第131話 砂漠のダンジョン
照りつける太陽に、乾燥した風が吹き抜ける。
「ダンジョンの中じゃなくても、実際にこんなところがあったんだね」
背の低い草や低木が点在しているだけの砂漠地帯。
砂漠の端を流れる川のほとりに町が広がっている。
王都よりは小さかったが、学園都市よりは大きい町だ。砂漠のダンジョンの集まる人や、取れるもので栄えているらしい。気候が違うせいか、この町独特の食べものがたくさんあった。食べたこともない肉を焼くお店もあったが、初仕事の前だったので、試してみるのは諦めた。時間のあるときに食べて帰ろうと、楽しみにしている。
その町からゆっくり歩いたら半日ほどのところに、ダンジョンはあった。
朝出発して『身体強化』で走り抜けてきたイアン班は、事務所の建物を見上げる。
「さて、いってみようか」
ユージ以外は学園のダンジョンにしか、入ったことはない。そのユージも、実家の近くの初級ダンジョンに、大人に付き添ってもらって入ったことがあるというだけだ。
砂漠のダンジョンは、上級ダンジョン。ロックタートルも、上級の階層にいる魔物だった。
「こんにちは~」
ダンジョン事務所にエインスワール隊である証の紋章を見せる。
学園のダンジョン事務所に比べて大きくて、事務員もたくさんいた。
それに比べて冒険者が少ないように感じたが、空いている時間に来たのだろうか。
「あら、117期生って、卒業したばっかりの新人さんね」
紋章をみたお姉さんが、目を丸くする。
「ロックタートルを目当てにきました~」
「10階よりは深いところよ。お目当ての宝石があるのかしら?」
「ローズクォーツです。最上級の」
「少ないわよ。長く生きているロックタートルを狙った方がいいわね」
深い階層にいけば長く生きたロックタートルが多いというわけではないらしい。初級や中級であれば、浅い階層の方が人が多く、その分魔物が倒される。すこしでも深くまで進んだ方が、長生きした強い魔物が多い。しかし、上級になると、そこまで入れる冒険者が限られるので、浅い階層と深い階層と、人数の差は少なくなる。倒される魔物の数も、ばらつきが減るたしい。出現する階層であれば、どこで探すにしても運によるところが多いらしい。
学園のダンジョンは課題だったため事務所で情報を教えてもらうことはできなかった。本来は、これくらいの情報は教えてもらえるらしい。
「う~ん。じゃあ、やっぱり、歩き回って探すしかないのか……」
結局は、たくさん倒すしかないのだ。
「そうね~。新人さんには、難しい依頼かも。運任せの依頼だから、期限はないわよね。何度も行き来して、探すしかないわね」
「一回じゃ、無理かぁ~」
レインの能力をわかって依頼された仕事なのだから、一筋縄ではいかないと思っていたのだが。
「砂漠の町を観光しながら、探すしかないわ。取れたものはここで売却できるわ。学生のときみたいに、安くなってしまうことはないから、安心して」
学園生のときは、普通に売るよりかなり安くなっていた。家賃をためようと、学園のダンジョンで荒稼ぎをしたときは、普通の金額で買い取ってもらえたので、はじめてのときには目が飛び出るかと思ったのだ。
「砂漠の町を楽しんでちょうだい」
時間はかかってしまうが、合間に珍しい食べ物を好きなだけ食べられると考え直す。
「ちなみに、ダンジョンには、最大で何日くらいいるつもりなのかしら?」
聞き取った日数たっても戻ってこなかった場合、捜索隊が出される。
「10日くらいは、余裕でいられると思うんですけど」
食料は、ダンジョン内で調達できる。
「えぇ!! 新人さんなんだし、もう少し短く……。まぁ、一度、10日で出てきてくれないかしら?」
10日でも長いらしい。お姉さんが、「例のエースパーティって、あなた達のことね」と呟いていた。
「わかりました。最長で10日。それまでには一度出てきます」
「ここら辺で、テントはるぞ!!」
地下5階の下に向かう階段の近く。
初めてのダンジョン。初めての魔物にも遭遇した。
初級、中級の魔物達なので、倒すのには問題なかったが、捌き慣れない。メモを確認しながら売れるものを確認し、コツもわからないまま捌いていたので、時間がかかってしまった。
それでも、ダンジョンの作りは調べてきた通りだったので、多少階段を探すことはあったが、その程度で進んでくることができた。
テントを張り終えると、鉄板を取り出して肉を焼いていく。いい匂いが漂い始めた頃、冒険者がやってきた。
「お前ら、見ない顔だなぁ~」
肉を焼くイアン班の近くに、どかっと座る。
身体の大きな男、3人組だ。エインスワール隊であれば、6人組。一般の冒険者だろう。
「このダンジョンは、初めてなんです」
イアン班のメンバーをじっくりとみる。使っている道具やテントまで見回すと、眉を下げた。
「お前ら、弱そうだな~。そんな
イアン班は、一番背が高いユージであってもスラリとした普通体型だ。目の前の冒険者と比べると、細身な方になるだろう。
魔力が多いと言われている国民の中でも、飛び抜けて魔力が多い。その魔力で戦うので、体型は普通だ。
「初めてのダンジョンですし、気を引き締めて挑む予定です」
悪い人たちではなさそうだが、素性は隠しておいた方がいい。
イアンが無難な返事を返す。
「まぁ、あんまり無理するなよ。冒険者同士のいざこざもあるからな」
「いざこざですか?」
いままで、学園のダンジョンしか入ったことがない。学園生が多く、先生方が長年目を光らせているので、粗暴な冒険者は寄り付かない。
「あぁ。俺らは6階で休みたいんだがな。うるせえ奴らと一緒になっちまう。だから、ここまで戻ってきてるんだけどな」
目の前にいる冒険者達は、身体も大きく傷だらけで眼光も鋭く、怖い印象がある。見た目と素行は一致しないとはいえ、この見た目なら、絡まれることもないだろうに。
「アイツら、商会の子飼いなんだ。でかい商会らしくてな、後ろ楯があるからだろうな。態度もでかい。俺らみたいに、フリーの冒険者は、肩身が狭いよ」
彼らのリーダーは、ジムというらしい。
依頼で魔物を狩ることもあるが、自分達で狩れる魔物のなかで、高く売れるものを選んで倒し、それをお金に変えることで生計を立てている。
「じゃあ、6階、7階は急いで通過した方がいいですか」
「お前ら、どこまでいく予定なんだよ!?」
「11階です」
ジムが、口をパクパクとさせた。
「はぁ~?? お前ら、上級冒険者か!?」
なんとか発した声は、裏返っている。
「まぁ、そんなところです」
エインスワール隊は、上級冒険者の集まりだ。ダンジョン事務所で働いている事務員さんも、卒業課題をクリアした強者である。
本当なのかと疑うような顔をされたが、それ以上は追求してこなかった。
「じゃあ、とっとと通過しちまうことをお勧めするよ」
ユージが焼けた肉を差し出す。
「一緒に、どうですか?」
隣でミハナが新しい肉を焼き始めている。
「肉か?? いいのか? 俺らが持ってきたものは、もう食いつくしてたんだ」
受け取った肉を、持ち上げてまじまじと観察していた。
口に含むと、
「うまいぞ!! なんの肉だ?」
「これは、クロコダイルの尻尾ですよ」
冒険者の男達は、ガツガツと食べていた手を止めて、イアン班を見る。
「高級肉じゃねぇかぁ!?」
大声を出したかと思うと、「こんなんタダで渡してんじゃねぇよ!!」と、声を荒らげる。
「いくらでもあるんで、気にしないで下さい」
いつも通り、1階の沼地で、持ちきれるギリギリの量を狩ってきた。
「いくらでもあるって……。お前ら、本当に上級冒険者なんだな」
驚愕されたことに、イアン班は首をかしげる。
どうも、学園生の普通と一般冒険者の普通は違ったらしい。
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