第4話転生~人間界に産まれし、天魔の子


人間界の、とある街『コルドバ』


酒場、宿、娼館が立ち並ぶ、裕福な街。




この街の近くには、ダンジョンと化した洞窟がある為

多くの冒険者達で、賑わっている。




その街の娼館の1つ『黄金郷』。


この店で働く娼婦【エドラ】。


年齢は21歳だが、貴族や金持ちの商人達が、足繁く通う美女。




そんなエドラが妊娠した。


相手は、誰かはわからない。



本来、娼婦は、駐在している魔法士から、

毎日、避妊の魔法を掛けて貰っている為に、妊娠する事など

起りえない事なのだが、それでもエドラは、妊娠をしたのだ。



この出来事に焦ったのは、『黄金郷』の主人【イビル】。



「エドラ、まさか、産むとか・・・・・言わないよな」



エドラが店に出るだけで、莫大な金を生む。


その為、長く休まれる事を懸念し、堕胎を勧めるイビル。



「私、産むわよ」


「そんな・・・・・」


迷いなく答えるエドラに、イビルは頭を抱える。




──どうしたら、いいのだ・・・・・



どんなに説得をしても、エドラの意思は変わらない。


それに、この事を、娼館の外に漏らす訳にもいかないのだ。


エドラの客は、上位貴族か、大金持ち。


その中の誰かが、父親となると、良い想像が出来ない。


そんなイビルの苦悩をよそに、

エドラは、次の日から店を休んだ。


対応に追われるイビル。


当日の予約が無かった分、幾分はマシだったが、

それでも、突然の来訪もある。



店の前に、馬車が横付けされる度に、イビルの心が磨り減る。


そして、また・・・・・




『黄金郷』の前に止まる一台の馬車。


その馬車を見て、思わず顔が歪みそうになる。




降りて来たのは、青年。


子爵家の跡取り【ランドル エンデバ】。




彼の目的は、エドラ。


それも、金と権力にものを言わせ、

必死に口説き落とそうとしている質の悪い男だ。



「おい、エドラだ」


店の入り口で、そう告げる。


イビルは、額に汗を流しながら告げた。




「申し訳ございません。


 エドラは、体調が悪く、本日は、休んでおります」




「は!?


 貴様、俺様が、誰だかわかっているのか?」




「はい・・・・・ですが、体調が悪く・・・・・」




イビルは、必死に説明するが、ランドルは、聞き入れようとしない。



「ここで商売が出来るのは、俺様のおかげだろ!」



勘違い発言をするランドル。



「早くしろ!」



繰り返される言葉。


ランドルの傲慢な態度に、イビルに、限界が訪れる。



──このガキ、調子に乗り負って・・・・・・



『連れて来い!』と未だに繰り返すランドルに、イビルが言い返す。



「ランドル様、申し訳ございません。


 いくら、同じ言葉を繰り返されても、応じることは出来ません。


 それに・・・・・これ以上騒ぎを起こすなら、

 私も、然るべき方に相談しなくては、ならなくなります」



「貴様、どういう事だ?」



「エドラを、ご贔屓にして頂いているのは、貴方様だけでは御座いません。


 『困った事があれば、相談に来い』


 そう仰って下さる貴族の方々も多いのです。


 その中には、侯爵家の方もおられますが・・・・・」



ランドルの顔色が変わる。


自分より上位の貴族が出てくれば、分が悪くなるのは明らかだ。


まして、娼館で揉めたなどと噂になれば、家名にも傷がつく。



「もういい、今日は帰る」


憤慨しながらも、ランドルはそう言い残して去って行った。



「ふぅ・・・・・」



安堵するイビル。


だが、これからの事を考えると、頭が痛くなる。



翌日も、エドラと話し合いをしたが、結果は変わらなかった。


最後には、『店を辞める』そう言いだしたエドラに

イビルが折れる形で、話しがついた。



そうして、イビルが頭を悩ませながらも日々は過ぎていき

妊娠が発覚してから8か月後、エドラは、立派な男の子を産む。


名は【エンデ】と命名された。



エンデの存在は、外部に知られるわけにはいかない。


その為、外に出しても裏庭だけで、街に連れ出す訳には行かず

娼館内だけで育てられることになった。


また、エドラが仕事に出ている間は、

客がついていない娼婦が面倒を見ており、

エドラは、安心して、仕事に励むことが出来た。


娼婦の中には亜人も多く、その中には、魔法に長けた者もいる。


その他に、元冒険者、元傭兵、元軍人、元貴族令嬢。


様々な過去を持つ者達が働いている高級娼館『黄金郷』。


訳あってここで働いているが、

皆、エンデにとっては、良い先生であることは間違いはない。



そのおかげで、街に出る事が許されないエンデだったが

その人たちから多くの事を学ぶことが出来た。



5歳の時、元魔法士【アイシャ】がエンデに、簡単な魔法を見せる。



「どう、奇麗でしょ」



掌で火花を散らし、花火の様に弾ける炎。


エンデは、笑顔で見つめている。



「ねぇ、これ、僕にも出来る?」



何気ない一言だった。



「わからないけど、試してみる?」



「うん!


 僕も、やってみたい!」



近くで見ていたエドラも頷く。


エドラは人族。


しかも、魔法が使えない女性。


魔力を持たない人族から、魔力を持つ者が生まれる事など、滅多にない。



当然、エドラも、その事は理解しているが

やらせてみたくなったのだ。



アイシャから、手順を聞くエンデの姿は、真剣そのもの。



「えっと・・・・・体の中心に・・・・・」



言われたとおりに、実行する。


すると・・・・・・



体を包み込み、可視出来る程の魔力を放つエンデ。


放たれる魔力。


それは、部屋中に広がる。



天使と悪魔の間に産まれた子、エンデ。

見事に転生を果たし、覚醒した瞬間だった。


だが、本人は、その事を知る由もない。



「エドラ・・・・・・」


教えたはずのアイシャも、言葉にならない衝撃。


それは、エドラも同様だった。


勿論、周囲で見ていた者達も・・・・・・



「此処までの魔力を持つ者は、国の抱える魔法士の中にも、いないわ」



元軍人である【ロニー】が告げる。


未だに、驚いたまま固まっているエドラ。



「ちょっと、エドラ!」



「えっ!?


 うん、そうね・・・・・」



事態が飲み込めていないエドラは、空返事をする事しか出来ない。


事態が落ち着いた後、

皆の勧めもあって、エンデは、勉学の他に

魔法を教わることになった。



そして、現在。


魔法や学問、武術を習い始めて3年。



8歳のエンデの成長は凄まじく、教えられた魔法は全て吸収し、

武術も、子供とは思えない程にまで、習得していた。



ただ1つ、気になる事があった。


それは、魔法や武術を習いだしてから、

エンデの両肩に、不思議な痣が浮かびあがっていること。



左肩には、悪魔の羽にも見える痣。


右肩には、天使の羽に見える痣。



初めは、気にも留めていなかったが、日を追う毎にはっきりと表れ、

誰が見ても、その形は、はっきりとしてきた。



その為、エドラは、エンデの身を案じ、

両肩には、包帯を巻きつける様に、言い聞かせた。



だが、この年、運命を変える事件が起きる。



きっかけは、あの男、ランドル エンデバ。


8年経った今でも、エドラを諦めていなかった。



当主になった現在、彼の行動に、住民たちは迷惑を被っていた。


ランドルは、街で気に入った女性を見かけると、

直ぐに屋敷に呼びつけ、手籠めにする。


そして、飽きるまで遊び尽くして捨てる。



そんな事を、繰り返しているのだ。



だが、それを訴える者はいない。


訴えたところで、もみ消され、子爵家を敵に回すことになるからだ。


民に出来る事、それは、泣き寝入りをする事だけだった。



愚劣な男、ランドルは、エドラに会う為、

今日も護衛を連れて、『黄金郷』に姿を見せた。




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