第11話忍び寄る影とエンデの秘密

数日後、マリオンは、王都から、仲裁者が来ることを、

領主である【ファーガス ゲイルド】から告げられた。



「仲裁だと?

 ・・・・・それは、どういう事なのだ?」


マリオンの表情が、険しくなる。


「儂にも、わからん。


 この度の事件は、貴殿の息子が、

 あ奴に殺されたことについてだと、儂も認識している。


 だが、やって来るのは、執行官ではなく、仲裁者だというではないか。


 どういう事になっているのか、儂の方が聞きたいわ」



ファーガスは、送られてきた手紙を、テーブルの上に放り投げる。




ファーガスは、あの事件の時、マリオンに力を貸してくれた人物の一人であり

友人だ。


だが、領主という立場もあり、あの事件の犯人が

カーターが犯人だと判明し、頭を悩ませていた。


そこに追い打ちをかけるような知らせ。


「どちらにしろ、その仲裁者とやらが来てから

 判断するしかないな」


ファーガスは、そう言って、溜息を吐いた。




それから数日後、

ゲイルドの街に、仲裁者である【ビートル ガンマ】が到着した。



ビートルは、ガンマ子爵家の次男で、現在は、王都の役所で働いているが

子爵という爵位をちらつかせ、役所内では横柄に振舞い

好き勝手にしていると、良い話を聞かない男だ。



そんな男が、仲裁者として、この街にやって来た。



対面を果たしたファーガスは、ビートルと握手を交わす。



「王都から、ようこそいらっしゃいました。


 話をする前に、一度お休みになられますか?


 それとも、直ぐにでも、話を伺いますか?」



「まずは、カーター殿に、会わせて頂きましょう」




「え!?

 カーター殿にですか?


 カーター殿は、この度の加害者で、

 被害者は、マリオン ヴァイス殿ですが?」


「ああ、勿論理解している」


「でしたら、通例通り、被害者であるマリオン殿から

 話を聞かれる筈ですが?」


「いや、加害者とされているカーター殿が先だ!」


ビートルに譲る気はないようだ。


命令ともとれる強い口調で、ファーガスに、言い放つ。


王都からの使者という 立場に逆らう事が出来ず

ファーガスは、仕方なく指示に従う。


ファーガスは、直ぐに兵を呼び、

カーターの所に、案内する様に命じた。


「ご案内いたします」


ビートルは、兵士の案内に従い進むが

カーターの捕らえられている牢獄の手前にある地下通路の入り口で

足を止めた。


「この先なのだな」


「はい」


兵士が、牢獄の並ぶ地下通路のカギを開ける。


「案内ご苦労。


 後は、一人で行くとしよう。


 貴様はここで間待て」


そう告げたビートルは、地下通路を一人で進み、

ある牢の前で、足を止めた。



「カーター殿、カーター殿、ご無事ですか!」


牢獄の中で、ベッドで横になっていたカーターだが

その声に気付き、顔を上げ、地下通路に近づく。


ボロボロの貫頭着に、身を包んでいるカーターだが

大きな傷も見当たらない。


「カーター殿、御無事で何よりです」


「ビートルか、久しぶりだが、どうしてここに?」


「貴方を、助けに参りました。


 もう少しだけお待ちください。


 必ず、ここから出して差し上げますから」


「出来るのか?」


「勿論です。


 その為に、参りましたので、ご心配なく」


その言葉を聞き、嫌らしい笑みを浮かべるカーター。


「ほう、何か策があるという事かな?」


「ええ」


ビートルは、カーターに近づき、何やら耳打ちをした。



話を終えたビートルは、

何事も無かったかのように、来た道を引き返す。


その後、しばらく休むと伝えると、

本日、泊まる部屋へと通された。




部屋に入ると、テーブルの上には、

今回の事件の概要を書き記した手紙が、置いてあった。



「ふむ、これが、今回の事件についての報告書ですか・・・・・」


手紙を手に取り、目を通す。


読み終えたビートルは、その手紙を、テーブルの上に、放り投げると、

『ドカッ』っと腰を下ろした。


「さて・・・そろそろ始めますか」


そう呟いたファーガスは、立ち上がり、ベランダに出ると

懐から魔道具を取り出す。


取り出したのは、光の魔道具。


それを、暗闇に向かって振る。


すると、その光を頼りに、

暗闇の中から、1人の男が姿を見せた。


「ビートル様、こちらに・・・・・・」


「ヴァイス家を詳しく調べろ、

 なんでもいいから、弱みを探せ。


 まぁ、無ければ作るだけだがな」



「では、何か仕込んでおきますか?」


「いや、余計な詮索は、されたくない。

 探すだけで十分だ」


「畏まりました」


そう言い残し、暗闇から現れた男が消える。


ビートルが、被害者であるミリオンとの面会を避け

カーターとの面会を優先させたのは、

この為の時間稼ぎの意味もあったのだ。


ベランダから、部屋の中に戻ると

タイミングよく、扉がが叩かれた。


入って来たのは、屋敷のメイド。


「ビートル様、お食事の準備が整っております」


「そうか、では、案内を頼む」



「畏まりました」


ビートルは、メイドの案内に従い、食堂へと向かった。





その頃、ビートルの指示を受け、暗闇に消えた男【ヘルガ】は、

マリオンのいるヴァイス家を目指していた。



ヘルガは、ビートルよりも先に街に到着しており

下調べを行っていたので、道に迷う事は無い。


ヘルガは、マリオンの屋敷に到着すると、外から、中の様子を窺う。


「旦那も、面倒臭いことを・・・・・・・

 殺してしまえば、問題など簡単に片付くのに・・・・・・」


ヘルガは、この度の事を聞き、舐めてかかっていた。


弱体化した貴族。


それに、子供。


本来なら、ヘルガにとって余裕のある仕事だ。


『万が一、見つかったとしても、殺せばいい。


 その方が、余計な仕事が減る』とさえ、思っていた。



その程度の認識なので、ヘルガは、つい、欲を出してしまう。


出来るだけ早く、この任務を終わらせるつもりだ。


その為、少々強引に、屋敷の屋根裏に侵入することを決意した。



周囲を警戒しながら、塀を乗り越える。


いとも簡単に、屋敷の庭へと降り立つと

辺りを観察した。



──ザルな警備だな、まぁ、俺的には、有難いことだがな・・・・・・


ヘルガは、真っ直ぐに、屋敷を目指す。


同時刻、屋敷内で、マリオン、ルーシア、エヴリンと、

お茶を楽しんでいたエンデだったが、

屋敷に侵入した者の存在に気付いた。



「父様、この家に、誰か、侵入したようです・・・・・」


「えっ!?」


エヴリンは、メイド達の顔を見たが、皆が首を振る。


それでも、エンデは続けた。



「違うよ、お客じゃないみたいだよ、勝手に入って来たんだ」



その言葉に、マリオンは驚き、エンデに尋ねる。



「間違いは、無いのだね」


「うん、間違いじゃない」



マリオンは、急ぎ、兵達に指示をだす。


「侵入者だ、見つけ次第、捕らえよ!」


指示を出した後、マリオンは、ソファーに座りなおしたが

落ち着いている感じには、見えない。


何かに、怯えている気がする。



確かに、マリオンは、また、家族が狙われていると知り、

マッシュを、失った時の事を思い出してしまったのだ。


それは、マリオンだけでなく、ルーシアも同じ。


「貴方・・・・・・」


マリオンの袖を掴む。


手を添え、笑みを浮かべるマリオン。


「大丈夫だ、今度こそ、皆を守る」


2人は、互いに心を落ち着かせようと、お互いの手を、しっかりと握った。


エヴリンも、ソファーに座ったまま、俯き、一点を見つめている。



不安そうな3人。


エンデは、彼らに恩がある。


その為、この状況を放置することなど出来ない。


自然と言葉が漏れた。


「僕が、捕まえて来るよ」


「「「えっ!?」」」


驚く3人をよそに、エンデは、ベランダへと続く、窓を開けると

再度、確認する。



「捕まえれば、良いんだよね」


そう告げるマッシュに、似た少年を

危険に晒させる訳には、いかない。


マリオンは立ち上がり、慌てて止める。


「待ちなさい!


 エンデ君は、ここに居なさい。


 私が、何とかするから!」



その言葉を聞き、エンデは、『二コリ』と微笑む。


「直ぐに戻るから」


ベランダの柵に立つエンデの背中から

服を突き破り、6枚の翼が現れた。


「えっ!?」


「エンデちゃん・・・・・・」


悪魔が纏うような4枚の翼。


しかし、一番下には、天使が纏うような2枚の翼。



一目で、この世に存在しない者だとわかる程の

体を覆う、具現化された魔力。


その姿に、驚きを隠せない。


「嘘・・・・・エンデ、あなた・・・・・何者なの?」



エヴリンの言葉に、返事をせず、エンデは飛び立とうとした。


その瞬間、ルーシアが叫ぶ。


「戻って来るのよ!


 わかっている?


 エンデちゃん、返事をしなさい!」



ルーシアは、エンデに歩み寄る。


常人ではない姿を見ても、怯まない。


驚きはした、ただそれだけ・・・・・



ルーシアは、マッシュが、人ならざる者へと変わり、

帰って来たのだと思っているのだ。


だから、叫ぶように言い聞かせたのだ。


振り返ったエンデも、驚いている。


「いいの?」


「当たり前です。


 勝手に他のところに行くことは、許しませんよ」



いつの間にか、ベランダに立っていたルーシアは、

エンデを、思いっきり抱きしめる。


「何があっても、守ります。


 貴方は、私の子なのですから・・・・・」


その言葉を聞き、エヴリンとマリオンも頷いていた。


その様子を見て、エンデは、改めて告げる。


「行って来ます」


「はい、行ってらっしゃい。


 気を付けるのよ」


ルーシアに、笑顔で応えた後、エンデは、暗い夜空へと飛び立った。




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