第123話 特別課題5
学園に戻ると、持って帰ってきたものの片付けもそこそこに、食堂に向かう。
「お腹減った~」
「疲れた~」
「今日のご飯は何かな~」
何度も繰り返した動作だ。なにも考えないで、体が動くままに列にならぶ。
「今日のご飯は…………ビーフ焼き肉だね」
久々に、学園のご飯が嬉しい。
しばらくダンジョンで、肉を焼いたものばかり食べていたから、柔らかいパンと生野菜がついているのも嬉しい。
「サラダ、もう少しください」
いつもなら、肉が少ないと文句をいうニーナに、食堂のおばさんが目を丸くする。
おばさんの反応などお構いなしに、ニーナはサラダを増やしてもらってご満悦だ。
生野菜が、それほど久しぶりということ。
「これから、もう少し、野菜も持っていかないとだな」
ユージがニーナをみて呆れている。
「こんなに長い間ダンジョンにいるつもり、なかったからねぇ~」
ミハナが笑った。ダンジョンへ行くときの荷物を考えているのは、主にはこの二人だ。
「なかなか帰ってこないから、心配しましたよ」
既に食事を終えていたスワンが、空いている椅子を引き寄せて近づいてきた。
今までだったら、長くても4日くらいしかダンジョンにいたことがないのに、今回はそれを越えてしまった。
イアンが口に入っていた分を飲み込んで、反応した。
「あぁ、あの後、階段を見つけて、ドラゴンはすぐに見つかったんだけどな。どうやって倒そうか、作戦を考えてたんだ」
13階におりる階段を見つけるまでも時間がかかった。階段を見つけてドラゴンと戦ったあとは、ダンジョン内で魔法の練習をしていた。花畑がいい拠点になった。
「ダンジョンの中で考えていたんですか?」
「魔法練習場じゃあ、少し狭くてな。それに、全力を試すのは、少し怖くて」
カーシャ先生が魔法防御壁をはってくれているのだが、さすがに全力攻撃だと防御壁を破ってしまいかねない。魔法練習場ごと壊してしまっては困るので、いつも半分以下の力で試していた。
「あぁ、カーシャ先生も、邪魔しそうですしね」
「そうなんだよ。特別課題合格は阻止したいらしくて、いっても練習させてくれないんだよな」
ケーキが出て、お茶が出て、楽しくおしゃべりして……。
カーシャ先生なりに邪魔をしてくる。練習させてくれないとか、そういったことはしないのだが、地味に時間をとられてしまう。
「カーシャ先生らしいですね」
「まぁ、嫌われているわけではないから、いいんだけどな」
ニーナを魔法練習場の管理人、つまり、自分の後継者にしたいだけなのだ。だから、どちらかというと、好かれているのだろう。
スワンは、状況を想像したのだろう。クスクスと笑う。
「ふふふ。それで、ドラゴンは倒せそうなんですか?」
「こればっかりは、やってみないとだな」
イアンがニヤリと笑った。他のメンバーも澄ました顔だ。
それを見て、スワンは穏やかな笑みを浮かべる。
「まだ時間はあるんだ。お前らなら、大丈夫だろ!?」
マシューが、スワンの後ろから顔を覗かせる。
「まぁ、作戦はあるけどな」
今度はユージが答えた。
自分のことではないのに、何故か自慢げなマシュー。
「だろ? んで、お前ら、気を付けろよ」
不適な笑みを浮かべていた3班のメンバーは、マシューの言葉に首をかしげた。
「あれだよ、あの、おじさんたち、いただろ? ダンジョンのところに毎朝いるんだよ。アイツら、なんだ?」
「さぁ~? 知り合いじゃないけど……」
レインに絡んできたのだ。魔力食いには、今でも根強い差別がある。それによって突っかかってくる人がいるくらいは想定内だが、こう何度もしつこく絡んでくるとなると……。
「ちょっと、めんどくさいかも……」
「だよな。この前見かけたとき、なんでいるのか聞いたんだけど、おまえには関係ないって。関係ないわけ、あるかっての」
それを聞いてくれただけでも嬉しい。「だって友達だぜ」と呟くのも嬉しい。
入学したての頃は、マシューとこんなに仲良くなれるとは思っていなかった。
マシューは一番ということにこだわっていて、3班のことは見下していた。1班は一番すごいんだから、自分と同じように全員ができると、班員に強要した。しかも、口で言わなくても伝わるはずと、作戦を話し合うことはなく、うまくいかなくなってから怒鳴るので、班の分裂を招いた。
長期休暇のあと、班員が学校に来なくて、初めて自分の行動を見直した。班のメンバーは、卒業するために協力している状態だが、それでも信頼関係は出来上がっている。
「とにかく、レインは気を付けろよ!!」
マシューの勢いに、レインが頷く。イアンが少し考えて、レインの肩を叩いた。
「おじさんたちの目的がわからないし、一人で外に出るのはやめよう。特にレイン。レインは3人以上で行動な」
「まぁ、いいけど。一人になることなんて、普段からないよ」
口を尖らせて文句を言うレインは、口調のわりに楽しそうだった。
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