第7話過去の記憶

ランドルを倒し、母の仇を取ったエンデは、

屋敷を出た後、娼館には戻らず、街を出て行った。


行く当てなどない。


ただ、何も考えず、ただ飛んているだけ。


そうして、何日も飛び続けたエンデは、

疲れを覚えたところで、エンデは、近くの山に降りる。


そこで、眠りに就いた。



何も考えず、ひたすら眠るエンデは、夢を見た。



『ずっと一緒にいたかったけど・・・・・ごめんね』


涙を流しながら、微笑む女性。


『我が子よ、どうか、強く・・・』


頭を撫でる男性。


2人は、視界の端々に立つ。


『始めよう』


『ええ』


2人が、何かを唱えながら魔力を注ぎ込むと、床が光り始める。


そして、その光は徐々に広がり、最後には、全てを包み込んだ。


エンデは、そこで、目が覚めた。



目を覚ましたエンデだが、今見た夢が、空想とは思えない。


それは、夢の中の2人には、エンデと同じく、背中に羽が、生えていたからだ。



──もしかして、これ僕・・・・・



そう思えて仕方がない。


エンデも、自身が人族ではない事は、もう理解している。


だからこそ、娼館にも戻らなかったのだから・・・。


自分が何者なのか、わからないエンデだが、未だ、疲れが取れておらず

再び眠りに就く。




何日眠っていたのだろう・・・・・



エンデは、誰かに揺すられて、目を覚ます。



「あっ、生きていたんだね。


 良かったぁ」



そう言って、微笑む少女【ミーヤ】。


「えっと・・・・君は?」


「人に、尋ねる前に、自分が、名乗るべきじゃない?」


「そうだね」


「貴方、名前は?」


少女は、エンデの顔を覗き込む。



「僕はエンデ。


 コルドバの街に住んでいたんだ」



「コルドバの街?」



「うん、それより、ここは何処なの?」



見渡す限りの木々、そして、目の前には川。


道らしきものも無い。



辺りを見渡すエンデに、少女は告げる。



「ここは、『イオンの森』。


 私達、山猫族が暮らしている山だよ。


 因みに、私はミーヤだよ」



エンデは、少女を見つめる。



頭から生えている茶色と焦げ茶色の斑模様の耳。


そして、同じ模様をした、人には無い長い尻尾。



彼女は、亜人と呼ばれる種族だった。


娼館で働く者達の中にも、亜人はいたので、驚きは無い。


だが、初めて見る種族。


思わず手を伸ばし、尻尾を掴む。


娼館にいた頃は、咎める者がおらず、亜人達の耳や尻尾は、触り放題だった。


その為、エンデにとっては、いつもの行動なのだが・・・。



「キャ!」



驚き、声を上げるミーヤだが、

エンデは、お構いなしに、触り心地を楽しむ。



「フサフサして、気持ちいいね」


8歳の少年に、下心など無い。


単純に、触り心地を楽しんでいる。


しかし、しているミーヤの顔は、真っ赤になっていた。


「ふぁ!!!」


思わず、声を上げるミーヤだが、

エンデは、お構いなしに触り続け、

その両手を、尻尾の付け根へと持っていく。


「ふぁぁぁぁぁ~」


気の抜けた声を出し、その場にしゃがみ込んでしまうミーヤ。


エンデは、驚いて、尻尾から手を放した。


「ミーヤ、大丈夫?」


真っ赤な顔をして、震えるミーヤ。


「あのねぇ・・・・・気軽に、女の子の尻尾を、触っちゃダメなんだからね!」


真っ赤な顔のままエンデを睨みつけた。



「ごめんなさい。


 でも、フサフサで、気持ちよかったんだ」



「馬鹿・・・・・」



小声で呟くミーヤだが、

顔は、より一層赤くなっていた。


そんなミーヤに引き連れられ、山の中を歩くエンデ。



「何処に行くの?」


「里よ」


「里?」


「そう、私達、山猫族の里」


それだけ伝えると、ミーヤは、山の中を、スイスイと歩く。


その後を、必死に追うエンデは、必死に後を追う。



「ちょっと、待ってよ!」


「遅いと、置いて行くわよ」


そう言いながらも、チラチラとエンデの様子を伺っているミーヤ。


そんな2人が、暫く進むと

目の前に開けた土地と、家屋が見えて来た。



「あそこが、私の住んでいる里だよ」


里の手前で足を止め、エンデを待っているミーヤ。


追いついたエンデを引き連れ、

山猫族の里に入った途端、山猫族の男衆が集まってきた。


男衆の視線は、エンデに向いている。



どう見ても、歓迎しているようには、思えない。


そんな男衆の間から、1人の老人が姿を見せる。



「あっ、おさ!」



老人をミーヤは、『おさ』と呼んだ。




長である山猫族の族長【ムーア】が、ミーヤに近づく。




「ミーヤ、これはどういうことだ?」


「この子は、エンデって言って

 山の中で、迷子になっていたの。


 だから、連れて来たんだけど・・・・・」


歯切れが悪そうに伝えるミーヤ。


溜息を吐くムーア。


「お前も里に住む者なのだから、知っておるはずじゃ。


 この里には、同族以外は、侵入させてはならぬ。


 それに、人族などに、居場所を知られたとなれば

 どんな不幸が、待ち受ける事になるやら・・・」



里に住む者が、知らない筈がない約束事を

ムーアは、再度話して聞かす。


勿論、ミーヤも、その約束事は知っていた。


だが、あのまま見捨てる事が、出来なかったのだ。



「長、聞いて欲しいの。


 私だって、相手が大人なら、助けたりはしないわ。


 でも、エンデは、まだ子供なのよ。


 それに、ここが何処かも分からないんだよ。


 それでも、放って置けというの?」



「仕方あるまい、それがこの里の『約束事』じゃ」



「・・・・・」


返す言葉も見つからず、言葉に詰まるミーヤの前に

山猫族の男【ヒューイ】が進み出る。


ヒューイの視線は、エンデへと向いていた。


「小僧、そういう事だ。


 ここから去れ!」




突き放すように伝えた後、ヒューイは、追い払うような素振りをした。


そんなヒューイに、同調する様に、ムーアがエンデに伝える。


「エンデとか言ったか?


 話は、聞いておっただろう。


 そう言う事なので、ここから立ち去ってくれ」


ムーアは、そう言い残して、去って行った。



ムーアが去った後、

その場に残っていた山猫族の男達は、

エンデを取り囲む。



「聞いた通りだ。


 死にたくなければ、今すぐ立ち去れ!


 これは、脅しではないぞ!」




ヒューイの言葉に反応し、

武器を手に持ち、エンデと向き合う山猫族の男達。


8歳の男の子を相手にしているとは思えない雰囲気だ。


そんな雰囲気の中、ミーヤは、エンデに話しかけようとするが、

背後から、伸びてきた手に阻まれる。



その手の主は、ミーヤの父である【バグズ】だった。


無言で、首を横に振るバグズ。



「お父さん・・・・・」



父親に捕まえられ、身動きの取れないミーヤ。


泣きそうな顔のミーヤに、エンデは、『ニコッ』と笑顔を見せると

何も言わず、山の中へと、戻って行った。




再び、1人になったエンデは、来た道を引き返している。



暫く歩き、ミーヤと出会った場所まで戻ってきたエンデは、

日も暮れ始めていたので、ここで野宿をすることにした。




娼館にいた時、アイシャ達から魔法を教わっていたおかげで、

火を起こす事には苦労しない。


それに、ロニーからも、野宿の仕方や、山での生活の仕方など

多岐にわたり、教わっていた為、食料の調達も出来た。



本日の食事は、川で獲れた魚。


獲り方は、いたって簡単。


ロニーから教わった『雷の魔法』を川に放つだけ。


そうすれば、魚は感電し、水面に浮かび上がてくる。


エンデは、その魚たちを回収して、今夜の夕食にしたのだ。



木の枝に、魚を突き刺して火で焼いていると

香ばしい魚が焼けた匂いが漂い始める。


「もういいかな?」


エンデは、焼き上がった魚を頬張った。


素っ気ない魚の味・・・・・。


「塩でも、あればいいのに・・・・・」


そんな事を思いながらも、食事を終えたエンデは、寝床代わりの木に登った。


横たわり、夜空を見上げる。



「明日から、どうしよう・・・・」



そんな事を考えている内に、エンデは、自然と眠りに就いた。



そして、再び、夢を見る。



前回と同じ人。


その人に抱かれているのか、視界が揺れる。



『ノワール、そろそろいいか?』


男の声がした。


ノワールと呼ばれた女性は、笑みを浮かべながら移動すると

再び視界が変わる。


目の前には、男の顔がある。


そして、少し離れた場所に、ノワールの姿があった。



そのノワールの背には4枚の白い翼。


──僕と同じ羽・・・・・


エンデがそう思っていると、再び視界が変わり

男の姿も見えた。


男には6枚の黒い翼があった。


──これ、やっぱりただの夢じゃない!・・・・・


そう確信したエンデ。


夢は続く。



『ベーゼ、貴方は、もういいの?』



男の名前が、ベーゼだと知る。


ベーゼは、愛おしそうに、こちらを見つめている。


そして・・・・・ノワールに答えるように呟いた。


『ああ、大丈夫だ。


 別れは済ませた』



そんな会話をする二人の姿に、

何故か、懐かしさを覚えていると、

自然と目が覚める。


エンデが体を起こすと、遠くの方に、灯りが見えた。



その明かりが、徐々に近づいて来る。


警戒するエンデ。


暫くすると、その灯りの正体が判明した。




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