第148話 国境のダンジョン11
「ニーナ、あっち」
レインに言われた方向を見れば、お尻を向けたメタルタートルがいる。
「いってくる」
小さな声で囁くと、握っていたレインの手を離した。
身を屈めて、死角から走る。
一気にスピードをあげて飛び上がると、そのまま大剣を振り下ろした。
「やったぁ!!」
レインが『浮遊』をかけてくれたので、メタルタートルを浮かせて持ち帰る。
「みんな~、次だよ」
「ニーナ……。張り切るのはいいが、捌ききれないよ」
今は、国境のダンジョンの8階。
闘技場で燻っていた冒険者を動員して、魔物の反乱を防ぐ作戦が取られている。
数は少ないものの、4階にはメタルタートルがいて、上級の魔物が溢れてしまっていた。
初級の魔物は、動員した冒険者に任せて、イアン班はメタルタートルを狙っている。
冒険者には、協力金として一定額が支払われている。さらに魔物を倒して得られた魔物素材は、他のダンジョンよりは安くはなってしまうものの、クリューが買い取っていたときよりは5倍ほどに値上がりし、こんなに高く売れるのかと冒険者達が感激していた。
いまは協力金も支払われているので、この値段だが、反乱の兆候が落ち着いて、普通のダンジョンに戻れば、協力金がなくなるかわりに、魔石の値段は他のダンジョンと同じ値段まで値上がりする。それは、冒険者達にも伝えられて、今から張り切っていた。
「そろそろ、いったん帰る?」
「そうだな。本部から、応援が到着する頃だろ」
メタルタートルの甲羅についている金属を取り外し、魔石を取り出す。
本当は甲羅なども売れるのだが、台車にのせたとしても持ちきれないので、置いていくことにした。
台車を押して階を戻っていくと、明らかに魔物が減っていた。あとは、8階以降のメタルタートルを倒せば、反乱の兆候はなくなりそうだ。
「お疲れさま~」
事務所には新しい人が派遣された。もともと事務所に派遣されていた人も、少しずつ回復して事務所に出てきてた。
事務所の職員は、クリューに弱い毒を飲まされていたらしい。会うたびにミハナの『回復』をかけることで、少しずつだが働けるまでに回復を見せていた。
クリューが事務所の職員に毒を盛ったのは、事務所での売買を自分の言い値で動かしたかったからだ。
魔石を冒険者から、タダ同然で買う。普通の値段で売ったとしても、買い取った値段が安いのでかなりの利益がでる。それを自分の懐にいれていたのだ。
しかし、あまりに安くしすぎて、冒険者が離れていってしまった。そうなると、タグル達の暴挙にも目をつぶらざるをえない。タグル達が持ち込む冒険者の装備を、新品同様に整備して高く売ることでしか、利益を得られないようになっていたのだから。
エインスワール隊の事務所勤めとしての給料は貰っていたのに、それでもお金が足りなかったのは、闘技場の賭けに入れ込んでいたからだ。
冒険者がタグル達しかいなくなる。たまに訪れるパーティは、タグル達の餌食になってしまう。魔物は倒されずに、増えていってしまう。
昔から、倒すのが大変なわりに高くは売れないメタルタートルは人気がなく、倒す人がいなかったのだが、さらに増えていってしまった。
反乱の兆候にも気がついていたのだが、クリュー一人でどうにかなることではなかった。
事務所まで一気に戻ったイアン班はスワンと合流して、メタルタートルの金属を預ける。
「さっき、ハヤト班が到着していましたよ」
スワンの教えてくれたところへ行くと、ダンジョンに入るために荷物のチェックをしているハヤト班を見つけた。
「ハヤトさん!!」
ユージが呼び掛けると、顔を上げた。
「おっ!! ユージじゃないか!? ちょっと、でかくなったか?」
「そんなにかわりませんよ」
「そうか?? エースパーティになるなんて、すごいじゃないか。試験に連れていってよかったぜ」
「あのときは、お世話になりました」
未成年だったユージをダンジョンに連れていってくれ、さらにエインスワール学園に入るように勧めてくれた。試験にも連れ添ってくれたのだ。
「エインスワール隊にはなると思っていたが、まさかエースパーティになるとはな」
「ハヤトさんのお陰ですね」
「ははは。いい仲間に巡りあったんだろ?」
荷物のチェックが終わったらしく、仲間から声がかかる。
「じゃあ、俺たちいってくるわ。お前らはしっかり休んどけよ」
ある程度の魔物を倒せば、反乱の兆候はなくなるらしい。上級の階層にいるはずのメタルタートルが浅い階層にいたのは、溢れそうなくらい魔物がいて、上級の階層が居心地が悪いからだという。
適度に魔物を狩ってやれば、上級の魔物は、上級の階層の方が過ごしやすいので、自然と戻っていくらしい。
「数日休んだら、追いかけますね」
「おう!!」
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