第147話 国境のダンジョン10
「なにすんだよ!? お前ら、なんだ?」
事務所の外が騒然とした。おじさんは、慌てて入り口に向かう。
開け放たれた扉から、タグル達が拘束されているのが見えた。
「うわぁ~!! 何をしているのですか?」
事務所のおじさんは、両腕をバタつかせて右往左往している。
「話はゆっくり聞くので、大人しくしてください」
高そうな防具を身に付けた、いかにも冒険者という男達が4人。その後ろからスワンが顔を出した。
「あぁ、皆さん。ナイス演技です!!」
「スワン……。演技をしていたのは、俺だけだ……」
イアンが、ため息をつく。
苦笑いをしているのは、ミハナとユージ。何となく察していたのだろう。
ポカンと口を開けているのは、ニーナとレインとカレン。
おじさんは、ソロリソロリと横移動していく。
「クリューを捕まえてください」
「へ? おじさんも??」
ニーナが困惑している間に、クリューと呼ばれた事務所のおじさんは、駆け出した。
「とにかく!! こちらで責任を取ります!! 捕まえて!!」
ニーナが、「えぇ!!」と困惑しながらも走り出す。
「ニーナ!! 頼みましたよ!!」
スワンの一言が決めてだった。スワンの言葉なら、信頼できる。
エインスワール隊のクリューが『身体強化』を使って逃げる速度は早く、エースパーティのイアン班にしか対応できそうになかった。
「ニーナ!! 挟み撃ちだ」
ユージの指示に、思いっきり走り出したニーナは、目にもとまらぬ速さだった。
突風が吹き抜けたのかと思うほどだ。
クリューに背中から抱きつくように飛び付き、地面に押し倒したニーナは、
「これ、どうしたらいい??」
と、叫んでいる。
「ニーナ!! どうして、抱きついたの??」
レインが頬を膨らめて走り出す。それに気がついたユージが、レインの前に立ちふさがった。
「まぁ、まぁ」
宥めながら、ニーナのいるところに向かう。
ニーナがいる限りは逃られないと伝えた後、おじさんを担いで戻ってきた。
ニーナに後ろからハグしてご満悦なレインはともかく、地面に下ろされたクリューもロープで捕縛された。
「私、闘技場の町にあります、エインスワール支部のアイクと申します」
もう一人も支部のエインスワール隊で、他の二人は腕のたつ冒険者らしい。
「こちらの事務所が、こんなことになっているとは、まったく気がつきませんでした」
闘技場の町は、冒険者と旅行者で溢れ、日々起こる様々な問題に忙殺されていたらしい。
「こんなことって?」
ニーナが首をかしげる。今、わかっている範囲のことを、説明してくれた。
イアンが一人離れたところで話し合い、スワンと作戦をたてた。
魔物を避けて帰れるのに、向かってくるすべての魔物と戦っていたのは、スワンが隣町にいき、話を通す時間を稼いでいた。
スワンの走りなら、余裕がありすぎるくらい時間があるが、いつもと違うことをすると、要らないことを口走ってタグル達に警戒される恐れがあったので、定期報告の時間まで待っていたのだ。
その代わり、『ベルゼバブ』の噂について、町で聞いておいてくれた。ダンジョンから帰ってこないパーティがいると噂になってから、『ベルゼバブ』の仕業だと騒ぎだしたらしい。タグル達が、自分達のやっていることをベルゼバブのせいにしていたのだろう。
定期報告の時間になり、支部の中で魔道具を起動する。スワンは隣町にいて、すぐには帰れないことを強調する。警戒心を解きつつ、話すように促した。
まず、タグル達については、スワンとの話から、冒険者狩りをしていると自白していた。
声だけの会話に、対面したときほどの警戒感が持てなかった。初めて使う魔道具に高揚感もあったのかもしれない。
アイク達が一緒に聞いていたので、自白が決め手となった。
ただし、冒険者狩りなんて、普通の事務所であればできるわけがない。冒険者から奪った装備は、処分するのに困るはずだ。
ダンジョン帰りの冒険者が装備を売ると言えば、奪っただけでは なく、拾ったということも疑われる。
拾ったとしても、魔物との戦いで命をおとした冒険者の持ち物だった場合、報告しなければならない。遺品を少しでも集めて、遺族に返すのが常だからだ。その場合、売却は出来ない。
タグル達が、普通に売れるといっていたことで、クリューにも疑いが向いた。
定期報告が終わった後、魔道具の魔石は入りっぱなしだった。つまりこちらの声は、スワンのもつ魔道具から流れ続ける。逆にスワンの声は、イアンのもつ小型の魔道具に転送していた。
それだけでは決め手にかけるので、さいごに魔石の値段を聞いたのだ。事務所でレートを変えられるとはいえ、目安の範囲は決まっている。その目安に比べて、大幅に安いということだけで、問題だった。
これから、エインスワール本部に手紙を送り、応援を要請する。全貌がわかるには、まだ時間がかかりそうだった。
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