第130話 初仕事

「皆、早く行くよ~!!」

「ニーナぁ~!! 片付け~!!」


 食器を流し台に置いただけで、洗わずに出掛けようとしているニーナにユージの叫び声が飛ぶ。

 学園では、食堂でご飯を食べていたので、食べ終わった食器は、戻すだけでよかった。

 その感覚が抜けていない。


「遅れるよ~!!」

「近いから、遅れない!! 自分の食器は自分で洗え!!」


 家事に関しては、ユージが一番細かい。実家が宿屋で、手伝いをしていた経験からだろう。


「はぁ~い」


 ニーナがキッチンに戻ってきた。

 可愛らしいキッチンには、鍋や食器など、一通りのものが揃っている。

 キッチン用品は、ミハナとユージを中心に買いそろえた。


「ニーナ、僕が洗ってあげようか?」


 レインが、ニーナにペタッとくっつく。ニーナを甘やかすのは、いつものことだ。


「ん~?? 大丈夫。皆の皿も置いてよ」


 「おっ、さんきゅー」っとユージが皿を置く。


「浄化!」


 キッチン中を淡い光が満たした。


「あぁ。またやってる」


 もともと、繊細な魔力の調節が苦手なニーナは、狭い場所だけ『浄化』するのが苦手だ。魔力を温存する必要もあまりないので、「綺麗になるんだからいいでしょ」とキッチン中を『浄化』してしまう。


「できたよ! 早く行こうよ~!!」

「そんなに急がなくっても、本部はすぐそこだよ」

 イアンが言っても、ニーナは待ちきれないと小刻みにジャンプして手招きしている。

「いいから、行くの!!」

「わかった。わかった」


 今日は初めて本部へ出向く。どんな指令が言い渡されるのか、ワクワクしていた。





 本部に入ると、グランさんのところに向かった。

 グランさんは、書類仕事の手を止めて、顔を上げた。


「おぉ! イアン班か」


 メンバー全員が頭を下げる。


「今日からよろしくお願いします」

「おう! 初仕事、気を引き締めていけよ」


 期待のこもった眼差しでグランさんを見つめていると、机の引き出しから一枚の紙を取り出した。


「お前らに頼みたいのはだな、これなんだ」


 イアンが代表して受け取って、読み上げた。


「ロックタートルのローズクォーツ、最上級品、一つ?」

 グランさんは、大きく頷いた。


「ロックタートルは、4足歩行で胴体が岩のような甲羅で覆われている魔物だ。攻撃力はそう高くはないが、防御力が高くて厄介なんだ。さらに、今回は、ローズクォーツの最上級品と限定されている。かなりの数のロックタートルを倒さないと見つけられないだろう。イアン班が適任かと思ってな」


 担当教官だったカイト先生から、メンバーの特徴などはすべて報告されている。魔物を短時間で見つけて倒していくのが得意なイアン班には、ぴったりの依頼だ。


「わかりました」

「本部には、ダンジョンの情報が集まった書庫がある。そこで、ロックタートルについて調べてから帰るといい」


 元気よく返事をしてグランさんのいる部屋からでると、ちょうどカイト班とすれ違った。


「うわぁ~!! カイト先生!!」

「イアン班か! 俺はもう、先生じゃないぞ」


 カイト班は、メンバーの一人が出産のため休んでいて、班としての活動は休止していた。そのあいだ、カイトが学園の先生として、ソーヤがその補助として働いていた。他のメンバーもそれぞれ仕事はしていたが、久しぶりに班として復帰する。


「いいじゃないですか。固いことは言わないでくださいよ」


「おっ、カイト班か??」

 部屋の中から、グランさんの声が聞こえた。


 「じゃあ」と、部屋に入っていくカイト班だったが、扉が閉まりきるまえに、グランさんが依頼を話し始める。


「おまえら、久しぶりだろ? 肩慣らしに、ガジェット鉱山のダンジョンの周辺を見回って・・・」


 グランさんの部屋の扉が閉まった。

 ミハナが足を止める。

「ガジェット鉱山のダンジョン…………」


 ミハナの母親が、入ったっきり帰ってこなかったダンジョンだ。危険度が高い特急ダンジョンに指定されている。


「カイト先生たちも、周りの見回りっぽかったし、俺たちも早く実績残して、特急ダンジョン関連の依頼を任せてもらえるようにならないとだな」

 ユージが、ミハナの肩に手を置いた。


「そうと決まれば、ロックタートルについて、調べないと!!」

「そうねぇ~。ミハナ、いきましょう」


 カレンに引っ張られるかたちで歩きだしたミハナは、大きく頷いた。

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