第6話貴族の失態と末路
屋敷の上空に浮かぶ少年に、門兵が気が付く。
「お、おい、あれなんだ?」
「ん?」
門兵の1人と目が合う。
その瞬間、光の矢が門兵の眉間を貫く。
「お、おい・・・・・」
動きの止まっている門兵の肩を叩くと、
その男は崩れ落ちる様に、地面に倒れた。
「ヒィィィィィ!」
叫び声を聞いて、仲間の兵士達が駆けつける。
そこには、腰を抜かしている兵士と、
地面に横たわり、動かなくなった兵士。
「何があったんだ?」
遅れて、駆けて来た兵長【ワーナー】が尋ねるが、
腰を抜かしている兵士は、何を言っているのかわからない。
だが、上空の一点に向かって、指を差している。
その方角に目を向けると
そこには、エンデの姿があった。
「なんだあれは!!」
驚くワーナーだが、背中の羽を見て
魔物と勘違いをする。
「魔物の襲撃だ!」
ワーナーの叫び声を聞き、動き出す兵士達。
エンデに向けて、魔法を放ち、必死に撃ち落とそうとするが
兵士達の攻撃は、かすりもしない。
それでも、必死に攻撃を仕掛ける兵士達。
そんな兵士を、見下ろしているエンデ。
「お前達が・・・・・母様を・・・・・絶対に許さない」
エンデは、自然と拳に集まっていた魔力を放つと
屋敷を包み込むように、光の壁が現れた。
「な、なんだ!」
突如現れた光の壁。
1人の兵士が、その光の壁に触れてみる。
すると、触れた指先が消滅した。
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」
光の壁は、この屋敷の者達を、逃がさないためのもの。
兵士達を睨みつけているエンデは、言葉を発しない。
逃げ道を失った兵士達の取る行動は1つ。
「奴を殺せ!!!」
ワーナーの号令に従い、再び魔法を放とうとした時、
今度は、光の矢が降り注いだ。
「うぎゃぁぁぁ!」
「あ、足がぁぁぁ!」
体を撃ち抜かれ、そのまま動かなくなる者。
まだ、息をしている者。
泣き叫ぶ者達。
その光景を、屋敷の中から覗き見ていたランドルは、理解が追いついていない。
「これは、どういう事だ!
何が起こっている?」
苛立ちを隠せないランドル。
そんなランドルの部屋の扉が叩かれ
1人の兵士が飛び込んで来た。
「し、失礼致します。
ま、魔物のような男から
襲撃を受けております」
「魔物だと・・・・・
なぜ、魔物が、この街に入り込んでいるのだ!」
「それは・・・わかりません」
「あ、相手は、どれくらいの数だ?」
「一体です」
「一体だと、貴様らは、たった一体の魔物も倒せないのか!?」
「も、申し訳ありません」
「・・・・・兵士達は、何をしているのだ・・・・」
憤慨しているランドルに、飛び込んできた兵士が告げる。
「・・・それが・・・」
「は?
はっきりと答えろ!」
「は、はい!
既に、殆どの兵士がやられ、ほぼ全滅しました。」
全滅だと・・・・・な、ならば、援軍を・・・
近隣の貴族連中に、援軍を寄こさせろ!」
「それが、その・・・屋敷の周りには、光の壁が張り巡らされ
それに触れると、大怪我を負いますので、援軍を呼ぶことも不可能かと」
「それも、この屋敷を襲っている者の仕業か?」
「はい、おそらく・・・・・」
屋敷内で、そんな会話を行っている頃、屋敷の外では、
阿鼻叫喚の地獄絵図が、広がっており
既に、まともに動ける者は、半数もいない。
そんな状況下だが、ワーナーは、生き残っていた。
「気を緩めるな、奴を倒す以外、我らに生き残る道は残っていないぞ!」
兵士達を、必死に鼓舞するワーナー。
だが、そんな言葉も空しくさせる行動に出るエンデ。
両腕を左右、真っ直ぐに伸ばすと、
右手側に光の矢、左手側に漆黒の矢が、無数に現れ、
兵士達に向けて放たれた。
至る所を貫かれ、その場に倒れ込む大勢の兵士達。
一瞬にして、地に伏し、梅ぎ声を上げる兵士達の姿に
流石のワーナーも、覚悟を決めるしかない。
「この・・・・・魔物の分際で・・・・」
憎しみを込めて呟くワーナーの前に、ゆっくりと降りてくるエンデ。
武器を構えたワーナーだが、エンデの姿を、はっきりと確認して
愕然とする。
「我らは、こんな子供のような魔物に負けたのか・・・・・」
呟いた声は、誰にも届かない。
その間に、地上に降り立ったエンデ。
その表情からは、感情が読み取れない。
対峙する格好となったワーナー。
自然と武器を握る手に力が入る。
──絶対に、仲間の仇は、取る!・・・・・
覚悟を決めたワーナーに、エンデが話し掛けた。
「おじさん、ここで、偉い人だよね。
だったら、おじさんも、母様を、殺した人なの?」
問いかけられた意味が分からない。
「貴様の母を殺しただと?
貴様のような魔物など、知らぬわ!
そんな事よりも、仲間の仇を取らせてもらう」
ワーナーは、武器を手に襲い掛かるが、
エンデが、威圧を込めて睨みつけると
その風圧で吹き飛ばされ、屋敷の壁に、打ち付けられた。
壁に、めり込み、手足が、あらぬ方向へと曲がってしまったワーナーを無視して
屋敷へと向かうエンデ。
地上には、多くの兵の屍。
少しながら、生きている者もいるが、エンデは、無視して進み、
屋敷の入り口に到着するや否や、扉を破壊して、屋敷内へと侵入する。
だが・・・・・
そこには、護衛の兵士達が待ち構えており、
いきなり攻撃を仕掛けてきた。
「うりゃぁぁぁ!」
兵士が大声を上げ、襲い掛かるが
エンデは、その攻撃を、左手で受け止める。
「僕の邪魔をしないでよ・・・・・」
その言葉と同時に、空いていた右腕を、横一閃に振るうと
男の首が飛んだ。
「えっ!?」
その速さに、兵士達の目は追いつけておらず、
何が、起こったのか分からない。
だが、先陣を切って、攻撃を仕掛けた男の首が飛んだことだけは、理解できる。
待ち構えていた兵士達は、6枚の羽を生やした者に、恐怖を抱く。
「一体、何と戦っているんだ・・・・・・」
武器を構える兵士達の手が、震えている。
「おじさん達、邪魔をしないでよ。
僕は、ランドルとかいう人に、会いたいだけなんだ」
「ランドル様に、会いたいだと・・・・」
「うん、そうだよ。
その人は、母様を殺したんだ。
だから、邪魔をしないでくれないかな」
そう言い終えると同時に、歩みを進めるエンデ。
後退る兵士達。
その距離が詰まると、恐怖から逃げる事が出来ず
武器を放り投げて、エンデに話しかける。
「わ、わかった、邪魔はしない。
・・・・お・俺達は、関係ないんだ。
お金を貰って、ここで働いているだけだ。
それに、俺たちだって、好きでしていたわけでは無いから、見逃してくれ」
口々に自身を擁護する兵士達だったが、その中で、
看過できない言葉を、エンデは、聞き逃さなかった。
『俺たちだって、好きでしていたわけでは無い』
その言葉の意味を問う。
「好きでしていたわけでは無いって、何の事?」
口を滑らせて、吐いたのだが、エンデに圧力に屈して
1人の兵士が、話始める。
それは、ランドルが攫い、弄んだ後、必要の無くなった女性達の行く末。
兵士達の慰み者。
兵士達は、『おこぼれ』を貰っていたのだ。
嫌がる事など関係ない、彼らにとっては、ただの遊びであり『ご褒美』。
飽きれば、殺すなり、捨てればいいだけ。
罪にも咎められない。
その言葉を聞いたエンデの怒りが爆発する。
突如、屋敷内に吹き荒れる風。
それは、エンデの怒りを具現化したかのように
全てのものを吹き飛ばす。
家具、花瓶、それに兵士達。
至る所に衝突し、その風は、徐々に赤みを帯びてゆく。
呼吸すらままならない風が止んだ時、辺り一面は破壊され
動く者は、何も残っていなかった。
崩壊した屋敷の入り口から、再び歩き出すエンデ。
当然、先程の音は、ランドルにも届いており
恐怖を募らせていた。
崩壊した階段を飛び越え、2階に上がったエンデは、
一つ一つ扉を開けて、中を確認する。
ランドルとエンデの距離が、徐々に詰まってゆく。
そして、ある部屋に、辿り着く。
ゆっくりと扉を開いたエンデの視界に、
ランドルと、護衛の兵士達の姿が映る。
室内に入ってきたエンデの姿を見て
ランドルは、驚きを隠せない。
「お前は、たしか『黄金郷』にいた小僧・・・」
娼館に通っていただけあって、エンデを見た事があったのだが
エドラの息子だとは、知らなかった。
ただの下働きの子供としか思っていなかったのだ。
「貴様のような小僧が、この儂に、何の恨みがあるというのだ!?
もしかして、『黄金郷』を閉店に追いやった事か?」
「・・・・・・」
ランドルを睨みつけているエンデは、言葉を発しない。
その為、ランドルは、誤解をし、とある提案をする。
「確かに、閉店は、やりすぎたかもしれん。
なので、儂が手を貸してやろう。
そうすれば、あの店も、また繁盛するし、貴様も仕事を失わなくて済むぞ。
あと・・・そうだ、貴様を店主にしてやる」
ランドルが、この様な提案をしたが、エンデの表情は変わらない。
「おい、返事をしろ!」
ランドルの提案に対しても、無言を貫いているエンデに
上から目線を崩さないランドル。
そんなランドルに向けて、エンデが口を開く。
「・・・店の事じゃない。
お前が殺した母様の仇を討ちに来たんだ!」
「母様?
もしかして、貴様は、エドラの息子なのか!!」
エンデの目が、大きく開く。
「お前は、許さない・・・・・」
エンデのその一言を聞き、ランドルの顔が歪む。
「あの女、この儂の言う事を聞かぬだけでなく
こんな化け物を、産み落としていたとは・・・・・」
武器を手に取り、身構えるランドル。
そんなランドルに向かって、エンデが右腕を振り下ろすと
光の刃が、ランドルの両腕を切り裂き飛ばした。
「うぎゃぁぁぁぁぁ!」
突然の出来事に、護衛の兵士達も、呆然としている。
のた打ち回るランドル。
「は、早く、こいつをどうにかしろ!」
その命令を受けて、兵士達が襲い掛かるが、
光の刃で、体を切り刻まれ、あっと言う間に、命を失う。
護衛を失い、蹲っているランデルに、向かって歩き始めるエンデ。
途中で、兵士の使っていた剣を拾う。
両腕を失くしているランドルの顔に、剣を近づける。
「母様の仇だ。
お前は、許さない」
ランドルの心臓に、剣を突き立てて、息の根を止めると、
エンデは、屋敷を後にした。
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