第137話 砂漠のダンジョン7

「よぉ~し、久しぶりの王都~!! なに食べようか?」

「ニーナ、その前に本部に行かなきゃ」

「そうだった~。でも、お腹減ったよ~」

「スワンもついてくるわよねぇ~」

「僕もいいですか? 行くなら、ライア先輩にお礼を言いたいです」

 

 ダンジョン事務所まで話し声を届けた魔道具は、ライア達が製作したものだ。以前借りた魔道具は、片方の魔道具のある位置を、もう片方の魔道具で知ることができるというものだった。それを発展させて、位置ではなく、音を届けられるようにしたものだ。

 届けられる距離には制限があるし、セットになった魔道具でないと機能しないので、たくさんの人と連絡を取りたい人は、たくさんの魔道具を用意する必要がある。魔石をセットすることで電源が入る仕組みだが、片方だけ魔石をいれても使えないので、事前に会話をする時間を決めておかなければならない。

 そんな不都合なこともあるが、画期的な魔道具だった。


「こんにちは~。依頼の品と手紙を届けに来たんですけど」

 受付に伝えると、少し待つことになった。


 グランさんは忙しい方だが、各地のダンジョンから戻ってきたら、直接本部にくるのが一番早い。そのため、急に来ても問題ない。というより、王都に着いたらそのまま来るのが普通だった。


「お待たせしました。部屋でお待ちしているそうです」


 グランさんは、「よく来たな」と迎え入れてくれた。


「これが、依頼の品です。そして、これが、砂漠のダンジョン事務所から預かってきた手紙です」

 グランさんはローズクォーツを確かめて、手紙を開いた、しばらく無言の時間が続く。


「初仕事から、違反者の取り締まりをしたのか。大変だったな。だが、ご苦労だった」


 グランさんは、テーブルの目立つところにローズクォーツを置く。


「これから時間はあるか?」

「はい。今日この後は、オフです。あっ、ライアのパーティにお礼を言いに行きたいんですが」

「あぁ、この魔道具か。ちょっと待て」

 そういうと、部屋にいた部下に指示を出し始めた。


「ちょっと待ってろ」

 グランさん自ら、魔法を使ってお茶をいれ始める。


 それにしても、コップの数が多い気がするが……。


「失礼します、グランさん。ご用でしょうか?」

 ライアのパーティが全員揃って入ってきた。

 広いはずの本部長室が、急に狭く感じる。

「すまん。狭いが、適当に椅子を持ってきて座ってくれ」

 グランさんはお茶を配っていった。


「イアン達は、帰ってきていたんだね」

 ライアが話しかけてくる。

「魔道具、ありがとう、。助かったよ」

「ライア先輩、ありがとうございました」

 イアン、スワンがお礼を言ったのに合わせて、それぞれお辞儀をしてお礼を伝える。

「役に立ったんなら、よかったよ」

 手紙やスワンから事情を知っていたらしく、使い心地などを詳しく聞いてきた。


「その魔道具についてなんだけどな、各ダンジョン事務所に一つずつ配備しようと思っている。作れるか?」


 グランさんによると、今回のようなことは、よくあるらしい。


 ダンジョンで起こったことは、そこにいた人にしかわからない。盗みや恐喝、迷惑行為を行っているからと取り締まり、事務所まで連れてくると、不当に拘束されたと、自分達は悪いことをしていないと訴える。実績のあるエースパーテイであれば黙らせてしまうこともできるが、ほとんどのパーティはその場で黙らせて、ねじ伏せることはできない。

 他の冒険者に聞き込みをしたり調査をしている間に、逃げられてしまうことが多発していた。


「大量生産は、まだ、厳しそうなんです。書き付ける魔方陣が複雑すぎて、工場生産って訳にはいかないんです」


「工場生産ほどの数はいらないんだ。この魔道具なんだがな、悪用される可能性もあるだろ? 魔方陣部分は、真似ができないようにできないか?」


「できると思いますよ。たとえば、魔方陣を箱の中に書き込んで、その箱を開けられなくします。無理矢理こじ開けたら、魔方陣が消えるようにしておけば可能かと思いますが。ですが、それだと、さらに作るのに時間がかかってしまいます」


「魔方陣を書き込む前の部品のすべては工場生産にして、材料調達も外注しよう。魔道具の値段も、それ相応に高くして欲しい。あまりに気軽に買えたんでは、犯罪に使うものも増えるだろう。そして、売るときには誰に売ったかわかるようにするとして……」

 グランさんは、そのままブツブツと計画を呟き始めた。


「材料を外注……。そう簡単には、倒せないと思うんだけど……。俺たちも、昔の材料を少し分けてもらっただけで倒したわけではないからな……」


ライア兄さん、それって俺らでも無理そう?」


「いや、エースパーテイなら、なんとかなると思うんだ。使い道がなかったから、誰も倒さなかっただけだと思っているんだけど」


「じゃあ、俺らが取りに行ってくるよ」

「本当か?」

 しっかりと頷くと、必要な材料で入手が一番難しいものを教えてくれた。


「じゃあ、俺らは明日にでも出発しますね。それでは、失礼しま・・・」

「ちょっと待て!! ライア達は、生産の計画を立てて、実行してくれ。イアン班は、待て」


 ライア達は部屋から出ていってしまうし、グランさんは魔道具製作のことで忙しそうだし、なぜ待たされているのかと疑問に思いながらもしばらく待ち続けた。


「失礼します」


 貫禄のあるお腹を高級なスーツに包んだ男が入ってきた。


「ブラウン商会の頭取を勤めております。ブラウンと申します」

 落ち着いた印象でお辞儀もとてもきれいだった。


「やあ、よく来てくれた」

 グランさんが招き入れる。


 ブラウンさんは、机の上に無造作に置かれた最上級のローズクォーツを見つけたようだ。じっと観察している。


「今日は、少しお願いがありましてな。ブラウンさんのところは、強い冒険者を幾人も雇っていると聞いております。ほとんどのパーティは素晴らしいパーティでしょうが、どうも、他の冒険者に迷惑をかけているパーティもいるようでしてな。もう少し、管理を徹底してもらえませんかね」


 ブラウンさんは少しだけ考えているようだったが、ちらりとローズクォーツを見ると「そうですね」と頷いた。


「ちなみに、それは、買い手が決まっているのですか?」

 ローズクォーツのことを示している。

「あぁ、これは、こいつらがとってきたんです。依頼品ですよ。これより小さくていいのなら、大量に仕入れられるんですけどね」

 イアン班がロックタートルを狩りまくったからだ。

「それは、見てから購入を決めていいんでしょうか?」

「もちろんです。いまは砂漠のダンジョンにあるんですが、王都まで届けさせましょう。冒険者の管理については、頼みましたよ」


「もちろんです。これからも末長いお付き合いをお願いしたいですね」

 グランさんとブラウンさんが、がっつりと握手を交わした。

 それだけローズクォーツが、魅力的だったということだろう。

 ブラウンさんが帰っていくと、イアン班も帰ることを許された。

「ブラウン商会のパーティは、しばらく大人しくしているだろう。損得勘定が得意だからな。うちを敵に回さない方がいいと思ってもらえただろうからな。他にも、問題を起こすパーティは多いんだ。せめて、お前らエースパーテイが、いつくるかわからないから、悪いことはできないって、思ってもらえるといいんだけどな」

 グランさんから、変える間際に言われたことだ。しばらくは抑止力として、顔を売っていくらしい。


 初めて学園以外のダンジョンに入り、初めて犯罪を目撃した。魔物と対峙するだけでも危険なのだから、せめて冒険者同士は協力できればいいのにと思ってしまった。

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