第157話 ガジェット鉱山のダンジョン5

 目の前には大きな沼地が広がっている。ダンジョンの中にしては珍しく、通路が整備されている。人が一人通れる程度の木製の橋は、ずっと遠くまで延びているようだった。


 ハヤト班が到着するまでの時間に、2階のマッピングもしてしまおうと階段を降りたとたんに、言葉を失ったのだ。


「これ、珍しいね」


 沼に入らずに目的地に行くために、誰かが作ったように見えた。しかし、ダンジョンに普通の建造物は作れない。


 魔物を倒したあと、要らない部分などをダンジョン内に放置しておくと、しばらくして消えてしまう。それは、他の魔物に食べられる以外にも、魔力に分解され、ダンジョンに取り込まれていると考えられた。


 外から持ち込んだものも同じだ。魔物などよりも長い時間放置しても大丈夫というだけで、10日ほど同じ場所に放置してあれば、分解されてしまう。台車やテントなど、毎日少しずつ動かしているので消えないだけなのだ。


「消えないってことは、もともとこういう作りのダンジョンなんじゃ?」

 恐る恐る橋に乗ってみても、ぐらつくようなこともない。

 カイトの班員が橋を観察しながら進んでいった。


「なぁ、ここに、魔方陣」


 通路に張った板の横に魔方陣の隅が見えている。


「ダンジョンが作り出したものじゃないってことですよね」


 ダンジョンの中でも消えないように固定する魔方陣だ。どちらかと言えば魔道具の分類で、かなり複雑で特別な魔法だ。

 立っていて見えないように裏に張り付けてあったものが、すこしはみ出したのだろう。横ならば注意深く見なければ見えない。疑いの目で見なければ、気づかなかっただろう。


「人が入っているってことは確定だな」


 その通路をたどっていったら、3階へ続く階段に出た。


「3階が気になるが、マッピングだ」

 ぽっかり空いた穴を覗き込んで、今にも下りていきそうなニーナをカイトが止める。

 3年間先生として過ごした日々があるので、いつもなら突っ込んでいくニーナもカイトに同意した。


 あまり沼が深くないところを選んで、ズブズブと進んでいく。沼は濁っていて、深さがわからないので、たまに深いところにはまり、お互い助け合いながら、泥だらけになって進んだ。


 たまにクロコダイルに出くわすが、レインが気がつくので、危なげなく進むことができた。


「あそこに陸地!!」

 嬉しそうな声が響く。カイト班は、ほっと息をついた。

 泥の沼は歩きにくくて、固い地面が恋しい。


「あぁ、いくら『身体強化』していても、足をとられるのは大変だな」


 カイトは自分に『浄化』の魔法をかけ、泥をきれいにすると地面に大の字になって休憩し始めた。


 ニーナは生えている木に寄りかかって座る。レインがとなりに座った。

 不意に地面に手をつくと、シャラリと石が擦れたわけではない音がする。

「なんだろ~?」

 思わず疑問が口から出ていた。


 草を掻き分けて音の出所を探すと、太めの鎖が見える。指で鎖をつまみ上げると、何か引っ掛かった。


 古いものかもしれない。ダンジョンの中にある人工物は、固定の魔方陣がかかっているから形を保っているだけだ。脆くなっているかもしれない。


 壊れないようにそっと、引っ掛かっている草の方を引っ張りながら、ゆっくりと上げると、ペンダントトップが現れた。


「ねぇ、これ、見つけたんだけど」


 目の前にぶら下げて、みんなに報告する。報告する声が、震えていた。


 ペンダントトップには、「ミハナ愛してる ダリア」と刻まれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る