビートルは、『事を荒立てず、『謝罪』という形で収めろ』と

遠まわしに告げているのだ。


マリオンが、ビートルを睨む。


「執行者ではなく、仲裁役ですが・・・・・

 まるで、こちらの事を、ご理解いただけていないようですね」


静かに、怒気に充ちた声で問う。


「いえ、そうでは、ありません。


 同じ子爵の地位を持つ者同士、事を荒立てず

 仲良くして頂きたいと、申し上げているのです」


ファーガスが、口を開く。


「それにしても、いささか甘すぎるのでは、ありませんか?


 子爵家の跡取りを殺害しておきながら、無罪放免は、ありえんだろう」


ビートルは、その言葉を待っていた。


──彼らは、これといった証拠を握っていない筈、ならば・・・・・・


「その事なのですが・・・・・・

 本当にレイトン家、いや、カーター殿が、

 ご子息を殺したと、思っておいでですか?

 もしかして、確かな証拠でも、あるのですか?」



既に、自白も得ていることも、手紙に記したので

その事を、知らない筈もない。


だが、ビートルは、それを知った上で

現在の状況を、いまから覆そうとしているのだ。


話を続けるビートル。


「仮にですが・・・・・万が一、自白があったとしても、

 それが、恐怖から逃れる為の方便なら・・・・・」


ファーガスが、机を叩いて立ち上がる。


「それこそ詭弁だ!

 貴様は、何が言いたいのだ!」


声を張り上げるファーガスだったが、

ビートルは、至って冷静な仮面を外さない。


「落ち着いてください。


 ここは、話し合いの場の筈、ですよね・・・・」


ビートルは、テーブルに置かれたお茶に口を付けた後

話を続けた。



「私は、あくまでも仮の話をしただけです。


 先程の発言が、事実だとは、一言も言っておりませんよ?」


ファーガスは、椅子に座りなおした。


ビートルが、再び口を開く。



「私は、王都から派遣された仲裁役です。


 ですので、どちらかの味方というわけではないのですが・・・・・」


何故か、呆れたように溜息を吐く。


「残念なことに、このような状況では、まともな裁きが行えるとは思えません。


 したがって、捜査のやり直しを要求します。


 今回は、第3者である私が、捜査の指揮を執りますので

 その旨、ご理解ください」


これを許せば、事実上、ビートルが好きなように判断が下せることになる。


だが、反論する言葉が、見つからない。


上手くことが運び、内心安堵するビートル。


──マリオンに対しての情報は、掴めなかったが・・・・・


  まぁよい。


  これで、カーター殿を助け出せる・・・・・・

  そうなれば・・・・・


思惑通りに進み、捜査が、やり直しになれば、

カーターを牢から出す事は、容易い。


そうなれば、後の事は、どうとでもできる。



ビートルは、あまりにも上手く行き過ぎた為、思わず笑みが零れそうになったが

グッと我慢をして、お茶を飲みほした。


──まぁ、この私にかかれば、こんなものでしょう。


  子爵といえど、領地も持たない田舎貴族。


  その様なやからがこの私に勝てる筈がありません・・・・・




ビートルの思惑通り進み、帰り際に、カーターを釈放すれば

こちら側の完全勝利で、終わる。


そう思うと、いてもたってもいられず、『では、失礼します』

そう伝えて、席を立った時、マリオンが口を開く。


「待って頂けますか?」


足を止めるビートル。


「はい、なんでしょう?」


「貴方は、仲裁役といいましたが・・・・・

 カーター殿は、貴方と懇意の間柄だと、聞き及んでおりますが

 それなのに何故、仲裁者に選ばれたのですか?」


ファーガスは驚き、ビートルを睨むが

ビートルは、さも当然のように言い返す。



「ハハハ・・・・その事ですか・・・・・


 いかにも、カーター殿とは、懇意にさせて頂いておりました。


 ですが、今回の件には、関係ありません。


 それに、審議は、既に私の手に委ねられたのですから、

 どう扱おうが、それは、私の自由です」



ファーガスもマリオンも、承認していないのに、

勝手に全てを任されたと言い放つビートル。


完全に勘違いだ。


王都では、立場や地位などを利用すれば、全てを思い通りに出来た。


勿論、中には、反対する者もいたが、

そんな者達には、ヘルガを使って、殺しや、脅しで従わせてきた。


だが、それは、爵位の低い準男爵や、平民が相手のこと。


今回は違う。


相手は、子爵と領主なのだ。


いくら、子爵であるカーターを助けるためとはいえ

ビートルは、相手を甘く見過ぎた。


「何を勘違いしているのかは知らんが、

 ビートル殿に、この件を任せたつもりは無いのだがな」


ファーガスの言葉に、マリオンも頷いている。


「なので、今後は、勝手に面会する事も、

 勿論、カーターを牢から出す事も許されぬぞ」



怒気を含んだ言葉を放ち、ビートルを睨みつけるファーガス。


一瞬怯んだ様に見えたビートルだが、直ぐに反論する。



「な、なにを言っているのだ。


 私に、逆らうというのですか?」



前のめりになりながら、ビートルは叫ぶ。


ただ、そこには、先ほどまでの冷静なビートルの姿は無い。



「当然だ、カーターと懇意な関係にある者に、

 仲裁役など、任せられるわけが無い。


 今後は、こちらで判断する。


 もう、貴殿に用はない。


 お帰り願おう」


ファーガスは、領主として、仲裁者であるビートルを拒んだのだ。


憤るビートル。


「貴方、それでも領主ですか!?


 王都から派遣された私を追い返せば、

 それは、反逆と捉えられても、仕方が無い事ですよ!」



「反逆か・・・・・それは、物騒だな。


 しかし、我々の行動のどこを!


 どうとれば!


 王家に逆らった事になるんだ?」


「わ、私を、拒んだことだ!」


声を荒げるビートル。


すでに、先程までの冷静さを失い、

感情だけで、怒鳴っている。


そんなビートルの姿を見て、少し冷静に答えるファーガス。


だが、言葉は荒い。


「たかが、王都の下っ端役人を拒んだ位で、反逆になる訳が無かろう。


 それとも、王都では、貴方のようなやり方が、まかり通っているのか?


 もし、そうなら、陛下に直接相談するしかないな」


『陛下に直接相談』


その言葉は、ビートルに対して、十分な動揺を誘った。


「そ、それは・・・・・」


国王陛下に報告されたとすれば、

危険なのは、ファーガスではなく、ビートルの方だ。


ビートルにも、それくらいの自覚はある。


流石に、引くしかない。


「待て・・・・・わかった。


 少し、時間をくれ。


 私にも、王都に報告する義務があるのだ・・・・頼む」


懇願するビートルに、ファーガスが折れた。


「では、3日だけ待とう。


 3日後、改めて審議の場を開く。


 それから、ビートル殿は、屋敷に滞在して頂いても構わぬが、

 気が引けるのであれば宿を紹介するが?」


「では、1人で考えたいので、宿の手配を・・・・・」


「わかった。


 そのように、手配しよう」


「・・・・・感謝する」


大人しく引き下がったビートルだったが

怒りが収まらない。


部屋に入るなり、ビートルは、怒りを露にする。


「このままで、済むと思うなよ・・・・・」


ビートルは、その言葉通り、直ぐに行動に出た。


その日の深夜、ビートルが宿泊する部屋には、

大勢の男たちが集まっていた。




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