第144話 国境のダンジョン7
台車の上を片付けて、3人が座れる場所を確保する。
「逃げないでくださいね」
「逃げねぇよ」
3人は、台車の上に大人しく座った。
台車は魔力を通すと少しだけ浮き上がるので、座っている3人が転げ落ちる心配はない。
しかし、逃げられては困るので、ずっと見張っていなければならない。
「これって、帰りも、大変なやつだよね?」
ニーナが周りを見回す。今のところ、魔物の姿はない。
「だろうな~。階層の魔物を全部倒した訳じゃないし」
たくさんの魔物を倒したつもりだが、魔物がいなくなったのは一時的だ。周りから移動してきて、すでに魔物だらけになっているはず。
「やっぱり、焼き払いた~い!!」
「やめろ!! ニーナがやると、マジで焼け野原になる!!」
「焼け野原……」
今朝の会話の繰り返しだが、3人組は言葉を失っていた。
「少しだけ周りの魔物を片付けたら、少し眠るか?」
「だめ~!!」
もうすでにいい時間だ。夕飯を食べて、体力も回復したい。イアンが提案したのだが、レインが力一杯否定する。
「ええ?」
「魔物が多すぎて、こんなところじゃ寝れないよ」
レインの魔力探知は正確だ。昨日だって、皆、しっかり眠れていない。魔物が近づいてくるたびに、魔力を探知してしまうレインは、尚更休めていない。
今回は、台車にのせた3人組の見張りをしながら、魔物も倒しながらの休憩になる。
「レインが言うなら、ポーション飲みながら休まず帰るか?」
「うん。ダンジョンの外でちゃんと寝た方がいい」
「じゃあ、食事だけだな」
当たり前のように受け入れて、手分けし始めたメンバー。鉄板を取り出し始めたユージとミハナ。その他のメンバーは、近くにいる魔物を倒しに向かう。せめて、食事の間くらい、戦いたくない。
「え?? マジか?」
3人組は、台車の上から、嫌そうな声をあげた。
「台車にのって、寝てていいよ」
「いや、いや、いや、いや。馬鹿言わないでくれ? 魔物が来たら、やっぱり怖いし」
「ここら辺の魔物なら、大丈夫。ニーナが瞬殺だから」
「あっ、あぁ~」
ニーナの戦いを見ているので、納得せざるをえないような、それでも魔物がウヨウヨいるようなところでは眠れないとでもいいたいような、変な顔をしていた。
最後まで魔物を警戒していたレインが戻ってきた。
「少しの間なら、大丈夫だと思うけど」
ニーナの隣に座る。肉は、はじめから9人分焼いた。
パンに一枚ずつ挟んで配っていく。
「俺らにもくれるのか?」
「どうぞ」
切りかかって来たとはいえ、非人道的な扱いをするつもりはない。裁かれるのは、事務所に帰ってからだ。
お腹いっぱいになるまで食べて、ポーションを一気飲み。無理矢理回復させられる感覚にも、そろそろ慣れてきた。
3人が乗った台車を守りながら、少しづつ時間を掛けて進む。ダンジョンでは時間がわかりにくいが、そろそろスワンに定期報告する時間が近づいてきた。
朝食を取りながら、スワンに連絡しようと魔道具に魔石を入れる。数回、点滅すると点灯に変わった。
「皆さんおはようございます。そっちの様子はどうですか?」
いつも通りの声が聞こえてきて、ほっとする。
「スワン、おはよう。それがさぁ、事務所に戻っているんだよね~」
「どうしたんですか?」
「切りかかってきた奴らがいてさぁ。事務所に連れていく途中~」
「そうなんですか!! それを証言してくれる人は、いるんですか?」
「それがいないんだ」
このダンジョンには魔物ばかりで人がいない。
魔道具の向こうで、スワンが「う~ん」と唸っている。しばらくすると、「それがいいかも」と、何かを思い付いたようだ。
「僕に考えがあります。ところで、そこに、切りかかってきた人たちもいるんですよね?」
この場にいないのに、見えているようだ。
「よくわかったな~」
「イアンと二人で話すことってできますか?」
「ちょっと待って。片方、台車借りていくよ。レイン、サポート頼む」
イアンは、長いこと話している。たまに向かってくる魔物は、まだ距離がある状態でレインが察知して、倒しているようだった。
「なぁ、あれなんだ? 箱は、魔道具か? 人の声がしていたようだが。魔道具がしゃべるのか?」
「遠い場所の人と、会話できる魔道具だよ。あれもエインスワール隊の特注品」
「あいつ、そんなもんできたって、言ってなかったけどな。黙ってたのか?」
不満そうに眉間にシワを寄せる。
剣を叩き落とされて逃げていくときにも、『あいつ』と言っていた。
「あいつってだれ?」
「さっ、さぁ~な」
急に取り繕って、視線を逸らせる。
「お前らには関係ないだろ?」
「本当に関係ないのかなぁ~?」
ニーナが仁王立ちで、怪しむ。
「か、関係ねぇよ!!」
ニーナがしばらく怪しんでいたが、イアンが帰ってきたので移動を再開することになった。
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