第141話 国境のダンジョン4

「あぁ~!!焼け野原にしたい!!」

「やめろ。ニーナが言うと、冗談に聞こえない」

「だぁって~。眠~い!!」


 テントの周りの魔物はできるだけ狩ったのに、次から次に魔物が現れて、落ち着いて眠ることができなかったのだ。

「僕も眠い……」

 レインも目を擦っている。彼に至っては、魔物の気配がわかるので、ほとんど眠れなかったようだ。

「寝入るときに戦っている音が聞こえたら、起きちゃうのよねぇ。爆睡してしまえばいいのよぉ~。でも、やっとウトウトしたと思ったら次の魔物が現れるから、なかなか眠れなかったわぁ~。ニーナ、少しくらい、焼け野原にしてもいいわよぉ~」


「カレンまで、物騒なこと言わないの。はい。これ。そろそろ、スワンに連絡しなきゃ」


 ミハナがポーションを配ってくれた。一気に飲み干すと、無理矢理起こされた体が、悲鳴を上げる。しばらくすると、眠気はすっかりと覚め、体力も回復したようだった。

 このポーションを作ってくれたスワンに感謝だ。


 鉄板を出して肉を焼きながら、魔道具に魔石をいれた。数回点滅を繰り返し、すぐに点灯に変わる。

「スワン~。魔物が、多すぎる~!!」

「おはようございます。皆さんが音を上げるなんて、尋常ではありませんね。僕は、昨日のうちに隣町まで来ましたよ」

 魔道具が起動した途端に、ニーナの叫ぶ声が爆音で流れただろうに、スワンはクスクスと笑っていた。

「スワン。おはよう。ニーナ、挨拶が先だ」

「えぇ~!!・・・おはよう。スワン」

 少し不機嫌なニーナの声に、スワンのみならずメンバー全員がクスクスと笑いだした。

「それにしても、隣町まで近いんだな」

「学園都市と王都の距離よりも、ずっと近かったです」

 エインスワール隊であるスワンなら、日帰りどころか、半日あれば往復できる距離だ。

「そっちの様子はどうだ?」

「それが、すごいんです!! 闘技場があって、すごい数の人です。今は静かですが、昨日、到着したときは、すごい熱気でしたよ」

 魔道具から、熱のこもった口調が聞こえる。いつも落ち着いているスワンが、少し興奮しているようだ。

「ダンジョンより、賑わっていそうだな」

「今まで見たダンジョンよりは、賑わっていますね」

「砂漠のダンジョンよりもか?」

「はい。学園のダンジョンよりもです」


 本来なら、上級ダンジョンがある町は、ダンジョンのお陰で栄えているものなのだが、いままで入ったことのあるダンジョンはそれほどではなかった。


 砂漠のダンジョンは、ブラウン商会のパーティが威張り散らしていたので、人気がなかったらしい。

 学園のダンジョンは、学園生がいるので、魔物の数が少ない。そのため、一般の冒険者には人気が低い。治安はいいので、女性冒険者には人気だったようだが。


 それよりも人気が無い国境のダンジョンは、どうなってしまっているのだろうか。


「昨日の様子では、エインスワール隊もいるようですが、闘技場の衛兵が、治安の維持を担っているようですね。支部は見つけたんで、午前中のうちに行ってみますね」

「そっちは、任せた。俺らは進むよ」

 この魔物の量では、今日一日で3階、もしくは4階まで進めればいいだろう。

「また、夕方に連絡しますね。お気をつけて」

 その声を最後に魔道具から音は消え、ただ点滅を繰り返すのみとなった。

 魔道具から魔石を取り出して、台車に収納する。


「さて、ちゃんと食べないと、もたないぞ」

 パンを分け始めると、3人組が起きてきたようだ。

「お前ら、朝からうるせぇよ。こっちは、もうちょっと寝たかったんだけどなぁ」

「すみません」

 一応謝ったものの、釈然としない思いがあった。


 昨日は交代で眠ると言っていたではないか。それは、交代で見張りをしてくれるという意味だと思っていたのだが、渡した肉を食べ終わると3人ともテントに入って寝てしまったのだ。

 魔物は、テントの中にいて姿が見えない人よりも、姿が見える方に向かってくるため、全ての魔物はイアン班が倒すことになった。


「なぁ、昨日の肉ってまだある?」


 もちろんだ。目の前の鉄板で焼かれている。この状態で、ないなどと言えるだろうか。


「食べますか?」


 仕方がなく提案すると、「おぉ、ラッキー」と言い、鉄板で焼けた肉を一人一枚、フォークにさしてテントに持ち帰ってしまった。


「ラッキーって……」


 夜の間に倒した魔物のなかでも、ラビットは血抜きをして保存してあるので、肉はたくさんある。しかし、それとは別に、気分は良くない。


 彼らが肉を食べているのを横目に、新たな肉を焼き始める。重苦しい空気に、誰も話さなくなってしまった。新しい肉を焼いて食べ終わる顔には、彼らはテントを片付け始める。

 どこかに行ってくれるのかと思ったが、イアン班がテントを片付けているあいだに荷物をまとめ終わって、階段の近くにしゃがみ込んでいた。

 その様子を見て、砂漠のダンジョンのブラウン商会のパーティのことを思い出す。

 まさか、彼らも後をつけてくるつもりだろうか。


「さて、行くか」


 すべての片付けを終え台車に乗せると、階段を下っていった。


 後ろからは3人組が、何事もなかったかのようについてきているようだった。

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