第129話 新生活準備
弾むような足取りで、王都へ向かう。照りつける太陽も気にせず、森のなかを走り抜けていく。荷台の台車には、山のような荷物。
「いえぇ~い!! 今までで一番早かったんじゃない?」
王都に入らずに、入り口にとどまる。
「ニーナ、張り切りすぎよ~。暑いから、氷を出してちょうだい」
ニーナが、そこそこの大きさの魔方陣を描いて、「氷!」と唱えると、道の端に氷柱が出来上がる。
「風!!」
イアンが絶妙な強さの風を送り始めると、涼しい風がほてった身体を冷ます。
ミハナがポーションの大瓶に入れてきたお茶を魔法で冷やしてから全員に配っていく。
「ニーナ。そこに立っていてね。浄化!!」
レインが、汗で汚れてしまったニーナの服を綺麗にしてくれる。
「本当に、僕もいいんでしょうか?」
心配そうに呟いたのは、スワンだ。
「いいに決まっているだろ? そろそろ、いこう」
「はぁ~い」
ニーナの元気な返事に、皆も笑顔で歩き出した。
王都のなかは、色々なお店があって賑やかだった。
魔道具を売る店が目にはいる。比較的お手頃なものから、高価なものまで取り揃えられた魔道具店は、高級感のある店構えだった。
「そういえば、
「前に借りたやつ?」
見せてもらったり持たしてもらったり、そういった細かいものもいれれば、結構な魔道具を借りている気がする。
「レインが使っていた、二つが対になっていて、片方を持っている人の位置が、もう片方の魔道具でわかるっていうやつ。あれを進化させたって、『買うか?』って言われたよ」
「使えそうなら、頼んでおいた方がいいんじゃないか? ライア達の魔道具は人気で、予約待ちになっちゃうだろ?」
「じゃあ、頼んでおくよ。支払いは、ひとつ仕事をしたあとってことで」
そんな話をしていたら、あっという間に目的の店についた。
「こんにちは~」
「あぁ、来たかね」
間取りをかいた紙がいくつか張り出されていた。
「これでお願いします」と、 机の上に、大きな袋を置くと、鈍い金属音がなる。
「ちょっとまって」と不動産屋のおばさんが中身を出して数えていく。
「あぁ。ちょうどあるね」
そういうと、鍵と、書類を渡してきた。
「今回の売買契約に関する書類だよ」
大きな契約をするときは、騙されないように注意しなければならない。専門家に仲介してもらうのも手だ。しかし、この不動産屋はエインスワール隊御用達。安心して、取引できた。
「ありがとうございました~」
不動産屋を後にして向かったところには、お屋敷と呼んでもいいくらいの一軒家が建っていた。
「うわ~!!」
はじめて見たスワンが、大きな声をあげる。
「王都のこの立地で、この大きさの建物ですか!?」
「イアン班の本部だからな」
「僕、資金をためるのに、ほとんど協力できませんでしたよ」
イアン班が、毎日のように魔物を狩りに出掛け始めたのは、スワンがエインスワール隊に任命される前。
スワンがイアン班の補佐を希望をしてから、正式に任命されるまでも時間があったので、その間でほぼ資金がたまっていた。
「うちの班の、サポートメンバーなんだろ? それなら、イアン班ってことだよな」
「そう! そう!」
イアン班の推薦もあって、スワンは無事にイアン班のサポート・メンバーになることができた。他の学園生は様々だ。
マシューは、しばらく先輩達のパーティに加わって活動するらしい。
2班は、卒業課題に合格することができずに、エインスワール隊になることはできなかった。その代わり、学園に3年間通ったという箔は大きい。いい就職先が見つかっているようだった。
「俺らも家庭をもったら、他で暮らしながら本部に集まるって形にするけど、そんなのまだ先だしな」
イアンが、鍵を開ける。
「今日は部屋を決めて、合鍵を作って、家具を揃えて・・・・。大忙しだ」
早速部屋を決めに二階に上がろうとするニーナだったが、スワンの感嘆の声が引き戻す。
「なんですか!? これは??」
「リビング兼、打ち合わせ室、みたいな感じかな」
「ここら辺に大きな机をいれるわよね。打ち合わせや調べもの、食事にも使いたいじゃない!?」
イアンの言葉に、カレンが目を輝かせて語り始めた。
「ボードゲームや、カードゲームも買いましょう!!」
「カレンったら。その前に、食器とお鍋と・・・」
「最初は、屋台で買ってくればいいわよね」
「朝は出掛けるより、作った方が早いでしょ」
「そんなの、パンとジャムとか買ってきておけば、大丈夫よねぇ」
どちらかといえば家庭的なミハナと、カレンが軽く言い争いになっている。カレンは、夜のお仕事のお姉さまがたと同じように、外食や屋台ですます派だ。
「全部いっぺんには買えないから、絶対に必要なものからね」
金銭的な問題ではなく、時間的に一度に購入するのは厳しい。
「学園に置いてきた荷物も取りに行かないとだし、早く部屋を決めようぜ」
二階に上がると、個室が8部屋あった。
「僕、ニーナの隣!!」
「お前ら、あっちな」
ユージに勝手に決められてしまった。ニーナが角部屋。レインがその隣。
それぞれ部屋を決めて、合カギを人数分作り、リビングのテーブルを購入した。さすがに、鍋や食器まで買っている余裕はなく、屋台で大量購入して夕飯をすませた。
今日はダンジョンに持っていっている寝袋で寝ることになった。
次の日、残りの荷物を取りに学園に戻った。寮を片付け、寮母のリサさんに挨拶をする。
「あんた達がいなくなると、寂しいね~。また、遊びに来てくれよ」
「はい。リサさん、お元気で」
笑顔でわかれると、魔法練習場へ向かった。
「開いてないね」
「カーシャ先生、長期休暇中は旅行に行ってるんじゃない?」
しっかりと休みを取る先生なので、学園生だったときには練習できない日もあった。それも、今となっては、よい思い出だ。
「じゃあ、手紙を残しておこうか」
それぞれ挨拶をしたためて、ポストにいれておいた。たいした手紙ではないが、仕事の合間に会いに来ると書き添えた。
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