第135話 砂漠のダンジョン5

「ニーナ!! 最後、とどめだ!!」


 頭や手足を甲羅に引っ込めてしまったロックタートルはしぶとくて、倒すのに手こずってしまう。なんとか甲羅から顔を出させようと『熱』の魔法を使ったり、力業でひっくり返してみたりとするのだが、警戒心の強いロックタートルは甲羅からでてこない。

 しかも、甲羅で魔法を防ぐことができるらしくて、攻撃がほとんど効いていない。


 甲羅をうっすら開けて魔法で反撃してくるのも、厄介だった。


 ロックタートルが攻撃するために開けた甲羅の隙間を狙って、剣を差し込む。少しでもタイミングが遅いと、甲羅は閉じられ弾かれてしまう。何度も何度も繰り返し挑戦して、やっとイアンの剣が突き刺さった。

 甲羅に挟まれて剣を折られてはならないので、急いで振り払い、首や甲羅周辺を傷つける。それを何度も繰り返し、ロックタートルの動きが鈍ってきた。甲羅をしっかり閉める力もないようだ。


「おりゃぁぁああ~!!」

 ニーナが気合いの入った掛け声と共に、大剣を隙間へと差し込む。

 魔力をつぎ込み、強度と切れ味を増した大剣を、力強く突き刺した。

 甲羅を半開きにしたまま、動かなくなった。

 ロックタートルの急所をついたようだ。


 動きが止まったロックタートルの甲羅を叩く。

「倒したかな」

「あぁ~。時間かかった」

「でも、宝石がピンクに見えたから、絶対倒したいって!!」

「取り外してみるぞ」


 イアンが、慎重に取り外す。

 色は、ピンク。サイズは、拳ほどの大きさ。


「これって…………」

「十分なサイズだと思うんだけど」

「事務所で確認した方がいいな。とにかく戻ろう」


「やったぁ~」


 最上級のローズクォーツがなかなか見つからないので、一撃で倒せるときには倒して、防御されたときには宝石の色を確認して、ピンクだったら倒すことにしていたのだ。違う色なら他のロックタートルを探す。

 そのため、どんどん場所を移動して、11階の奥深くまで来てしまった。


 ちなみにブラウン照会のパーティは、ニーナ達にくっついて、11階まで来ている。ロックタートルは、襲いかかってくる魔物ではないが、狂暴な魔物だっている。

 襲いかかってくる魔物の大半は、先を歩いているイアン班に向かって襲いかかってくる。イアン班であれば、時間はかかっても倒すことができるので、ブラウン商会のパーティは戦う必要はない。


 後ろから襲いかかってきた魔物がいた場合は、彼らは必死の形相でイアン班を抜かしていき、魔物を押し付けてきた。見捨てるわけにもいかないので、イアン班が戦うことになる。


 結局、ブラウン商会のパーティは戦うことなく、11階まで進んできてしまったのだ。


 目を離すと台車に近づこうとするので、気が抜けなくて、辟易している。

 十分な大きさのローズクォーツを見つけることができたので、そんな状態からも、やっと解放される。


 ニーナは弾む足取りで、他のメンバーも鼻歌が飛び出しそうなくらい上機嫌だ。休むことなく、ダンジョンの入り口に向かって、戻っていった。


 8階まできたときだった。


「いててて!! うわぁ~!!」

「大丈夫か!!? どうしたんだ?」

「おい!! 助けてくれ!!」


 相変わらずついてきていたブラウン商会のパーティが、大声で叫びだした。


 何が起こったのかと足を止めれば、一人がしゃがみこんでいる。


「どうする?」

 8階は、中級の階層だ。彼らだけでも入り口まで戻れると思うのだが、それは3人が万全な状態で揃っていたらの話なのかもしれない。

「面倒だし、何か企んでいそうだし」


「おい!! 見捨てるっているのかよ!! 人でなし!!」


 しゃがみこむ男の背中を撫でながら、「大丈夫か!?」と声をかけていた。


「なんか、怪我するようなところってあった?」

「魔物もいなかったと思うけど」

 前方にいる魔物は、先を行くイアン班が倒しているし、ずっと移動していたので、後方から追われるようなことはなかった。


「いてててて!! 助けてくれ~!!」


「一応助けるか……」


 イアンが戻って、「どうしたんですか?」と声をかける。

「足を捻ったんだ!! 見てくれ!! こんなに腫れてる!!」


 そんなに腫れているようには見えないが、反対の足と見比べさせてくれといったら、「疑うのか!!」と怒る。


「コイツら、俺を助けたくないからって、こんなことばっかり言って……」

と、両手で顔を覆って、泣いているような動作。


「じゃあ、背負いましょうか」

 足を挫いたフリのようだし、わざわざ治療する必要もないと思ったのだ。


 ユージがしゃがんで背中を向けると、足を押さえた男が、顔を真っ赤にして怒り始めた。

「それは振動で、足が痛むだろ!! これ以上酷くなったら、どうしてくれるんだ!!」


「じゃあ、担架でもつくって……」

「それも揺れるだろ!!? あれに、乗せてくれよ!!」


 ユージが押していた台車を指差している。たしかに台車なら、浮いているので地面のでこぼこは伝わりにくい。


 しかし、ずっと、台車に近づこうとしているのはわかっているのだ。


「じゃあ、『治癒』の魔法を使えば、いいんじゃない?」

 ミハナが、スッと魔方陣を描く。


「待て、待て!! 『治癒』の魔法なんて、使えるのか!? それで、馬鹿高い治療費を請求するんじゃないだろうな!?」


 両手を大きく振って、ミハナが近づくのを拒否している。


「たしかに、そんな治療師もいますけど、無料で治すんで、自分の足で歩いて帰れますよ。振動とか気にしなくても、痛みはすぐになくなりますし」

「そうよぉ~。ミハナに治してもらいなさいよ」

 もう一台の台車を押したカレンも近づいてきた。


「ミハナが『治癒』して、食料、ポーションを分けますから、それで、大丈夫ですよ」


 ユージは、自分が持っていた台車の中から、ポーションの瓶を取り出した。


「魔力も体力も消耗しているだろうから、ポーションが先の方がいいかも」


 『治癒』や『回復』は、身体の機能をとんでもなく高めているだけ。治るためのエネルギーは、身体の中のものを使っている。


「肉もありますよ。先に食べますか?」


「お前ら、俺を馬鹿にしてるのか!? そんな簡単に『治癒』ができるわけないだろ」

「ミハナの『治癒』は完璧です。『回復』でよければ、俺らだってかけられますよ」


「はぁ~?? お前らって………」


「盗ったぞ!! 逃げろ~!!」

 足を押さえていた男も、何事もなかったように立ち上がり、仲間の後ろを逃げていく。


 先頭を走る男の肩には、ロックタートルの宝石をいれた袋が担がれていた。

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