天魔の子。人族として、転生しました。

第3話プロローグ～とある世界の出来事～3

暫くして、目を覚ましたベーゼ。

傷は治っており、周りに天使族の気配もない。

「助かったのか・・・・・」

起き上がると、ベーゼは、体に違和感を感じ

手のひらに魔力を浮かび上がらせる。

『ポワッ』と浮かび上がるピンポン玉ほどの魔力の塊。

「これが、俺の今の力・・・・・」

マリスィの一撃で、ベーゼの魔力回路は、破壊されていた。

その為、今までのように、膨大な魔力を使う魔法を使うには、

相当の時間を要するようになった。

「魔法を使うのは、控えよう」

そう決めたベーゼは、ノワールの待つ場所へと走り出す。

夕暮れ時、待ち合わせの場所に到着したベーゼ。

そこには、ノワールの姿があった。

ホッと胸を撫で下ろす。

「大丈夫だったか？」

「ええ・・・・・でも、あなた・・・・・」

ノワールは、気が付く。

ベーゼから、魔力の流れが、殆ど感じとれない。

「もしかして・・・・・」

ノワールは、直ぐに理解した。

「あの方の『光の三又の槍（トライデント）を受けたのですね」

「ああ、だが問題ない。

　魔法が使えないわけでは無いんだ。

　それに、君を助け出せれたんだ。

　この程度の代償なら、安い物さ」

そう言って、笑顔を見せるベーゼ。

「それより、今は、直ぐにでも移動しよう」

「何処かあるの？」

「勿論だ、誰にも知られていない場所がある」

ベーゼは、ノワールの手を引いて、山奥に向けて歩き始めた。

それから数か月後、ノワールは、無事に男の子を出産した。

魔界の山奥深く。

廃墟と化した村で、２人は生活をしていた。

ここは、ベーゼが生まれた村。

ベーゼは、貴族でも、金持ちの子でもなかった。

貧しいこの村で、狩りを生業とする両親から産まれた子供だったのだ。

小さい頃から、魔力が豊富で、魔法に長けていたベーゼに

両親は将来を有望し、楽しみにしていたのだが

ある時、この村にとって最悪の事件が起きる。

『スタンピード』

突如、魔物が群れを成し、この村を襲ったのだ。

狩りを生業にする者たちの住む村だけに、

多くの魔物を倒し、必死に抵抗をした。

しかし、魔物の襲撃は、収まらない。

数の暴力に屈し、とうとう、村への侵入を許す。

そこから始まった蹂躙劇。

村人は、次々と魔物の餌となり、次々と命を落とす。

ベーゼの両親も、ベーゼを地下の倉庫に隠した上で、戦いに参加する。

家の中に、隠されていたベーゼは、心配のあまり、地下倉庫から抜け出し

窓の外を覗く。

そこで目にした光景、それは・・・・・

魔物達に、食い散らかされる母の姿だった。

恐怖よりも、怒りの感情に支配されるベーゼ。

「絶対に、許さない・・・・・」

膨れ上がる憎悪と魔力。

その力が、限界に達した時、

魔力が暴発し、周囲の建物もろとも魔物を吹き飛ばした。

その威力は、凄まじく、村の建物は、土台を残して消え、

辺りには、死体１つ残っていなかった。

その後、ベーゼは、後に到着した悪魔軍に保護され、

当時の兵団長に、養子として迎い入れられ、魔王の地位にまで上り詰めたのだ。

いわくつきの廃村。

誰も近寄らない場所。

２人は、そこで暮らしていたのだ。

だが・・・・・

２人の幸せは、続かない。

ベーゼが生きている事を、悪魔達は許さない。

その筆頭と言える男、バルバド。

魔王の地位を狙うバルバドにとって、またとない機会。

だが、普通に戦っては、勝てる筈がない。

そんなバルバドに、とある噂が、耳に入る。

『ベーゼは、魔法が使えないかもしれない』

この事を知り、バルバドの気持ちが固まった。

「何としても、ベーゼを探し出せ！」

それから3か月後・・・・・・

ベーゼの居場所を突き止めたバルバドは、

自身の悪魔兵と共に、いわくつきの廃村へと向かう。

バルバド率いる悪魔兵の数、５千。

到着したバルバドは、慎重に家屋を囲い、逃げ道を塞ぐ。

そして、ゆっくりと間合いを詰める。

しかし、ノワールが悪魔の気配に気付く。

「ベーゼ、私達、囲まれているわ」

「なんだと！」

感知した時には、既に手遅れ。

「駄目、逃げ道も無さそう」

産まれた子を、家の奥に隠し、２人は家屋を飛び出す。

━━最後まで、足掻いてやる・・・・・

そんな２人の前に、姿を見せるバルバド。

「ベーゼ様、お久しぶりで御座います」

ほくそ笑みながら、挨拶をする。

「バルバドか・・・・・

　私の命を取りに来たのだな」

「ええ、その通りで御座います。

　勿論、隣の方・・・・・それと・・・・」

バルバドの視線は、家屋へと向く。

ハッとしたノワールは、必死に懇願する。

「私たちは、どうなってもいい。

　でも、子供に罪はないわ。

　だから・・・・・・」

ノワールは、バルバドに向けて叫んだ。

しかし・・・・

「それは、無理な相談です。

　天使と悪魔の間に産まれた子。

　生かしておく意味がわかりません。

　残念ですが、そろそろお時間です」

バルバドの号令に従い、悪魔兵達が、一斉に襲い掛かる。

ベーゼもノワールも応戦する。

「散りなさい『ホーリーレイン』」

光の矢が、空から降り注ぎ、攻めてきた悪魔兵を悉（ことごと）く倒した。

一方、ベーゼは、接近戦

その様子に、確信するバルバト。

──噂通り、魔法が使えないようですね・・・・・・

バルバドは、命令を下す。

「距離を保ち、魔法を使え！」

悪魔兵達は命令に従い、前衛が下がり、魔法部隊が攻撃を開始する。

ベーゼにとって、最悪の状況。

自身の身も守ることが出来ない。

ノワールが防御魔法を使い、２人の身を守る。

だが、完全に手詰まり。

バルバドは、魔力が切れるのを待つだけでいい。

「・・・・・ノワール、すまない」

その言葉の意味を理解するノワール。

２人は、逃げ延びれなくなった時の事を、ずっと前から話し合い、

その時に、どうするかを決めていたのだ。

ノワールは微笑む。

「ええ、最後まで一緒よ」

２人は、家の中に駆け込むと、直ぐに防御魔法で包んだ。

「悪足掻きですか・・・・・

　いつまで、魔力が持つのでしょうか？」

勝利を確信しているバルバドは、焦らず、高みの見物をしている。

しかし、その頃、家の中のでは、

予め準備していた魔法陣の中心に、

我が子を逃す準備を進めていた。

「ずっと一緒にいたかったけど・・・・・ごめんね」

涙を流しながら、我が子を抱きしめ、微笑むノワール。

「我が子よ、どうか、強く」

子供の頭を優しく撫でるベーゼ。

２人は、魔法陣の際に立った。

「始めよう」

「ええ」

ベーゼは、ここまで温存していた最後の魔力を放つ。

ノワールは、足りない分を補う為に、全ての魔力を注ぎ込む。

静かに始まる『禁忌』の詠唱。

それは、一部の魔王だけに、伝えられしもの。

２人の呼吸が一致する。

「「白と黒、相容れぬ二つの血が交わる時、

　我らの願い、我らの魂を代償に、

　その者の魂が時の波を遡り

　新たなる息吹を迎える事を望む」」

詠唱を終えると、３人の立て籠もる家屋が、光と闇に包まれる。

そして・・・・・

２人が発する最後の言葉。

『リ・インカーネーション』

転生を願う親の力により、魔術は成功する。

だが、『禁呪』の効果は、それだけでは無かった。

白と黒の光が、天へと昇った後、

周囲を巻き込む、光の大爆発を起こしたのだ。

悪魔兵５千とバルバド。

共に、その光に巻き込まれ、消滅する。

全てが、治まった後、

いわくつきの廃村には、何も残っていなかった・・・・・・。

魔王ベーゼの死が魔界中に広まった頃

ベーゼの配下の者達と、一部の領民の姿が忽然と消えた。

それから数年後・・・・・