第126話 任命

 朝一番で学園を出発し、通い慣れた学園都市を通過する。森のなかを走り続けて、王都にやってきた。

 一応、王都に入る前に『浄化』の魔法で汗をきれいにしたし、武器もかっこよく担ぎ直した。キラキラした都会の中、歩みを進める。


「こっちだよ」

 王都で暮らしていたイアンとニーナが道案内をし、目的の場所に向かった。


「大きいね~」

「これが、本部??」

 ミハナとカレンが建物を見上げて呟く。ユージは言葉を失っていた。

 レインは、「へ~」っと呆けている。


 門の上部にも、入り口にも、エインスワール隊の紋章が刻まれている。魔方陣を4つ発現した魔道師の紋章。エインスワール隊を創設した魔道師だ。


 身が引き締まる気持ちで門をくぐり受付で名乗ると、近く部屋で待たされた。


 しばらく待っていると、貫禄のある男性が入ってくる。

 書類仕事をするよりも、剣をもって暴れていた方が似合いそうな貫禄だ。


「私は、グランだ。エインスワール隊への入隊手続きは、私が執り行う」

「はい!」と元気よく返事をしたニーナとは反対に、イアンは緊張した面持ちでグランを凝視していた。


「それでは、117期生3班。この度は、特別課題であるドラゴンの討伐、おめでとう。ここで、エインスワール隊となることを認めよう。エインスワール隊のエースパーティとしての活躍を期待しているよ」


 グランは6つの六角形を取り出す。それぞれチェーンに通されていた。

 エインスワール隊の紋章が刻まれた裏には、117という数字とそれぞれの名前が刻み込まれたいた。


 卒業課題に合格したときから用意が始まっているので、特別課題を合格するまでの間に十分用意ができるらしい。ドラゴンの討伐証明をもって事務所へ行ったときに、なるべく早く本部に出向くように言われた。

 1班のように特別課題に挑むつもりがない班は、長期休暇が始まった日に渡される。


「これは、身分を証明するものでもある。肌身離さずもっているように。それから、エースパーティとして登録するには、リーダーを決めてもらう必要があるが、誰にするかね?」

 皆の視線がイアンに向いた。

「私が、やります」

 イアンのハキハキとした返事にグランが頷く。


「では、イアン班として登録しよう。学園の長期休暇が終わるまでは、準備期間だ。王都に拠点を用意するように。隊員の寮などもあるが、そこら辺の細かいことはカイトに相談するように」

 それぞれ自分の紋章を握りしめて返事をした。


「さて、これでイアン班任命の会は終わりだ。少し肩の力を抜いてくれ」

 部屋の空気が弛緩した。


「カイトからは色々聞いているがな、レインが魔力食いなのだろ? エインスワール隊で活動している魔力食いのほとんどは、エースパーティだ。まぁ残念ながら特別課題を合格できなくて、こちらで選んだメンバーでパーティを組んでいるものもいるが。いままで、ベルゼバブに寝返ったものはいない。他の者から何をいわれても、気にしないように」


 グランは言葉を切って、イアン班を見回す。


「エインスワール隊としては、魔力食いは個性だと捉えている。攻撃魔法が得意なもの。回復魔法が得意なもの。他にも、ダンジョンへ行くよりも、机に向かった仕事が得意なもの。班にふる仕事の調整をするのが得意なもの。本当に色々いるが、その一つだと思う。まぁ、大変なことも多いとは思うが、その代わりに強力な能力だ」


 グランはレインに微笑みかけた。


「私は、だがな、ベルゼバブにも対抗できるんじゃないかと思っている。世間には、魔力食いをベルゼバブに会わせることで、寝返ると思っているものもいて、表立っては行動できないがな。ベルゼバブを止める機会があるのなら、その方がいいだろう」


 グランが、魔道具の箱を取り出した。見覚えがあるものに、イアン班は首をかしげる。


「これは、115期生のライア班が作ったものだがな。魔力食いのための魔道具だ。これがあれば、捕らえた魔力食いを無駄死にさせなくてすむ」


 どんな魔道具か、聞かなくてもわかった。魔物の魔力を、吸収しても気持ち悪くならないように濾過する装置だ。

 この魔道具の作成に、レインは協力していた。

 ライアたちが、特別課題として提出した魔道具だ。


 万人に必要なものではないが、エインスワール王国には必要なものだった。いままで、魔力食いを助けるような魔道具は開発されなかった。ライア班とイアン班が仲がよかったから思い付き、できあがった魔道具だ。

 ちなみに、からの魔石に魔力を蓄える魔道具は、広く出回って、すごい売れ行きらしい。


「じゃあ、最初の任務は、長期休暇が終わったときに」


 エインスワール隊本部からでると、イアンが大きく息を吐いた。

「グランさんがいるなんて、ビックリした~」

「さっきの人、偉いの?」

「そりゃ、エインスワール隊のトップだからね。ライア兄さんから、事務員とか少し偉い隊員とかから説明を受けるっていわれていたから、まさかグランさんが来るとは思わなくて」


 「あぁ~、ビックリした~」と、ぐったりするイアンを皆で笑う。

 親も兄もエインスワール隊であるイアンにしか、わからなかった緊張感だ。


 そんなイアンを引っ張って走り出した。

「じゃあ、ちょっと家見て帰ろうか!!」

「さんせ~い!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る