第124話 特別課題6

 草しか生えていない大地を踏む。

 途中でダイヤモンドスネークとツノイノシシを倒したところで、レインが気づいた。

「絶対にドラゴン!!」

 魔力の大きさ的に、確信があった。

 


 走って向かえば、丸まった黒い溜まりが。

「先制攻撃だよね?」

 防御力が高すぎて、不意打ちがズルいなどと考えられなくなっていた。

「どうせ魔法は効かないんだ。切りつけてみるか?」

 どうも背中の鱗は、魔法を防御できるらしい。


 ニーナが大剣を抜き放つ。レインとユージもニーナに続いた。


 単純な切れ味だけなら、魔力を込めたニーナの大剣が一番だ。あと試したいのは、レインの長剣だけができる魔力吸収。

 ユージは普通の剣だが、三方向の同時攻撃を試すつもりだ。


 ニーナがドラゴンの右から走り寄る。地面を踏みしめて腰を落とし、大剣に魔力を流し込む。

 ドラゴンは強さと防御力から、余裕のある態度を崩さないかと思われたのだが、ピクリと動いて尻尾が向かってくる。

 その隙にレインが左側から、ユージは前に近いところから、それぞれ、なるべく腹に近いところを切りつけた。


 ドラゴンは、うるさいハエを払うくらいの攻撃だったのだろう。前回のような勢いはなく、ニーナは大剣で尻尾を受け止めることができた。

 ドラゴンが頭を動かして、ユージを振り払う。そのままゴロンとレインの側に転がってくるので、レインは慌てて飛び退く。


 カレンとイアンが用意していた『熱』の魔方陣を、ドラゴンの体の下に飛ばす。

「熱!!」

 なるべく近づいて、できるだけ魔力を送る。広い範囲を熱するのではなく、狭い範囲に集中して。ドラゴンの腹が、地面に接しているところを狙って。


 フン!!


 鼻息荒くドラゴンは立ち上がって、熱せられた地面を避けた。

「よし!!」


 ドラゴンの弱点は、おそらく腹。魔法を背中で受けるときには少しも動かなかったのに、立ち上がっているときには尻尾や爪で払い落としていた。背中と違って、魔法も効くのだろうと思っている。


 レインが『風刃』の魔方陣を作り出した。ドラゴンと戦う前に倒した魔物から奪った魔力を使っている。

 剣が魔力を奪うので、気持ち悪くもならないし、使える魔力の総量が増える。ドラゴンを倒すために、レインも準備を整えてきた。


「風刃!! 風刃!! 風刃!!」


 空気が圧縮されてできた半月型の刃が、次々にドラゴンに向かう。

 尻尾と爪で弾かれたが、その間にユージとミハナ、イアンとカレンがそれぞれ、二人で一つの魔方陣を完成させる。込められた魔力は、普段の2倍!!


 これを習得するために、しばらくダンジョンにこもっていた。


 アイコンタクトでタイミングを揃えて、「雷!!」

 左右から、飛電がドラゴンに向かう。


 バリバリ、バリバリ!!


 地面を切り裂くような音と共に、ドラゴンに迫る。

 それを確認したドラゴンは、小さな翼を振って魔方陣を描く。『防御』の魔方陣だ。

 出現した魔法障壁に当たった稲妻は、バリバリと痛いくらいに鼓膜を震わせる。


 『雷』が魔法障壁にぶつかるそのときに、ニーナが大剣を構えて走り出していた。ドラゴンは、まだ、『雷』に集中している。


 あと一歩というところで大剣に魔力を注ぎ、ダンっと最後の一歩を踏み出して、横に凪払う。

 慌てたドラゴンが、尻尾を鞭のようにしならせた。

「防御!!」

 大剣に注ぐ魔力を少しだけ減らして、魔方陣を作り出すとそれで尻尾を受け止めた。


 ガチン!!


 その間にニーナの大剣は、ドラゴンの腹を切り裂いた。


 ギャァァァァアァァァァアアアアア!!!


 天を引き裂くような叫び声をあげ、翼をバタつかせると、たくさんの魔方陣が出現する。


「避けて!!」


 火球や氷の矢、稲妻が向かってくるので、『身体強化』でよけ、躱しきれないものは『防御』を駆使して避ける。


 ドラゴンは金色の目に怒りをにじませて、牙をむき出しにすると3班を順番に睨み付けた。


 ギャアァァアアアア!!!


 さらに多くの魔方陣が出現する。


 火球と氷の矢の数が増えた。その分威力や小さくなったことを見抜いていた。


 レインとニーナが剣を構えて走り込む。


 向かってきた尻尾をニーナの大剣が、振り下ろされた爪をニーナの『防御』が受け止める。ニーナに守られる形で、レインの剣がドラゴンをつらぬいた。


 ギャァァァァアアアアア!!!


 ドラゴンの咆哮が、耳をつんざく。

 魔力を吸われる感覚など、感じたことはないだろう。大きく頭を振り身をよじると、レインの剣から逃れるように後ずさった。


「だいぶ、魔力は減ったはず!」


「畳み掛けるぞ!!」


 ニーナが走り込むと、レインはドラゴンから奪った魔力を使って、大量の魔方陣を描く。


「風刃! 風刃! 風刃!」


 ニーナを避けるようにドラゴンに向かう、空気の刃。ドラゴンは、何よりもニーナの大剣を驚異と認識した。

 予想どおり、ニーナの大剣が尻尾で止められる。レインの魔法は爪や魔法障壁で止められたが、いくつかは止めきれず、ドラゴンを傷つけた。


 レインが全員の動きを確認して、合図を送る。


「いけぇ~!!」


「風刃!!」


 その瞬間、ニーナは高くとびながら後ろに避ける。


 4人がかりで作り出した、ドラゴンを越えるサイズの魔方陣から、空気の刃が出現した。


 大きさも特大サイズだが、スピードも今まで見たことがないほど。


 ドラゴンが、辛うじて作り出した魔法障壁を、空気の刃が砕く。

 そのまま、ドラゴンの首に直撃した。


 ギャ、ギャァアアァ!!


「皆、ナイス!!」


 着地をしたニーナがそのままドラゴンに走り寄る。

 ざっくりと首を切られ、ふらつくドラゴンに止めを指した。

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