第142話 国境のダンジョン5
階段の一段を飛ばすように飛び降りると、木々の間からポックンという音が聞こえてくる。
ポックン、ポックン。
次々に姿を表したのは、ポックンだった。
学園の課題で、大量に倒した記憶がある。その後にも大量の魔石をお土産にするために、かなりの数を倒した。
芋のような丸い体の上部から、数枚の葉っぱが生えていて、ポックンという気の抜けた音を立てて歩く魔物だ。
群れになって襲ってくる魔物で、防御力が高い。イアン班にとっては大したことのない魔物だが、数が多いのが厄介だ。
ポックン、ポックン、ポックン、ポックン。
「なんか、多くない?」
地面が見えないほどのポックン。愛嬌のある見た目の魔物だが、ここまで多いと可愛さは半減して気味の悪さまでしてくる。
「うげっ!!」
いまだに後ろをつけていた3人組は、妙な声を上げると階段に戻っていった。
それを見たニーナが顔をしかめた。
「うげぇ~!!」
2階、3階と通り抜けて4階に入ったが、ずっとついてきている。明らかに自分達が狙われているときには戦うが、それ以外は息を潜めて戦いを回避していた。
「倒さないと、進めないよ」
「わかってる~。でも、この数!! スワンとの定期連絡に、間に合うかなぁ?」
「無理だろ!! ミハナ、スワンとの連絡は頼む!!」
ミハナを囲むようにフォーメーションを組んだ。
「イアンは、ミハナについていて!!」
「こんなに沢山のポックンは、久しぶりね~」
「カレンったら。この量は初めてだよ」
「確か、攻撃したら、逃げていくんだったかしら」
「これだけいたら、逃げる場所もないよ」
「とにかく、魔石を取り出して倒すぞ!!」
「は~い」
ニーナがはじめに飛び出した。一番近くにいたポックンの魔石を、解体用のナイフを使ってほじくり出す。周りのポックンは、驚いて逃げ始めた。しかし、地面が見えないほどのポックン。逃げる場所はない。その場でジタバタと足を動かしている。
取り出した魔石を、腰のポケットに突っ込み、次のポックンに向かう。
魔道具に魔石を入れると点滅していたが、しばらくして点灯に変わった。
「すみません。遅くなりました」
「スワン。こっちは戦闘中なの」
「大丈夫なんですか?」
「相手は、ポックンだから大丈夫」
「ポックンって、あの魔物ですよね?」
スワンの嫌そうな気配が伝わってくる。課題の時に、苦労したのだろう。
「こっちは今、4階。メタルタートルにたどり着くには、まだかかりそう。一度、帰ることになるかもしれない」
二日で4階。上級の階層にいるメタルタートルまでは、まだまだ遠い。10日以内に一度戻るとダンジョン事務所で明言しているので、帰らなければならない。
「僕は、支部に行ってきましたよ。魔物の量が多いのは、氾濫の予兆だそうです。深い階層の魔物が浅い層にいるのも危険だそうです」
「深い階層の魔物?? それは、まだみてないけど。これって、まずいんじゃ?」
「どの程度かわからないので、なんともいえないそうですが、少しでも魔物を倒して減らして欲しいと言われました」
「わかった。でも、焼け石に水だよ……」
いくらエースパーティとはいえ、この6人で倒せる数には限界がある。
「そうですよね。ダンジョン事務所に一人しかいないことも伝えたので、人を派遣してくれるはずです。ただ、 こちらも手いっぱいらしくて、人を派遣するには少し時間がかかるそうです」
それまでに、氾濫しなければいいが。一匹でも多く魔物を減らすことくらいしか、できることはない。
「あと、こちらの町に人が多い理由が、分かりました。そちらのダンジョンで、仕事にあぶれた冒険者たちが、こちらの闘技場で戦うようになったそうです。勝てば、大きなお金が手に入るようで、冒険者には、いい仕事らしいです。それだけではなく、どちらが勝つか賭けも流行っていて、観光客も多くいるようです」
稼げる魔物がいないダンジョンよりも、闘技場で戦う方がいい稼ぎになったのだろう。
「僕は、今日のうちに戻って、他の町に行ってみようと思います。たしか、ここに来るまでに、町がありましたよね」
「分かった。皆には伝えておくよ。じゃあ、また明日、連絡してね」
そう言うと、魔石を取り出し、電源を切った。魔道具を台車に戻す。
「皆、お待たせ!! もう大丈夫!」
ミハナもポックンの中に走り込んだ。
倒しても倒しても、ポックンは沸いてくる。
「ポケットに入らないよ!!」
魔石がポケットから飛び出しそうになっている。
「ニーナ!! いったん、台車に!!」
箱や袋に入れている時間はない。台車に無造作に入れて戦闘に戻る。
「全然、減らないじゃん!!」
「ニーナ!! 頑張って!! スワンからも、頼まれた!!」
支部に行っていたはずのスワンの頼みと聞けば、すぐにピンときた。
「えぇ!! そうなの!? やばいってこと!?」
「そうみたいだよ!」
「じゃあ、頑張る!!」
ポックンに飛び付いて、解体用のナイフで魔石を取り出していく。そして、すぐに次のポックンへ。
何度、台車とポックンを往復しただろうか。やっと、地面が見えないほどいたポックンが、少し減ってきたように感じる。逃げ出すポックンも出てきた。
「あと、ちょっと!!」
「逃げるのは、追わなくていい!!」
最期のポックンが逃げていく。
ホッと一息つけると思ったら、レインがまっすぐ前を指差した。
「大きな魔力。強い魔物がいるかも」
レインに言われて見れば、亀のような魔物が。
「もしかして、メタルタートル?」
「まさか?」
メタルタートルは、上級の階層にいる魔物。11階より深いところにいるはずだ。
追いかけようと台車に戻ると、階段に隠れていた3人組が降りてきた。
「なぁ、お前ら、さすがに疲れただろ?」
「女の子は、助けてあげようか? みんな、それぞれ可愛い顔しているからね」
「どういうこと?」
魔物との戦闘はすべてイアン班に任せ、肉は横取り同然でもらっていった。それで、この言葉。不審そうなニーナの声には、苛立ちも隠れている。
「俺ら、魔物相手より、人の方が興奮するんだよね」
「わからない? お前らの生死は、俺らにかかっているってこと」
男たちは、下品な笑い声をあげた。
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