第133話 砂漠のダンジョン3
薄暗い砂漠は、昼間の暑さからは想像できないくらい気温が下がっていた。
砂に足を取られて走りづらい。ダンジョンの中を1日で走り抜けてきたので、疲労がたまっている。ポーションを飲んで回復したので動けないほどではないが、ダンジョン事務所の隣にあるホテルに泊まれれば楽だったのにと思わずにはいられない。
それでも、町まで帰りたい理由があるので、休むことなく走り続けていた。
後ろからついてきているブラウン商会のパーティも体力の限界を感じているのだろう。少しづつ姿が小さくなってきているように感じた。
ジムのパーティは、ダンジョンに隣接した冒険者用のホテルに泊まると言っていた。
イアン班が町まで帰ると伝えると、「さすが上級冒険者……」と唸るように呟いていた。
ブラウン商会のパーティは、しばらく口を開けたまま固まっていたが、イアン班が走り出すとノロノロと後ろをつけ始めた。
疲れているのならついてこなければいいのになどと思ってしまうが、イアン班をターゲットにしているあいだは他のパーティに被害がないのなら、そのほうがいい。
だんだん暗さが増す空。地平線の一部分だけが明るくなっている。そこが向かっている町だ。
「レイン、まだ走れるか? ニーナは? 皆も魔力は大丈夫か?」
ユージが後ろを確認しながら声をかけてきた。
「僕は大丈夫~。まだ、予備の魔石も残っているよ」
「私は、さっきポーション飲んだし、大丈夫!!」
「じゃあ、うしろ、引き離すか??」
手加減して走っていたが、本気を出して撒いてしまおうということだ。
町まで半分は来たはず。いま、ブラウン商会のパーティを引き離したとしても、ダンジョン方面に戻るということはないだろう。
イアン班のうしろをつけて、何を企んでいるのかわからないが、万が一直接対決となってもなんとかなると思っている。因縁をつけられるのは気が進まないが、それすら躱せるくらいの実力差がありそうだった。
「引き離すのはいいけど、なんか作戦あるの?」
ミハナが、うしろを走りながら聞いてきた。
「実は、ちょっと、思い当たることがあって」
走りながらも、皆の意識はイアンに集中した。
「いや、でも、
「まだ、売っていない魔道具ってことか?」
「まえ借りた魔道具の進化版なんだけど、まだ大量生産ができていないんだ。でも、完成はしたって言われたから」
「そんな魔道具、貸してもらえるのか?」
「たぶん大丈夫。試して欲しいって言われていたから」
「ねぇ、どんな魔道具??」
弾んだ声は楽しそうだ。
「ニーナ、話はあとにしよう。イアンをこっそり出発させよう」
一段階も二段階もスピードを上げて、ブラウン商会のパーティの姿が確認できなくなるくらい引き離してから町についた。
長期滞在する冒険者用の貸し物件。そのドアノッカーを叩くと、スワンが顔を出した。
「どうでした?」
「ロックタートルはいるんだけどな。最上級品となるとなぁ~」
イアンが渋い顔で話し始めると、それをユージが遮る。
「イアン、それより出発した方がいい」
「どうしたんですか?」
スワンに、今日起こったことを説明した。
「イアンは、疲れていますよね。そんなときは、僕だと思うんです」
スワンは走って部屋の中にいくと、紙とペンをもって戻ってきた。
「僕が王都へ行きます。その、ブラウン商会のパーティには、僕のことは知られていないんですよね? ライア先輩は、エインスワール隊本部に行けば、居場所がわかると思うんです。イアンは先輩に手紙をかいてください」
そういうと、慌ただしく部屋に向かう。
リュックを背負って戻ってきたスワンは、何やら紙の束を持っている。
「皆が帰ってきたら案内しようと思って、調べておいたんです。走り書きですが」
見せてもらうと、『クロコダイルのステーキ』という言葉が見えた。他にも『辛そう』とか、『スパイス』とか書いてある。紙をめくると、甘いものがまとめて書いてあるようだ。
借りた家の管理などに加えて、観光案内ができるように調べてくれたようだ。
「僕としては、牛肉のスパイス焼きが気になりました。近くを通ったときの匂いがたまらなかったです」
スワンは、イアンの書いた手紙を受け取った。
「魔道具の中に、すこし食料が残っているんで、食べてくださいね」
スワンは、今晩のうちに隣町までは行くという。
玄関の隙間から滑るように出ていったスワンを見送ると、ニーナが残念そうに呟いた。
「スワンとゆっくり話したかったんだけどな~」
「お土産もあったんだぞ」
スワンが出ていった玄関から、冷たい風が吹き込んだ気がした。
ダンジョンから持ち帰ってきた肉とスワンが買っておいてくれたらしいパンで、簡単に食事を取った。
運ばれてきた肉のスパイシーな香りに、食欲が掻き立てられる。堪らず一口含めば、複雑な香りが鼻から抜けて、辛さに舌が痺れる。
「おいしぃ~!!」
「スワンにも食べさせたかったな」
「スワンったら、きっと食べてはないよね~」
メモに書いてあったのは、『辛そう』『スパイス』など、見た目や匂いからわかることがほとんどで、食べた感想はほとんどのっていなかったのだ。
「また、一緒に来よう。スワン一人でも入りやすそうなお店や、出前のとれる店を調べておいてやろう」
「クロコダイルだって、スワンのために残してきたのにね~」
夕飯も食べずに出発したので、結局、皆のお腹に収まったのだ。
「今、どこらへんだろ?」
「そろそろ、王都着いたかな~」
「もうちょっとってところじゃないのか?」
スワンが出発してから3日。敢えて特別課題には挑まなかったが、スワンだってエインスワール隊だ。早くからイアン班のサポートメンバーを目指していたスワンは、イアン班と共に行動するために『身体強化』をずっと磨いていた。
だからこそ、スワンのことを心配などしていない。一人に任せてしまったことは申し訳ないが、彼ならやってくれると思っていた。
「ん~!!」
レインが口に頬張ったものをモグモグしながら、なにかを訴えている。
見回すと、ブラウン商会のパーティが怖い顔で、こちらに向かっている。
店のなかだというのに、ズカズカと入ってきて、テーブルを叩きつけた。
「お前ら、いつになったらダンジョンへ行くんだよ!?」
イアンが澄ました顔で応じる。
「あなた方に関係ありませんよね。僕たちは、ゆっくりと休息をとって、そうですね~。3~4日後くらいには向かうと思いますけどね」
ダンジョンで手に入れたものを脅し取るのが目的なら、イアン班がダンジョンから出てくるころに待ち伏せすればいいだけだ。
「ゆっくりしすぎじゃねぇ~かぁ?」
「そうですか? 二度目なんで道はわかっていますし……」
「まだ、ダンジョンには行くんだな?」
「僕たちは、狙っているものがあるんでね」
3人組はニタァ~と笑うと、軽い足取りで離れていった。
店員さんに頭を下げると、仕方がないという表情で許してくれたようだ。
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