第143話 国境のダンジョン6

第139話から第142話のエピソードの名前が間違ってました。すみません。



「だから、どういうこと?」

 言いたいことが、わからないわけではない。


「お前ら、馬鹿なんだな~」

「まぁ、そのうちわかるだろ。ぎゃあぎゃあ泣いて、命乞いをするころには」


「じゃあ、いつまでも、わからなくていいかな」

 ニーナが「ふふん」と鼻を鳴らして、胸を張る。


「はぁ~?? やっぱ、こいつら、馬鹿だ。大量の魔物にも、突っ込んでいくことしかできねぇしよぉ」


 余裕で倒せることがわかっていて突っ込んでいるのだが、訂正する気も起きない。


 3人が、腰の剣を抜いて、イアン班に切っ先を向ける。


「あのさぁ~。こういう場合って、どうすればいいんだっけ?」

 ニーナが、振り返ってイアンに聞く。

「えっと、制圧して事務所まで引っ張っていって、報告するのが正解だと思うけど。俺たち、まだ新人だからなぁ~」


 砂漠のダンジョンのように、事務所へ証拠を示せない。その状態で新人のいうことを信じてもらうには、少し苦労するだろう。


「何を、ごちゃごちゃ言っているんだ??」


「こっちの話~」


「こいつら、本当に馬鹿だぞ!?」

 「がはは」と濁った声で笑う。

「まぁ、いい。男から狙え。俺はあのでかい奴がいいな」

「じゃあ、俺は、あのいけすかない奴」

「はぁ~?? あの黒髪、弱そうだぞ~。お前があの黒髪にしろよ」



「もういいよ。誰が誰でも~!!」

 イアン班にとって、負ける要素などないのだから。

 叫ぶとニーナが一番前で身構える。イアン班の中では、ニーナが一番好戦的なのだ。

「おぉ! あの姉ちゃんやる気だぜ!? 隠れていればいいものを」

 3人組は、ニヤニヤしながら切っ先を向けて近づいてくる。


「もう、そっちが先に向かってきたんだからね~!!」

 ニーナが大剣を抜き放った。

「ニーナ!!」

 イアンが鋭く名前を呼ぶ。

「わかってる~!!」


「あの姉ちゃん、でかい獲物持ってんなぁ。高く売れそうじゃないか?」


 こちらから切りかかるわけにはいかない。「早く向かってきてくれないかしら」とカレンが、焦れったそうにする。

「他の奴らも、結構いい剣じゃねぇか?」

「台車もテントも一級品だったよな」

「金持ちになれるぞぉ」

 剣を弄びながら、ダラダラと近づいてきていたが、やっと目の前まで来た。

 剣を構えて、ジリジリと動く。切りかかるタイミングを計っているらしい。


 小柄なニーナが、大きな大剣を楽々と構えているのを見て、眉をしかめた。


「その剣は、軽そうだなぁ~。いい剣なのか? おもちゃなのか?」

「そんなのどうだっていいだろ? 売ってみればわかる!」

 やっと、剣を振り上げて、切りかかってくる。ニーナにとっては、無駄の多いゆっくりとした動き。


「売れるわけないじゃん!! エインスワール隊の管理品だよ」


「エイィ・・・?」

 そういったときには、ニーナが大剣を振り上げていた。

「えい!!」

 男の剣を躱しながら、魔力を込めた大剣を振り下ろす。ニーナの意思に沿う大剣は、振り下ろすと共に、ドシッと重くなる。速さに加え重さの乗った大剣が、男の剣を叩く。


「はや・・! ・・・いって!!」


 男の剣は地面に落ち、派手な音を立てた。あまりの勢いに、剣を握る腕が痺れてしまったようだ。腕を擦りながら後退る。

 他の二人も、剣をとばされていた。何が起こったのかわからずに、キョロキョロと見回しながら後退する。


「こいつら、まさか、エインスワール隊??」

「何で、こんなところにいるんだよ!?」

「あいつ、嘘つきやがったなぁ!」

 そう叫ぶと、背を向けて逃げていく。3階に繋がる階段に駆け込んだ。


「あれって、ほっといていい?」

「ニーナ、そりゃ不味い!!」

 イアンが、3人組の落としていった剣を拾いながら叫んだ。


 事務所に帰って、「エインスワール隊に襲われた」と騒ぐ可能性もある。

 そのときに一緒にいなければ、反論も出来ない。

 もちろん後から訂正することはできるが、それなら何故一緒に来なかったのだということになる。訂正するには余計に時間がかかるかもしれない。


 エインスワール隊がダンジョン内を常に見張っていられるわけではない。自分達がエインスワール隊だと名乗れば、そのときだけいい顔をして、エインスワール隊がいなくなったら悪さをする可能性があがる。普段からエインスワール隊だと言うことも避けていた。


 台車を回収して階段に急ぐ。3階に戻ると3人組が必死の形相でこちらに向かってきていた。


「へ?」

「助けてくれ~」

 レインが、呆れてため息をついた。

 よくよく見るとラビットに終われている。

 剣を落としてしまったので、戦えずに逃げているのだろうが……。


「魔法使えないの??」


「使えねぇよ!!」


「守ってあげるから、大人しくできる??」

「わかった。わかった!!」


 ニーナが大剣を構えて走る。ラビットを瞬殺した。

 男達には、あまりのスピードに、次の瞬間にはラビットの首が飛んでいるように見えた。そのすぐ後に、魔石を手にしたニーナが近くに戻っている。


「あの姉ちゃん、あんなに強かったのか?」

「ニーナは、あんなもんじゃないぞ」


「はぁ~??」

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