第140話 国境のダンジョン3

 ダンジョンの中は、静かだった。

「ん~!!」

 レインが、周りを見回して、頭を抱える。

「どうした?」


「魔物が多いんだよね~。あっちにも、こっちにも」


 学園のダンジョンは、一般の冒険者だけではなく学園生も魔物を倒すので、少し少ないくらいだった。

 砂漠のダンジョンにはいって、それを始めて知ったが、ここでは多すぎるらしい。


「人はいないね」

「人気がないって本当だったんだな」

「魔物って多すぎると、氾濫するんじゃなかったっけ?」


 レインの実家の近くにできたダンジョンが氾濫したときには、学生だったためダンジョンの中までは入れなかった。そのため、どれほど魔物が多くなったら危険なのかが、わからない。


「一応、倒しておくか?」

「でも、事務所のおじさん、なんにも言ってなかったけど」

「まだ、大丈夫ってことかもしれないけど。いちおう、倒しながら下に降りていってみる?」

「万が一、氾濫したらまずいし、そうするか」


 ラビットとマウスを一撃で倒す。一階の魔物は、倒すのは簡単だが、捌く方が時間がかかる。


「っていうか、全然進めない~!!」


 少し進んでは、ラビットが目の前に飛び出す。やっとのことで皮を剥ぎ取ったと思えば、隣からマウスが顔を出す。


「クロコダイルは??」

「探してもいいけど、これじゃあ、たどり着けないぞ」


「じゃあ、今日は、ラビット……」


 パンや野菜は持参しているが、肉はダンジョンで調達できると考えて、持ってきていない。


「湿地を見つけたらな。これじゃあ、わざわざ探さないぞ」

「それでいいよ~」


 クロコダイルは、池の中から出てこない。だから、探さなければ見つけられないのだが、こう魔物が多いと探しに行くのが一苦労だ。




「疲れた~!!!」

「まさか、今日一日で、2階にもいけない!?」

「もうちょっと進んでもいいけど、テントの周りの魔物は倒しておきたいし」

「階段は、あそこじゃない?」

 少し開けた場所に、岩で囲まれた場所がある。その中心がポッカリと開いているような気がする。


「2階、見てみるか?」

「その前に、定期報告の時間だよ」


 まだ少し時間があったので、テントを張って時間を調節すると、持ってきていた魔道具に魔石をいれた。


 電源が入りランプが点滅する。その点滅はすぐに点灯に変わった。


「スワン! 待たせちゃった?」

「あ~、気にしないでください。そっちの都合でいいんですよ。僕は手紙を出してきました。王都までは、片道、10日くらいかかるそうです。色々、見て回りましたが、温泉があるのどかな観光地って感じですね。隣町の方が、賑やかだって聞きました」

「10日ってことは、返事は早くても20日かぁ~」

「こっちは、1階なんだ」

「何があったんですか?」

 魔道具を通していてもスワンが驚いたのがわかり、少し面白い。

「それが、魔物が多くて、全然進めないんだ。氾濫が心配なんだけど、どれくらい魔物が増えると氾濫するのか知ってるか?」

「いや~、わからないですね。隣町までは日帰りできそうなんで、いってみましょうか。大きい町なら、エインスワール隊の支部もありそうですよね」


「スワン、悪いな。魔物を倒したら、次の魔物が顔を出すような状態だよ。逆に人はいないな。冒険者とは会っていない。事務所にもおじさんしかいなかったし、一人じゃ大変だよな」


「体調を崩しているとか、言ってましたっけ? 忙しくて、応援を呼ぶ時間もないのかもしれませんね」


「じゃあ、隣町まで行ってみます。また、明日の朝、連絡しますね」

「おう! スワン、頼んだぞ」


 魔石を取り出すと、魔道具は止まった。


「2階、覗いてみるか?」


 1階の魔物であればテントを壊されてしまう心配はない。人もいないので、そのまま残しておいた。


「誰かいるかも!!」

 階段を降りていくと、レインが叫ぶ。


 魔物の動きと違うらしい。


 慎重に階段を降りると、レインは階段の裏を見ていた。

「こんばんは~」

 そっと回り込んで、声をかける。


「うわぁ!! なんで見つかったんだ?」


 男三人のパーティだった。


「なんで、こんな裏にいるんですか?」


「いや、それは……」

「隠れて……」

「おい!! バカ!!」


「魔物が多いだろ? 休憩だよ」


 真ん中にいた男が答えた。


「2階も、魔物が多いんですか?」

「あんまりお金にならないから、狩る人もいないんだ」


「そうなんですね~」

「君たち、荷物は? それだけ?」


「実は、1階にテントを張ってあるんです。様子を見に来ただけなんで。じゃあ、戻りますね」

 小さく会釈をして、戻ろうとすると男が止める。

「まぁ、待て、待て。俺らも1階で休むことにするよ。少しでも人数が多い方が、交代で眠れて楽だろ?」

「1階の魔物は、ラビットとか、マウスとかなんで、自分達でなんとかなりますよ」

「そんなこと言うなよ。俺らも疲れたし、一緒に行ってもいいか?」

「それは構いませんけど」


 階段を上って一階につくと、彼らは簡単にテントを張り始めた。装備を見る限り、初級冒険者か、中級冒険者。


「お前ら、高そうなテントだな~」

「どうも」


 エインスワール印の、一番高級なものだから、丈夫で組み立てやすい。鉄板を取り出して、調理を開始する。


「お前ら、肉を焼くのか?」

「さっき捕まえた、ラビットですよ」


「へぇ~。俺らにも分けてくれよ」

 ちょっと歩けば出てくる魔物だから、断る理由もない。美味しく焼いてから分けてあげると、無言で受け取りガツガツと食べていた。


 せめて、一言、お礼を聞ければ、次も分けてあげようという気になったのに。

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