第12話捕らえられた者の末路

屋敷に辿り着いたヘルガは、侵入できる場所を探す。


「あそこからなら、行けそうだな・・・・・」


ヘルガが見つけたのは、物置小屋。


その小屋の屋根に登ったヘルガは、

屋敷へ移るために、静かに歩みを進めた。


だが、そこには、エンデの姿があった。


「ここで、何をしているの?」


暗闇の中、一人佇むエンデは、

異様な雰囲気を醸し出している。


ヘルガは、腰の後ろに隠していた短剣に触れた。


──このガキが、例のガキだな・・・・・・


騒がれては、面倒だと思い、一気に片を付ける為に、距離を詰める。


「坊主こそ、ここでなにをしてるんだ?」


短剣を隠し持ち、あと一歩で、殺せる距離まで近寄った瞬間、

何故か、背筋が凍るほどの恐怖を感じたヘルガは

咄嗟に、バックステップを踏み、距離をとる。


しかし、エンデが、その後を追い、距離を詰めていた。


「チッ」


思わず舌打ちをし、短剣を振るう。


この攻撃で、今後の動きを決めるつもりでいるヘルガ。


エンデに一撃を加える事が出来たのなら、そのまま一気に斬り殺す。


だが、躱すようなら、隙を見て、脱出するつもりなのだ。



しかし、エンデの動きが、ヘルガの想定を上回る。



切りかかった腕を掴み、ヘルガを引き倒したのだ。


体勢を崩し、屋根の上から叩き落とされたヘルガは、

受け身を取れず、地面に体を打ち付ける。


屋根の上から、見下ろすエンデ。


ヘルガは、屋根から落とされた衝撃で、まだ、動けない。


──このガキ、何者なのだ・・・・・


驚きを隠せないヘルガは、必死に立ち上がる。


『逃げるなら今しかない』。


そう思ったヘルガの思いを砕くように

エンデが、魔法を放つ。


『バインド』


エンデの言葉に従い、周囲の草の蔦が伸び、ヘルガに纏わりついた。


「グッ、なんだこれは!?」


立ち上がりかけたヘルガだったが、再び地面に倒された。


ゆっくりと屋根の上から、降りてくるエンデ。


その背中の翼に、今更ながらヘルガは気が付いた。


「お、お、お前は、何者なんだ!」


エンデは、何も答えず、背中の翼を消す。


そこに、タイミング良く、マリオンの兵士達が現れた。


「マリオン様から、命令を受けて参りました」


「そうなんだ。


 侵入者は、この人だよ」


蔦に絡まり、身動きが取れず地面に横たわるヘルガを、兵士達が睨みつける。


「後は、お任せください」


「うん、宜しく」


こうして、ヘルガは、兵士達によって連行された。



一人、その場に残ったエンデは、屋敷に向かって歩き出す。


──本当に、戻っていいのかなぁ・・・・・


そんな事を思いながら、屋敷の入り口に辿り着くと

そこには、エヴリンの姿があった。



「遅いわよ!


 心配したんだから!」


「うん、ごめん」


エンデを、上から下まで確認するエヴリン。


「怪我していないわよね?」


「大丈夫、問題ないよ」


「そ、ならいいわ。


 夜も遅いし、お風呂に入るわよ。


 それから、心配かけたんだから、今夜は、私の抱き枕になりなさいよね」


「え~」


「つべこべ言わない!


 これは、決定事項よ。


 心配をかけたんだから、言うこと聞きなさい!」


エヴリンは、強引にエンデの手を引き、屋敷の中へと戻って行った。



エヴリンは、どうしても、エンデを離したくなかった。


元々、弟を溺愛してきたエヴリン。


だが、その弟は殺された。


しかし、今、目の前には、瓜二つのエンデがいる。


──この子だけは、絶対に私が守るんだから・・・・・・


弟、マッシュと同じ外見の少年。


その子を殺される訳には、いかない。


それに、今、手を離すと、エンデが消えてしまいそうで、不安だったのだ。




お風呂から、上がっても、エヴリンは、エンデを離さない。


手を繋いだまま、部屋まで、連行する。


だが、エンデを一人にしておけないと考える人物は、もう一人いた。


ルーシアだ。


彼女も、エンデの風呂上がりを待ち伏せていたのだ。


通路を塞ぐ様に立つルーシア。


「2人で、どこに行くのかしら・・・・・・」


──番厄介な人に、見つかってしまったわね・・・・・


その考えは正しく

案の定、ルーシアが離れる訳もなく、

その日は、エヴリンを合わせた3人で

川の字になって寝る事となった。




その日の深夜・・・・・・3人が寝静まった頃

マリオンは、兵士達と共に、地下牢の一番奥にある尋問室にいた。


両手、両足を壁から伸びた鎖に繋がれ、身動きの取れないヘルガに言い放つ。


「全てを吐いてもらうぞ」


ヘルガは、その言葉には答えず、顔を逸らす。


だが、その瞬間、ヘルガの右手に激痛が走った。



「うがぁぁぁぁぁ!!」



手の甲には、レイビアより細い、長い針のようなものが突き刺さっていたのだ。



「早く吐いたほうが、身の為だぞ」


「ぐ・・・・・」


ヘルガは、舌打ちをするだけで、何も話そうとしない。


「そうか・・・・・やれ」


マリオンの合図に従い、ヘルガの前に、火鉢が置かれた。


その中には、先程の長い針が、突っ込まれている。


それを、厚手の手袋をはめた兵士が掴んだ。


真っ赤になった針先を、ヘルガに向ける。


「や、やめろ!」


ヘルガの言葉を無視し、熱した長い針を、二の腕に突き刺す。



「うぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


どんなに叫ぼうが、この部屋には、結界が張られており

外に声が漏れる事はない。


『ジュウゥゥゥ』と肉の焼ける匂いが、室内に広がる。


兵士は、間髪入れず、逆の腕にも、長い針を突き刺した。


「ウガァァァァァァ!!!」


悲鳴と、肉の焦げる匂いが蔓延する尋問室。


そんな状況でも、兵士に、躊躇する姿は見受けられない。


額から、変な汗を流すヘルガに、マリオンが問いかける。


「少しは、話す気になったか?」


その言葉に、渾身の力を振り絞り、抵抗してみせるヘルガ。


「誰が、話すか!


 さっさと、殺せ!」


「・・・・・そうか・・・・・なら、仕方がない」


ヘルガは、素直に話さなかった事を、

後悔することになる程の拷問が開始される。



マリオンの指示で、兵士達により、ヘルガの衣服が引き裂かれた。


全裸で、鎖に繋がれているヘルガ。


「なっ、なにをする気だ!」


兵士は、無言のまま、先程の鉄の棒を、鼠径部に突き刺す。


肉が、薄く、足に繋がる動脈や神経の集まったところを

貫かれ、この世のものとは、思えない程の激痛に見舞われた。


「ふがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


下半身から立ち上る匂いと激痛に、思わず涙が漏れだす。


悲鳴を上げるヘルガ。


だが、容赦はしない。


突き刺した針を抜くと、新たに焼けた針を突き刺した。


焼けた針先が、直接神経に触れ、

声にならない悲鳴を上げているヘルガの目に、

再び、火鉢から新たな針を取り出す兵士の姿が映る。


「ま・・・・・待て・・・待ってくれ・・・頼む・・・」



再び、あの激痛がやって来る事を理解したヘルガは、

恐怖に包み込まれた。


「お願いだ・・・や、やめてくれ・・・・・」


懇願するヘルガ。


しかし・・・・・


マリオンは、冷たく突き放すように言い放つ。


「話したくないのだろ、ならば、仕方があるまい」


その言葉が、絶望へと追い込む。


壁から伸びる鎖に繋がれている為、倒れることも許されない。



「ま、待ってくれ・・・頼む、待ってくれ・・・・・」



「それが、お願いする者の話し方か?」



マリオンの言葉に続くように、

兵士が再び、反対側の鼠径部に針を突き刺した。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


涎を垂らし、項垂れるヘルガ。


肩で息をし、気を失いそうになる。



しかし、水をかけられ、それも許されない。



「寝るのは、まだ早いぞ」


再び、兵士が火鉢から、長い針を手に取る。


──もう、嫌だ、楽になりたい・・・・・


その思いが、口から自然と漏れた。


「お、お願いです。


 なんでも、話します・・・・・

 許してください・・・・・」


懇願を始めるヘルガ。


「そうか・・・・・」



その後、ヘルガは、知っていることを話し始めた。


しかし、途中で、気を失いそうになると、

水を掛けられる。


全てを話し終えるまで、気を失うことも許されない。


ヘルガも必死に、意識を保つ。



焼けた針のおかげか、出血は少ないので、死には至らない。


だが、激痛だけは、何時までも続いている。


そんな中、

ようやく全てを話し終えたヘルガの前から

火鉢が下げられた。


尋問が終わったのだ。


マリオンが、ゆっくりとヘルガに近づく。


「最後に、1つだけ問う。


 お前は、あの子の秘密を見たのか?」



その言葉で、思い出す先程の出来事。


突然現れた少年。


そして、そこで見たもの・・・・・


今まで拷問を受け、忘れていたが、思い出した。



「悪魔の翼・・・・・」



ポツリと呟いた言葉。


その言葉を吐いた途端、ヘルガの心臓には、剣が突き刺さっていた。



「グフッ・・・・・」


「約束通り、好きなだけ眠れ・・・・・」



マリオンは、心臓に突き刺した剣を抜き、その場から立ち去る。



──カーター・・・・・・貴様は、絶対に許さん・・・・・


マリオンは、そう誓い、尋問室を後にした。


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