第136話 砂漠のダンジョン6

「あっ、やられた」

「追いかけるぞ!!」


 ロックタートルの宝石を狙っているのだろうとは思っていたが、こんな直接的な方法で盗っていくとは思わなかった。


「捕まえた後、事務所まで連れていくのも面倒だし、1階まで泳がせるか?」

「それもいいけど、あいつらって真っ直ぐ出口へ向かってるのかな?」


 どこか、身を隠せるところに向かっているという可能性もあるのだ。

「まぁ、2階か1階で捕まえられたらラッキーってことで」


 ブラウン商会のパーティを見失わないように気をつけて走る。

 ロックタートルと長時間戦った後だが、彼らのスピードは、イアン班のジョギング程度。おしゃべりしながら追いかけていく。

 レインが魔力探知もしているので、見逃す心配もなかった。


 3階、2階と、階層が浅くなってくると、いつまでも引き離せないことに焦りが出てきたようだ。

「なんで、あいつら、疲れないんだ? あれだけ激しい戦いをしていたあとだぞ」

 チラリと後ろを振り返って、呟いた愚痴が聞こえてくる。


「本気で走ってないからじゃないかなぁ~」

 能天気に、ニーナが答える。


「なんで、本気で走らないんだよ!!」

「おま!! 余計なこと言うな!!」

 宝石を盗まれているのだから、本気で捕まえに来るのが普通。

 そんな自然な疑問を口にした仲間を、叱責している。


「えっと、そろそろ本気だしてもいいんだっけ?」

「うん。いいじゃない?」

「よ~っし!! いっくよ~!!」


「へっ? おまえが余計なこと言うから!!」

 仲間で揉め始めた。


 ニーナが一気にトップスピードにあげる。ブラウン商会のパーティ三人を次々に引き倒していく。

 地面に転がされた彼らを、他のメンバーが次々に縛り上げていった。


 ロックタートルの宝石をいれた袋は取り返した。台車を整理して、三人を無理矢理押し込む。


「おまえが走るのが遅いからだろ?」

「はぁ?? おまえの演技が下手だったから、バレたんじゃないか?」

「やっぱり、逃げるんじゃなくて、戦えばよかったんだよ!!」

「はぁ~?? おまえは、こいつらの戦いを見ていなかったのかよ!? 俺らが敵うわけないだろ!?」


 台車の上で騒ぎ続けているが、すべて聞き流してダンジョン事務所まで戻っていった。



「おねえさ~ん。これ、売りたいんです。んで、これって、最上級品ですか?」


 袋の中身を机の上にぶちまけて、ガサガサと、最後に手に入れたローズクォーツを探している。


「ちょっと待って。それより、あっちの方が気になるんだけど」


 お姉さんが、ブラウン商会のパーティ三人を指差している。


「あぁ、この人たち、私たちの宝石盗んだんです」


「そんなことするわけないだろ?」

「そんなもん、俺らが持っていても、疑われるだけだ! 俺らが、ロックタートルなんて倒せるわけがないんだから」

「嘘ばかり言って、俺らを悪者にするつもりなんだ!!」


 三人とも、嘘だと主張し始めた。


「お前ら、俺らみたいな善良な冒険者に、こんなことして、いいわけないだろ?」

「こいつらが、俺らを拘束したのは明らかなんだから」

「こいつらを捕まえてくれよ!!」


 お姉さんは、あきれた表情だ。


「あら? あなた達、気がつかなかったの? 彼ら、エインスワール隊よ」


 3人組の顔色が、青くなっていく。


「ダンジョンの管理も、エインスワール隊の仕事なのよ」


 お姉さんもエインスワール隊なのだ。

 ダンジョン内での問題に対応できるのは、実力のあるエインスワール隊のパーティだけだ。


「でも、こいつらが、嘘を言っているかもしれないだろ??」


「普通、エインスワール隊の言っていることが本当とされるわ。彼らは新人だから、取り締まりのような依頼はまだだと思うけれど」


 無条件でエインスワール隊の言っていることを信じてもらえるわけではないが、他の冒険者から聞いた話などと矛盾がなければ、エインスワール隊の証言が採用される。


「だろ?? まだ、新人なんだし、ちょっと慌てちまって、変なこと言っちまってるんじゃねぇか?」


「一般的には、そういったこともあるでしょうね。でも、今回に限っては、彼らの言っていることが正しいと証明されているわ」


「はぁ~?? 何でだよ!?」

「俺らは、でかい商会のパーティだぞ!!」

「これで、こいつらが嘘をついているなんてなったら、エインスワール隊がつぶれるんじゃないか?」


 ブラウン商会のパーティの3人とも、真っ赤になって怒りを露にしている。

 でかい商会の影をちらつかせて、威圧しているつもりらしい。

 ブラウン商会は大きめの商会だが、エインスワール隊を潰せるほどの力があるとは思えないが……。


「はぁ。自分達の非を認めるつもりはないんですね?」

「当たり前だろ? こいつらが、嘘をついていて、俺らは悪くないんだから」


「あなた達が盗みを働いたという証人はたくさんいます。こちらの魔道具を使ったんで」


「なんだよ!? その魔道具??」


 お姉さんが実演し始めた。

「こちらの箱で周りの音をそっちに転送しています」

 事務所の真ん中に置かれた箱を示してから、イアンの方を指差す。イアンが耳を見せると、小さな魔道具が耳にかかっていた。

「反対に、そちらの台車にのせてある魔道具の周りの音を、こちらに転送できます。こちらは、音増幅装置に接続して、みんなで聞かせてもらいました」

 台車を指差してから、事務所の中の魔道具を指差した。


「えっ?? なんだよ……。それ……」


「やってみますか?」

 お姉さんが魔石をいれると、騒いでいる3人の声が、事務所内から大音量で流れ始める。3人は、黙ってしまった。


「ですから、あなた達が『盗った』といって逃げた声をみんなで聞いていたんです。では、あなた達の経歴に、盗難と登録させていただきます」

 縛られたままの3人の荷物を漁り、冒険者の登録カードを取り出すと、犯罪者の印を押した。

 3人の拘束を解き登録カードを返すと、3人は悪態をつきながら逃げていった。


 ブラウン商会は、エインスワール隊からも商品を仕入れている。お姉さんは手紙を用意してくれていて、依頼品と共に本部に届けて欲しいと言われた。


「それにしても、あなた達、一階まで泳がせるってどういうことよ?」

 お姉さんには、呆れたようにため息をつかれてしまった。

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