第127話 確かめたいこと
「確か、この辺だったんだけどなぁ」
長期休暇に入ったはじめの日。1班は、エインスワール隊任命式のために王都へ出発した。それを見送ってからイアン班がやってきたのは、学園都市の隣町。
崩れかけた家々が立ち並ぶエリア。ベルゼバブの幹部であるエアルの隠れ家だったところを探していた。
見回しながら歩くが、同じような建物が多くて、どれだったのか判別がつかない。
人が住んでいる家に入るわけにはいかないし、これだと思う建物もない。
何度も同じ道を往復していた。
「もう一本、向こうじゃないか?」
イアンがいう方向を見れば、瓦礫の山となった場所が見える。割れた壁の断面なども新しく、最近取り壊されたように見えた。
「あれ? あのとき、周りには人が住んでたよね?」
崩れかけではあるが、家が立ち並んでいたはずなのだ。
「たくさん住んでたねぇ」
レインが首をかしげる。
「近所にベルゼバブの隠れ家があったんじゃ、安心して暮らせないだろ。もしかしたら、家を捨てたのか。それとも、転居させられたのか。とにかく、同じことが起きないように潰されたんだな」
ベルゼバブは、明らかな犯罪組織だ。馬車の荷物を強奪したり、金銭を盗み取ったり、幼い子をさらったり。
ベルゼバブの隠れ家があったとわかれば、その土地を捨ててもおかしくない。
その昔、魔力食いが、差別から自分の身を守るために犯罪集団となってしまった。生きていくためにはじめた、犯罪だったのかもしれない。そんな風に同情するときもあるが、犯罪は犯罪。許してはいけない。
今は、魔力食いへのサポートもある。差別はなくなっていないが、逆に救おうとしてくれる人もいる。
サポートも受けることなく、人に迷惑をかけることを選んではいけない。
「地下があったけど、それも埋まってるのかな?」
エアルの隠れ家だったと思われる辺りが、一番激しく取り壊されていて、地下も埋められているようだった。
その家の回りを、ニーナが瓦礫を漁りながら歩き回っている。
皿の欠片や、木片など、生活していたときの名残を集めていった。
一通り集め終わると、ニーナがそのうちの一つを手にとって眺めはじめた。
「見覚えはない」
そう呟くと、地面において次のものを手に取る。
「これも違う」
また地面においた。
その動作を、集めてきたもの全てで行うと、ニーナは深く息を吐いた。
「そろそろ何をやってるか、教えてくんないかな?」
「うん。実はね。レインに助けてもらったとき、エアルは助けを呼んだんだ。ニックゥってね。その後、エアルを助けて立ち去る人物の後ろ姿を見たんだけど、私と同じ髪の色だった」
「ニーナの血縁者の可能性があるってことか?」
小さい頃に一緒に写った写真。赤ん坊のニーナを抱いている男性は、ニーナとまったく同じ髪色をしていた。
「うん。お父さんが、小さかった頃に行方不明になっているの。宮廷魔道師で、名前はニール。似ていると思わない?」
だから、隠れ家で、父の痕跡を探していた。
小さい頃に行方不明になっているので、もし父の愛用品があっても気がつくとは思えないが、それでもやらずにはいられなかった。
「たしかに、あのとき逃げたのは二人だったね」
レインは魔力感知でわかっていたはず。ニーナを助けることを優先していただけで。
「まぁな。ニーナの髪色が珍しいとはいえ、まったくいないわけではないんだから、父親がベルゼバブだと決めつけるのは、時期尚早だと思うぞ」
イアンの声は気遣いに満ちていた。
「うん」
ニーナは顔を上げられなかった。
「もし、もしだぞ。ニーナの父親がベルゼバブだったら、ニーナがぶっ飛ばして怒ってやればいいだろ。ベルゼバブだからといって、必ず捕らえられたら殺されるってわけではないだろうし」
ユージが拳を順番に突き出し、おどけてみせる。
実際、どれだけの罪を犯しているかによって、量刑は変わってくるはずだ。
「そうかな」
父が行方不明になったとき、嘆き悲しんだ母の姿が脳裏に染み付いている。
その母は、あるときを境に涙をみせなくなった。何かが吹っ切れてしまったんだと思っている。父がいるかのように振る舞う母には困惑したが、それが母の乗り越えかただと思って納得していた。
もし父がベルゼバブになっていたら、別の理由で母を悲しませてしまうではないか。
やるせなかった。
レインがニーナの頭を優しく撫でる。
「僕は絶対に、ニーナの味方だから。何があっても大丈夫」
穏やかな口調に、心が軽くなっていく。
レインが言うと、なんとなく大丈夫だと思うから不思議だ。
「おい!! レインばっかりずるいぞ。俺らも味方だからな」
ニーナには味方になってくれる仲間がいる。
ニーナが母の味方になってあげなくてはいけない。
それには、いつまでも、下をみてはいられない。
「そうだね。皆、頼りにしてる!!」
「僕が一番ね!!」
間髪いれずに叫んだレインに、笑いがこぼれた。
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