第8話覚醒・・・・流れ込む力

近づく灯りのもとにいたのは、バグズとミーヤだった。


「やっぱり戻っていたんだ」


木から飛び降りるエンデ。


「どうしたの?」


「さっきは、ごめん。


 それから・・・・」


ミーヤが、何か告げようとしたが

バグズが、割って入った。


「悪いことは言わん、

 今すぐ、ここから逃げるんだ」


バグズは、そう告げると、手に持っていたカバンをエンデに手渡した。


「この中に食料と、少しだが、人族の使う金も入っている。


 これを持って、今すぐ、ここから離れろ」


何故か、焦っているバグズに従い、エンデは、2人の言葉に従い

その場から離れる事を決意した。



ミーヤと、別れの挨拶を交わしたエンデは、

急いで、その場から離れたのだが

すこし歩いたところで、大勢の人の声と同時に

多くの灯りが、視界に飛び込んで来た。


エンデは、慌てて逃げるが、暗闇が邪魔をして思うように進めない。


そんな中、足元の小枝を踏んでしまい、エンデは音を立ててしまう。


「おい、向こうに誰かいるぞ!」


──気付かれた!!・・・・・


エンデは、近づく灯りとは、逆方向へと走り出す。


だが、相手は、山に慣れている獣人族。


確実に、エンデの居場所を把握し、徐々に距離を詰める。


息を切らし、必死に逃げるエンデだったが、

とうとう追いつかれてしまった。


「やっと見つけたぜ、小僧」


そう言い放ち、エンデの前に出て来たヒューイ。


その後ろには、10人程の獣人族の姿もある。


彼らは、各々に武器を持ち、

殺気に満ちていた。


「小僧、お前に恨みは無いが、人族に対しては、思うところがあってな。


 それに、里の場所を知ったお前を、見逃すわけにもいかないんだよ!」


ヒューイは、そう言い放つと、

エンデに向けて、持っていた小太刀を振り下ろした。


灯りがあるとはいえ、ほぼ暗闇といった状態で、振り下ろされた小太刀を、

エンデは、必死に躱したが、完全に躱すことは出来ず、

左腕に傷を負う。


地面に倒れ、左腕から、血を流しているエンデ。


「観念するんだな」


ヒューイは、笑みを浮かべながら、距離を詰める。


だが、その時。


「みんな、やめてよ!!!」


暗闇の中から、響く声。


その主は、ミーヤ。


ミーヤも、灯りを頼りに、ここまで追って来たのだ。


「ヒューイ、エンデを見逃してあげて!」


「お前は、何を言っている?

 こいつは、人族だぞ。


 それに、お前が連れて来たから、里の場所も知った。

 そんな奴を、見逃すことなど出来るか!」

強く言い放つヒューイに、返す言葉がない。


確かに、ヒューイの言う通り、エンデを里に連れてきたのは、ミーヤ。


その行動が、エンデを追い詰めているのだ。


「でも、あのまま放っておくことなんて・・・・・」


「お前の気持ちも理解できる。


 だがな、相手が人族だった場合、それは間違いだ。

 

 今まで、人族が、俺たちにどんな仕打ちをしてきたか

 思い出してみろ!」


人族は、亜人を見下しており、里を見つければ、襲撃し、全てを奪ってゆくのだ。


山猫族も例外ではない。


何度も、襲撃を受けた。


そんな中から、なんとか逃げ延びた者達が、

この奥深い山の中で、里を築いていたのだ。


だからこそ、エンデを見逃すわけにはいかない。


ミーヤも何度も聞かされていた話なので、

知らないわけがない。


俯くミーヤ。


やっと追いついたバグズも、見ている事しか出来ない。



「わかったら、これ以上、邪魔をするな」



それだけ伝えたヒューイは、

目配せをし、仲間達に合図を送る。

 

ヒューイに従い、魔法が使える山猫人達が、一斉に風の魔法を放つ。


『ウインドカッター』


有無を言わさず放たれた魔法。


しかも近距離。


確実に、エンデに当たると思われたその時、

突如、エンデを光が覆い、魔法を弾き返した。


「え・・・・・」


驚きを隠せない山猫族が声を上げた。


突然の出来事に、エンデも理解が追いついていない。


だが、相手が怯んでいるこの状態は、チャンス。


──逃げなきゃ・・・・・



そう思った瞬間、頭の中に、次々と呪文が刻まれる。


──僕に、何が起きているの!?・・・・・・


覚醒しつつあるエンデだが、

本人は、戸惑うばかり。


しかし、悠長に戸惑っていてもいられない。


覚えたての魔法を言葉にする。


『フライ』


すると、背中に6枚の翼が生え、エンデの体が宙に浮いた。



「わっわっ!」



慌てるエンデ。


その光景を、見上げている山猫族。


「おい、あれ・・・・・」


「嘘だろ・・・」


山猫族が驚いている理由、それは、エンデの羽にあった。


人族だけでなく、亜人たちの間でも、知れ渡っている空想とも思える種族。


天使と悪魔。


その物語の中で、聞き及んだ羽を持つ者が、目の前に現れたのだ。


呆然と見上げている山猫族だったが、

ヒューイの命令で、我に返る。


「あの化け物を逃がすな!!!」


まだ、距離は近い。


攻撃すれば、当たるかもしれない。


だが、攻撃してよいものなのか?


反撃されたら、どうなるのか?


そんな事が、脳裏をよぎり、やはり躊躇する山猫族。


仲間の態度に、苛立つヒューイは、強く命令する。


「逃がすな!」

 

「は、はい!」


再び放たれる風の魔法。


エンデは、脳裏に刻まれていく呪文の中から

防御の魔法を選択する。


『マジックガード』


エンデの右手から繰り出した魔法、マジックガードにより、

風の魔法は塞がれた。


「魔法が駄目なら、直接攻撃すれば良いだけだ」


山猫族の男【コフィー】は、そう言い放つと

木々を足場に、飛び上がる様にして、エンデに迫る。



コフィーは、背中に担いでいた矢筒から、1本の矢を抜き取った。


「これで、終わらせてやるぜ」


狙いを定めるコフィー。


「くたばりやがれ!」


矢が放たれた。


矢は、真っ直ぐエンデに向かっている。


風を切り、エンデに向かって行くが

エンデの目には、その放たれた矢が、スローに見えていた。



エンデは、飛んできた矢を手で掴む。



「嘘だろ・・・・・」


驚きながらも、再び矢を手にするコフィーだったが、

先程までの位置にエンデの姿が無い。


「チッ、何処に行きやがった!?」


コフィーがキョロキョロしていると、

地上の山猫族ちが、必死に叫び声をあげ、

同じ方向を指で示す。


「上?」


コフィーが空を見る。


そこで見えたのは、エンデの足の裏だった。


「がっ・・・・・」


コフィーの顔面に、エンデの蹴りが入る。


地上に叩き落されるコフィー。


枝の上に、降り立つエンデ。


先程までとは違い、

もう、エンデに、逃げるつもりはない。


「今度は、僕の番だね」


エンデは、覚えたての魔法を放つ。


『エクスプロージョン』


ピンポン玉ほどの炎が、山猫人達の中心に落ちる。


地面に触れると同時に、

爆発し、轟音と共に、山猫族を吹き飛ばした。


「う、ぐわぁぁぁぁぁ!!!」


一瞬にして、辺り一面が焦土と化している。


未だ、火が燻る中、エンデは、地上に降り立った。


周りには、焼けた大地と、吹き飛ばされ息絶え絶えの山猫族の姿がある。


「凄いな・・・・・」


自身がやったこととはいえ、思わず言葉が漏れた。



脳裏に刻まれた魔法に感心し、眺めていると、遠くの方から声が聞こえて来た。


「こっちだ!

 早くするんだ!」


その声で、エンデは、我に返る。


「不味い、逃げなきゃ」


再び、空へと上がるエンデ。


視界の先に、ミーヤの姿が見える。


だが、ミーヤの仲間を傷つけた後ろめたさから

掛ける言葉が見つからない。


仕方なく背を向け、その場を離れた。




山猫族の件から一夜明け、

1つの山を越えた所で、エンデは、道を発見する。


行き先の決まっていないエンデが、その道筋に従って飛んでいると

遠くに街が見えてきた。



エンデは、門兵に見つかる前に、地上に降りる。


バグズに貰ったカバンも、あの戦いで失くしており、

多少の不安はあるが、行き先の決まっていないエンデは、

街へと向かって歩く。


荷物も持っていない8歳の少年は、

人々にとって不思議に見えるらしく、

行き交う人々の視線を集めた。



そんな中、エンデを通り越した辺りで、1台の馬車が止まる。


馬車は、装飾が施してあり、いかにも貴族が乗っていそうな馬車だった。



御者が急いで扉を開けると、一組の男女が降りて来た。



「君は、あの街の子か?」



「多分、違うと思う・・・・・

 すいません、ここは何処ですか?」



「ん?


 ここは、ゲイルドの街の手前だ。


 そして、あそこの門を潜れば、ゲイルドの街だよ」




男は、時折、笑顔を見せながら話す。


その間、女性はエンデを見つめたままで、視線を離そうとはしなかった。


「あの、僕に何か?」


女性に尋ねる。


「あ、ごめんなさいね」


女性は、微笑みながら謝罪を口にした。


そんな女性の笑顔が、エドラと被り、エンデの動きが止まる。


「母様・・・・・・」


思わず、洩れた言葉。


その言葉は、女性の耳にも届いていた。


「母様ですか?」


「あっ!

 ごめんなさい」


「ううん、良いのよ、気にしないで。


 ところで貴方、ご両親は?」



「・・・・・・いません。


 父様の事は知らないし、

 母様は、先月亡くなりました」



女性から、笑顔が消える。


「ごめんなさい。


 私としたことが・・・・・」



丁寧に対応してくれる女性が問う。


「ところで、貴方は、これからどうするの?」



「街に行こうと思いますが・・・・・あの・・・・・

 街に入る為には、お金とか、要りますか?」


気まずそうに問いかけるエンデ。


「もしかして、あなた、お金を持っていないの?」


エンデは、恥ずかしそうに頷く。


女性は、男性の方へと向き直る。


「ねぇ、あなた・・・・・」


女性の言いたいことを男は理解した。


「君が決めたのなら、文句は無いよ」


「ありがとう」


女性は、エンデに近づき、笑顔で提案する。


「街の中まで、一緒に行きましょう」


そう告げた女性は、エンデの手を取り、馬車へと向かった。


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