第145話 国境のダンジョン8

 相変わらず魔物は多い。


「氷の刃!!」


 ニーナの魔法詠唱と共に鋭くとがった氷の塊が向かっていく。目の前に現れた魔物の眉間に直撃した。


「よし!!」

 走り込んで大剣で攻撃するよりも楽なのではないかと思い、遠距離攻撃に切り替えてみた。

 攻撃は成功したが、魔石を取り出すには近づかなければならない。

 魔方陣はからだの近くに出現させたまま、魔物の魔石を取り出す。ガサガサとやぶが揺れた。魔方陣に魔力を流し込む。


 ガサガサ!!


「氷の刃!!」

 飛び出してきた魔物に突き刺さった。


「ホントに、キリがないよぉ!!」


「 ニーナとレイン!! 休憩にしよう」


 まだここは二階。ポーションで回復しているから体力と魔力は残っている、しかし、そろそろ精神力というか気力が限界だった。


 ノロノロとイアンのところへ戻ると、ミハナが台車から荷物を下ろしていた。

「スワンへの定期報告の時間だよ。食事をしながら話そっか」


 レインが疲れきった顔で戻ってくる。

「まだ近くに魔物がいるけど……」

「ニーナに、魔方陣だけ準備しておいてもらおう。魔石は後でとればいいよ。とにかく休もう」

 イアンの顔にも疲労が浮かんでいた。


 みんなで集まって、ドカッと座る。鉄板を温めて、肉を焼き始めた。

 近くに魔道具をのせた台車も移動して、魔石を入れる。点滅を数回繰り返した後、点灯に変わった。


「皆さん、お疲れさまです。今は何階ですか?」

「スワン~。本当に魔物が多いんだよ」

 ぶぅぶぅと文句をいうニーナの言葉を、イアンが引き継ぐ。

「今は2階だよ。でも疲れたし、急いで帰ろうと思っているんだ」

 それに驚いたのは、ニーナだ。

「急いで帰れるの??」

「前から飛び出してきた魔物だけは倒さないといけないけれど、横や後ろから来た魔物は、走って逃げよう」


「では、そんなにかかりませんね」

 スワンが、少し残念そうな声を出した。

「僕は隣町にいるんで、間に合いそうにありません。事務所までお迎えにいきたかったんですけど」

 今から夜になる。移動には向かない時間だ。

「ホテルの場所はわかってるから、帰って休んでるよ」


「ゆっくり寝てください。ところで、切り付けてきた人って、事務所に連れていくんですよね?」


 3人組は自分達のことが話題にあがり、魔道具を凝視している。


「あぁ、3人組だ」

「何で冒険者狩りをしているのか、聞きましたか?」

「いや、スワン、話してみるか?」


 スワンが「是非に」というので、3人をのせた台車を近づける。


「俺らは、話すことなんかねぇよ!!」

「そう言わずに。皆さんことは何てお呼びすればいいですか?」

「名前なんて、教えるわけがないだろ?」

「では、皆さんはいつから、このダンジョンで活動しているんですか?」


「5年くらいになるんじゃねぇか?」

「お前、素直に答えてどうするんだよ!!」

 リーダー格っぽい男が、答えた男の頭をしばく。


「その間、ずっと、冒険者狩りをしているのですか?」

 リーダー格の男は口を結んだのに、他の男が話し出す。

「稼げるからなぁ。それに、俺ら、人を相手にする方がいいんだ」


「そうなんですか?」

 スワンの顔が見えないからだろうか。警戒心が働かないようだ。スワンも非難することはなく、「ほぅ」とか、「えぇ!」とか、気持ちよく話せるように相づちを打つ。


「近くに闘技場があるだろ? 装備やポーションはよく売れるんだ。テントや台車も高く売れる。逆に、このダンジョンでは、魔物素材はゴミクズ同然だからなぁ」

「お前、話しすぎだ!!」


「隣町にいる奴に何ができる??」

 スワンが隣町にいることを、しっかりと聞いていたらしい。

 ダンジョンまでの距離を考えたリーダーは、「まぁ、そうか」と険しかった表情を解いた。


「魔石もですか?」

「あぁ、袋一杯で、一晩の宿代になるかどうかかな」


 それでは、魔物を倒す人はいなくなり、稼げる闘技場に冒険者が行ってしまうのも仕方がない。


「では、皆さんも闘技場にいった方が稼げたのではないのですか?」


「俺らは、魔法が使えないんだ。エインスワールの冒険者は派手な魔法を使うだろ? 闘技場は、魔法の応酬が盛り上がるんだよ。俺らみたいな余所者は、居場所がねぇんだよ」


 自分達を余所者と呼ぶからには、エインスワール王国出身ではないのだろう。この町は国境に近いので、他の国からきた可能性は十分にある。


「他のダンジョンへは移動しなかったんですか?」


 エインスワール王国で冒険者の資格が取れたのなら、他のダンジョンでも活動できる。


「まぁな。エインスワールの冒険者は、魔力が切れたら弱いんだよ。魔力に頼りすぎだな。だから、疲れたときを狙えば、確実に稼げる。それに、魔力では叶わないエインスワールの冒険者をいたぶれると思ったら、楽しくてな。しかも、エインスワールの冒険者には、女が多いんだ。魔力が切れちまえば、赤子かってくらい弱いぜ。わははは」


「装備を取られたと、訴えられたことはないんですか?」

「そりゃ、あるわけないだろ? 殺しちまうんだから。死人に口なしってな」


 スワンは、しばらく沈黙した。


「ところで、手に入れた装備はどこで売り払うのですか?」


「そりゃ、事務所だよ」

「他の冒険者のものでも買い取ってくれるのですか? それとも、新品同様にする秘訣があるのですか?」


 魔法の使えない彼らに『浄化』は無理だ。地道に布で磨いたり、使い古した素材を新しくしたりと、使用感を消すためにはそれなりに時間が必要だろう。


「はぁ~?? そんなことしねぇよ。そのまま売ってるんだ」


「そ、そうなんですね」

「なんだ? 変なこといって」

「いえ。色々、参考になりました。では、イアン。また後で」


 3人組は魔道具に向かって、「なんだ変な奴だな」と言っている。

 ニーナや、レイン、カレンが、今にも疑問を口にしそうな表情をしているのを、イアンとミハナ、ユージが視線で止めていた。

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