第156話 ガジェット鉱山のダンジョン4
カイトを先頭に、見つけた階段を下りていく。
まだ10段ほどしか進んでいないうちから、ダンジョンの入り口だと確信した。レインがたくさんの魔力を関知したからだ。
「何もないな」
一足早く地面についたカイトが呟く。
「見渡す限り、草原ですね」
イアンが同意する。
「ガジェット鉱山のダンジョンとは雰囲気が違うな」
ガジェット鉱山のダンジョンには、大きな木がところどころにはえていたが、ここには一本の木も見当たらない。あちこちに草が生い茂っている場所があるだけで、遠くまで良く見えた。
もしかしたらどこかで繋がっているかもしれないが、違うダンジョンと考えるのが自然だ。
「あそこにいる魔物って、見たことないかも!!」
ニーナが楽しそうに跳び跳ねた。
赤黒い大きなトカゲが、のそのそと歩いている。大きいといっても、小柄なニーナと同じくらい。動きの緩慢さから、あまり強そうには見えない。
「ちょっと倒してみる!!」
止める暇もなく飛び出したニーナが、赤黒いトカゲに迫る。あとちょっとで射程距離というところで、ニーナの接近に気がついたトカゲが、バタバタと翼を広げた。
「飛ぶの??」
ダンジョンの一階は初級で、強い魔物がでない階層。翼のある魔物などいるはずかないのだが。
翼を広げた威嚇に効果がないと気がついたトカゲは、ニーナに背を向けて走り出す。その走り方が、なぜだか不器用で、不格好。
ニーナもトカゲの必死な走りに吹き出していたが、「何あれ?」と呟くと、右手で魔方陣を描きながら速度を上げる。
「風刃!!」
トカゲの進行方向に攻撃し、進路妨害する。それだけでトカゲはジタバタともがいて立ち止まった。
風刃で起きた土ぼこりが収まるころ、トカゲは再び走り出したが、既にニーナは近くに迫っている。
『身体強化』で一気に距離を詰め、大剣を首に突き刺した。
「あれ? なんで?」
見たこともない走り方から、始めての魔物だと思っていたが、よく知っている魔物だ。
あまり得意ではない『浮遊』を諦め、『身体強化』で持ち上げてみんなのところに戻る。
「ねぇ、これってさぁ~」
皆も魔物を取り囲むように集まってきた。
「火吹き竜だったのか?」
「始めての魔物だと思ったのに~。まぁ、確かに、火吹き竜が地面を走っているってのは、ある意味、始めてだったけど」
本来なら翼を広げて滑空する魔物だ。高い木のてっぺんに潜み、身の危険を感じると飛び出して、違う木まで滑空する。そのあとスルスルと木を上って同じことを繰り返すのだ。
「火吹き竜って中級最後の課題だったよな」
高い木の上にいるために、探すのに苦労したのを覚えている。攻撃力も防御力も高くはないが、滑空して逃げるので、遠距離攻撃を正確に当てる必要もあり、中級最後の課題だったのだ。
「たしか、学園の10階くらいにいたんだっけ?」
「そうだと思うぞ」
「じゃあ、なんでここに?」
「反乱…………って感じじゃないな」
ユージが周りを見渡して呟いた。
反乱しそうなくらい魔物が増えると、本来いる階層を追い出されて、浅い階層に強い魔物が出てきてしまう。
しかし、このダンジョンはそんな風に見えなかった。
反乱間近のダンジョンを国境近くで経験したが、魔物を倒し終わったらすぐに次の魔物が現れるような状態だった。このダンジョンは視界を遮るものがなく遠くまで見えるが、そこまで魔物が多いように感じない。
「もともとあったダンジョンのすぐ近くに新しくダンジョンが出来たっていうのも変だし、1階に火吹き竜がいるのも変だ。とにかく、マッピングしながら、探索してみよう」
簡単に言えば、ダンジョンは魔力の吹き出し口だ。すでに吹き出し口があれば、そこを通って魔力が出ていくのが普通。すぐ近くに新しい吹き出し口が出来しまうなど、今まで起こらなかったのだ。
端から端まで歩き回って1階のマッピングを完成させたが、ガジェット鉱山のダンジョンに繋がっているようなことはなかった。
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