第139話 国境のダンジョン2
「じゃあ、朝と夜に進捗の連絡をお願いしますね。僕は、本部に手紙を出しておきます」
スワンに見送られて貸し物件を後にする。
ダンジョン事務所のおじさんは、ベルゼバブなどいないというが、昨日、ホテルでもその噂を聞いた。いかにも冒険者という出で立ちで現れたイアン班を心配して声をかけてくれたらしい。
ここまで噂になっているということはエインスワール隊にもなにか情報があるのではないかと思い、本部に連絡を取ることにしたのだ。
「さてと、また亀かぁ~」
そう。今度は、メタルタートル。ロックタートルにそっくりな魔物。
「宝石の代わりに珍しい金属がついているんだって」
「ロックタートルも宝石が何種類かあったけど、メタルタートルもかなぁ~。俺らに見分けがつくのかもわからないし」
ライアの班は、ロックタートルの金属として保存されていたものが、増幅した魔力を魔力波として空気中に飛ばせるということを発見したのだ。
今まで金属としては柔らかすぎて、使い道のないと思われていたもので、ただ同然で取引されていた。だから、メタルタートルは、あまり人気がない。
ライア達によれば、本部に残されていたものは一つだけで、メタルタートルからとれる金属が、その金属一種類だけなのかもわからないらしい。
「ここまで遠かったしな~。何度も往復できないから、とにかくたくさん持って帰ろう」
「それにしても、ベルゼバブは不気味だな」
「でも、なんで、ベルゼバブだってわかったのかしら?」
「さぁ~。ベルゼバブといったら、たくさん金品を積んだ馬車を襲ったり、子供を誘拐したり、そういう犯罪だよな」
馬車を襲うのは、ベルゼバブが生活していくために必要なお金を奪うためらしい。よく商会の馬車が狙われるが、そういった馬車は護衛を連れている。その護衛は殺されてしまっているが、魔力が枯渇した状態で見つかることから、ベルゼバブの仕業だといわれていた。
子供の誘拐も、魔力を奪うためだ。ここのところ、連れ去られてから数年がたち、大きくなった子供が見つかることがある。その子供たちの証言で、ベルゼバブの犯行だと知られた。
「ダンジョン内で死人……。ベルゼバブの犯行だって、聞いたことあるか?」
「いや、ないな。なんのためだ? 荷物を奪うってことか? それか、魔物素材か?」
ユージの問いかけに、イアンが悩みながら答えた。
「ん~。でも、他人の荷物を持っていたら、わかるだよね? 不自然なほどの魔物素材を持っていても」
「そうしたら、出口で止められちゃうよね」
ミハナもニーナも首をかしげている。
「そもそも、ベルゼバブって、冒険者登録ってできるのか?」
ユージの疑問には、イアンが「魔力食いは、無理だろうな」と答えた。
成人していなければ冒険者登録ができないが、成人の証明に学校を卒業している必要がある。
学校に入学するときに魔力の検査があるので、魔力食いは発見される。
レインのときも、そうだったのだ。
学校に入学する年になり、家に隠しておくことができなくなった。そのため、魔力食いだと発見され、その力の強さから、エインスワール学園で保護された。
学校を卒業していないのに冒険者登録はできないし、魔力食いの能力を隠して、学校を卒業することはできない。
「魔力食い以外のベルゼバブなら、冒険者登録もできるんじゃないか? 身分さえ保証できれば冒険者登録はできるんだから。冒険者登録をしたあとで、ベルゼバブに加入したってことも考えられるだろ?」
ベルゼバブという組織は、魔力食いのみで構成されているわけではない。ニーナとトーリが閉じ込められたアジトにも、魔力食いは幹部であるエアルだけだった。
「あぁ、確かに」
そんなことを話しているうちに、ダンジョン事務所が見えてくる。
「考えていても仕方がないよ。行ってみよう」
「おはようございま~す。今日も、おじさん一人ですか?」
眠たそうなおじさんに「大変ですね」と声をかける。
「本当は、他にもいるんだけど、皆、体調を崩していてね。でも、ここのダンジョンは人気がないからね。そんなに忙しくないから大丈夫だよ」
おじさんは、ニコニコと迎えてくれた。
事務所のなかには寝袋がおいてあった。ここで寝泊まりしているのだろうか。
「私たち、メタルタートルを狙っているんです」
「えぇ~!! それは無理じゃないかなぁ~。高く売れないし。それに、メタルタートルは、上級だよ」
「大丈夫です。俺たち、上級冒険者に相当するので」
「相当?? そういえば、君たち、6人だったっけ?」
「俺たち、パーティは6人なんです。昨日は、サポートメンバーが一緒だったんで」
「…………サポ……」
おじさんの笑顔が消えた。
腰に下げてある、エインスワール隊の紋章を机の上に出す。おじさんはそれを凝視したまま固まっている。
「俺たちのターゲットは、メタルタートル。最長でも10日で出てくる予定です」
「…………エインスワール隊……117期生……」
誰が入って、どれくらいで出てくる予定なのか。メモを取るはずなのだが、ペンを手にしたままブツブツとなにかを呟き始めた。
「メモって取らなくてもいいんですか?」
「……あぁ! メモ!! ちょっと待ってね」
慌ててファイルを取り出して、ガサガサと音をたててページをめくり、新しいページに書き込み始めた。
「えっと、リーダーは?」
「俺、イアンです」
「117期生、イアン班だね。117期生っていうと、いつ卒業したんだ? ダンジョンは2回目だって言っていなかったか?」
「このまえ卒業したばかりです。学園のダンジョンは数えていませんよ」
「っていうか、全員117期生って、もしかして……」
「特別課題を合格できたので」
エースパーティとして活動できている。だからこそサポートメンバーも自分達で決められた。
「例の、エースパーティか……」
砂漠のダンジョンでもそうだったが、余計な噂が出回っているのではないか。
おじさんが、ファイルに書き込み終わったのを確認したので、紋章をしまう。
「じゃあ、いってきます」
「あぁ、あぁ……」
イアン班が、ダンジョンに入ると、おじさんはフラフラと椅子に腰かけた。
「エースパーティって、マジか……。逃げるべきか……?」
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