第132話 砂漠のダンジョン2
「あぁ~。ローズクォーツだけど、小さい!!」
ニーナの落胆の声が響いた。
最上級のローズクォーツは、濁りがなく拳より大きい。
ロックタートルの甲羅は岩のようだ。その一部がキラキラ輝く石になっていて、それが様々な宝石になっている。
ローズクォーツだけではなく、クリスタルやアメシスト、シトリン、アメトリンなど、様々だ。それだけではなく、濁り具合もサイズも様々。取り外してみたら平べったく、思ったほどの大きさではないことが多い。
「ニーナ!! 帰るぞ!」
「はぁ~い」
結局、最上級のローズクォーツは見つけられなかった。
ダンジョンに入ってから9日目。ダンジョン事務所のお姉さんと10日で戻ると約束してしまったので、一度戻らざるを得ない。
このまま粘っていても、いつ目的のものが手に入るのかわからないのだから、食料や薬草の補充のために、一度戻った方がいいことは確かだった。
一度通った道を逆に戻っているので、多少見え方に違いがあり戸惑うことはあるものの、迷うことはない。
6階に向かう階段にたどり着いたときだった。
数人の冒険者がまとまって立っていて、言い争うような声が聞こえていた。
「あれって、ジムのパーティじゃない?」
「ほんとだぁ~。何してるんだろ?」
「喧嘩か?」
ダンジョンの中であれ、外であれ、人に危害を加えてはならないことは常識だ。しかし、ダンジョン内では腕に覚えのある冒険者しかいない。争いが起きたときに、暴力で解決しようとすることもある。
「ジム達、どうしたんだ?」
「あぁ、イアンのパーティか。コイツらがな、今日取った獲物を置いていけっていうんだ」
もちろん、そんな横取りは許されない。
ジムのパーティと言い争っていた3人組は、ジム達よりも人相が悪い。熊のような身体で、ピカピカに磨かれた防具を身に付けていて、近くに置かれた台車には紋章がついている。その紋章、どこかで見たことがあるような気がする。
ジム達が言っていた、後ろ楯に商会がついている冒険者なのかもしれない。
3人組は、イアン班の押してきた台車の中身を品定めするかのように見ている。
「えっと、それは本当?」
イアンが、3人組の視線を遮るように前に出た。
熊のような3人組は、ニタァ~っと口角を上げた。目だけがギラギラと台車の中身を見ているので、作り笑顔であるのはすぐにわかる。
「そんなこと言ってないぞ!! ちょっと、見せてくれって頼んだだけで」
「そんなわけないだろ!! 置いていけって言ってたじゃないか!!」
「言い掛かりつけんなよ!!」
歯を剥き出しにして、ジムのパーティを睨み付けた。あまりの剣幕にジムが身を引いた。
ジムの言っていることが正しいのだろうが、一旦この場はおさめることいする。
「言い争っている訳じゃないんですね」
3人組を睨み付けながら確認する。
ジムには、わかっていると目配せした。
「当たり前だろ? ところで、お前ら、その台車の中身はなんだ?」
イアンが隠そうとした台車の中身は、ばっちり見られていたようだ。学生の頃の感覚が抜けていなく、取れた宝石を台車に無造作に積んでいたので、見られても仕方がない。
「ロックタートルの甲羅についている宝石と、毛皮や牙、あとは、魔石かな」
ニーナがなんでもないことのように答える。
ジムの「ロックタートルの宝石」という呟きが聞こえた。
「お前ら、仲良くしようぜ。俺ら、ブラウン商会の雇われなんだがな、俺らの名前出せば、商会も融通してくれる。損はないと思うがな」
ブラウン商会といえば、バックや靴などの皮製品が有名な商会だ。彼らのような冒険者を抱えていて、ダンジョン産の皮を手に入れているのだろう。
「お前ら、今から帰るのか?」
たまに台車に視線を送りながら、近寄ってくるのが気味が悪い。
「あぁ、戻るところだ。事務所の申告日を過ぎてしまうからな。ジムのパーティも帰るだろ?」
ブラウン商会のパーティを警戒しながらも、6階に続く階段を上っていく。
後ろからついてきているのがわかる。ジム達も、「一緒に帰るぞ」と言われていることを理解したようで、大人しくついてくる。
「少し、走るぞ」
『身体強化』でギリギリついてこれる早さを保って走る。目の前に魔物が現れれば、少しスピードをあげて引き離しておき、追い付かれる前に倒して進む。
本当は、解体して魔石くらい取り出したいが、そんなことをしている時間はなさそうだ。このまま、ジムの班をつれて、無事に入り口まで走り抜けたい。
イアン班だけならば、『身体強化』で引き離してしまえばなんとかなる。しかし、それをやってしまった場合、ターゲットがジムのパーティに戻ってしまうことも考えられた。
今、3人組のターゲットはイアン班の台車につまれたロックタートルの宝石だ。
このまま走っていれば、ついてくる気がする。途中でついてくるのを諦めたとしても、ジムのパーティをダンジョンから出せればそれでいい。
倒した魔物も放置して、休むことなく最短経路を駆け抜けると、その日の夕方には、入り口にたどり着いた。
ミハナが、全員に魔力回復のポーションを配る。ジムのパーティにも、もちろん、ブラウン商会のパーティにも。
今の時点で、なにか犯罪を犯しているようなことはないのだから。
「これ、売りたいんですけど」
「ちょっと、待ってね」
すべてのものを部屋の奥に運んでいき、事務所にいた職員総出で鑑定し始めた。
「料金は、そちらの査定を信用しますので、口座にいれてください」
本来なら、買いとり額を提示してもらってから売るかどうか決めるのだが、この場で大金の話をしては、3人組の目の色が変わる気がした。
鑑定している間に「いつものことか?」と聞くと、ジムは顔をしかめた。
「俺らは、始めてだ。他のパーティに怒鳴っているのは見たことがある。あのとき、アイツらも横取りされそうになってたんだな」
その後から、そのパーティの姿を見ないというから、横取りされてしまったのかもしれない。
3人組が興味津々で査定を見ている間に、ジムのパーティの取ってきた大きな毛皮の査定も終わったようだ。
「料金は、振り込みました」
そう言われたので、お礼を言って町に向かった。
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