第5話貴族の失態と・・・・・
この日のランドルは、完全に酔っていた。
その為、いつも以上に、我儘に振舞う。
「おい、ランドル様が、来てやったぞ!」
ランドルを筆頭に、護衛の2人と共に、入り口を塞いでいる。
後ろに控えている護衛も、かなり酒が入っているようだ。
そこに、慌てて駆け寄るイビル。
「ランドル様、ようこそいらっしゃいました」
娼館の主人、イビルは、いつものように出迎えた。
しかし・・・・・
「貴様、たかが娼館の主人の分際で、
この俺様を待たせるとは、どういうことだ!!!」
ランドルは、イビルを蹴り飛ばした。
「うぐっ・・・・・」
「旦那様!」
床に倒れ込むイビルに近づき、起き上がらせる使用人達。
ランドルは、イビルを睨みつけている。
「おい、謝罪も無しか・・・・・本当に、いい度胸だな」
使用人達に、支えられているイビルのもとに、ランドルの護衛が近づく。
そして、両脇を抱え、ランドルの前に連れて行き、跪かせた。
「おい、謝罪代わりに、靴を舐めろ」
「えっ!?」
「謝罪するんだろ、だったら靴を舐めろ」
そう告げるランドル。
護衛の男たちも、その言葉に従い、
イビルの頭を押さえつけ、ランドルの靴に、顔を近づけさせた。
子爵であるランドルに逆らえず、使用人達も立ち尽くしたままだ。
そこに、エドラが姿を見せる。
「騒がしいわね、何なの!」
薄いガウンを羽織るエドラの登場に、ランドルが笑みを浮かべた。
「いい所に来たな。
この男が気に入らぬから、お仕置きをしている最中だ。
お前も、俺様に逆らうと、同じ目に合わせるぞ。
わかったら、俺様の屋敷に来い」
「嫌よ」
即答すると、ランドルの顔が歪む。
「貴様は、何時まで待っても、変わらぬのだな」
「もちろんよ」
「ほう・・・・」
この騒ぎを聞きつけた者達が、店の前に集まり始め、
人だかりが出来始めていた。
ランドルは、その事に気付くと、
外へと向き直り、大声を上げる。
「今日で『黄金郷』は閉店だ!
よく見ておけ!
この俺様に逆らえば、こうなるのだ!」
イビルの横にいた護衛達は、その言葉を合図に、店の中で暴れ始めた。
「いいぞ、こんな店、潰してしまえ!
ワハハハ・・・・・」
店を破壊する護衛の男達は、使用人達にも手をあげる。
大柄な護衛に殴られ、吹き飛ばされる従業員達。
イビルは、ランドルの前で土下座をし、懇願する。
「お止め下さい。
この者達は、関係ありません。
お願い致します」
地面に額を付け、懇願するイビル。
しかし、ランドルの目は、エドラだけを見ていて
イビルのお願いなど、聞くつもりもない。
「どうするエドラ。
貴様が屋敷に来るなら、許してやらんでもないぞ」
そう言い放ち、下卑た笑みを見せるランドルだったが
エドラが返事をする前に、イビルが再び間に割って入る。
「この者達は、関係御座いません。
ですので、お断り致します」
エドラよりも先に、断りを入れた。
ランドルは、イビルを睨みつけると腰の剣を抜く。
次の瞬間・・・
「不敬罪だ!」
そう言い放つと同時に、剣を振り下ろした。
鈍い音と共に、床に倒れ込むイビル。
「だ、旦那様!!」
「嘘だろ・・・・」
やじ馬達も驚いている。
ランドルの剣には、事実を物語るように、血がついている。
倒れ込み、ピクリとも動かないイビル。
その周りに、ゆっくりと広がる血だまり。
「エドラ、よく見ろ!
これは、お前のせいだ。
お前が、俺様に従っていれば、このような事には、ならなかったのだ。
どうする?
早く返事をしないと、次の犠牲者が出るぞ」
護衛の男たちも、剣を抜いた。
「・・・・・わかったわ。
だから、もうやめて・・・・・」
エドラの言葉に、ランドルは、笑みを浮かべた。
だが、まだ終わらない。
「おい、それが、俺様に頼む態度か!
お前は、礼儀を知らないのか!?」
完全に見下し、ふざけている。
だが、エドラが従わなければ、犠牲者が出てしまう。
エドラは覚悟を決め、ランドルの前で跪いた。
「ランドル様、私は、お屋敷にお伺いさせて頂きます」
そう伝え、深々と頭を下げる。
「そうか、私のところに、来たいのだな」
「・・・・・はい」
「では、参ろうか」
ランドルは、エドラを連れて店から出ると
馬車に乗り込む瞬間、エドラに小声で告げた。
「今まで、随分待たせおって、
ただで済むと思うなよ」
そう告げた後、エドラを、馬車の中に押し込んだ。
ランドルが去ると、使用人達は、急いでイビルに駆け寄った。
しかし、既に息絶えていた。
「旦那さまぁぁぁぁ!」
悲しみに暮れる使用人達。
そんな中、何も知らないエンデは、母であるエドラの言いつけを守り、
娼婦達の休憩室で、エドラの帰りを待っていた。
だが、翌日、エドラは、帰って来なかった。
次の日も、その次の日も・・・・・
そして・・・・・
7日後、エドラは、死体となって、川に捨てられていたところを発見された。
娼婦の館『黄金郷』。
あの日から、店は閉まっている。
イビルが死に、今度は、エドラが死んだ。
いや、殺された。
店は悲しみに包まれ、今までの華やかさが、嘘のように思える。
母の亡骸を前に、泣きじゃくっているエンデ。
「母様、母様、母様ぁぁぁぁぁ!!!」
エドラの体には、無数の深い傷跡があった。
また、美しかった顔も、原形をとどめておらず
親しい者達でなければ、エドラだと判断することが難しい程の状態だった。
「なんで、なんでこうなったの!」
周りにいる大人達に尋ねるエンデ。
誰かが、ポツリと呟く。
「あの男だ、ランドル エンデバだよ。
あいつの仕業なんだ・・・・・」
その言葉を聞き、顔を上げるエンデ。
「ねぇ、それは、誰?
何処に住んでいるの?」
問いかけるエンデの表情からは、完全に感情が消えており
涙も、痕しか残っていなかった。
「ねぇ、教えてよ。
アイシャ、お願いだから、教えてよ・・・・・」
この様な状態のエンデに、アイシャは、教えることが出来なかった。
「ごめん・・・・・」
暫くの沈黙が流れた後、
エンデは、スクッと立ち上がる。
「ちょっと、何処に行くんだい?」
「・・・・・トイレ」
そう言い残し、エンデは、部屋を出て行った。
そのまま娼館を出ると、エンデは、初めて街の中を歩く。
ランドル エンデバの屋敷に向かう為に・・・・・
街を彷徨い、通り過ぎる人に、ランドルの屋敷を訪ねる。
それを繰り返し、エンデは、とうとうランドルの屋敷の近くまで辿り着く。
「もうすぐだから、母様。
仇は、絶対に取るから・・・・・」
再び歩き出すエンデ。
自然と両肩の包帯が解け、天使と悪魔の翼が晒される。
その瞬間、エンデの体に変化が起きた。
背中に現れる6枚の羽。
白い羽が2枚。
黒い羽が4枚。
6枚の羽を広げ、ランドルの屋敷の上まで飛ぶ、そこで止まった。
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