第122話 特別課題4
ニーナが大剣を構えて走る。ドラゴンの尻尾がニーナに迫り、タイミングを探るように動いている。レインも少し遅れて、ニーナに続いた。
「とにかく『熱』だ!!」
唯一ドラゴンを動かせた方法を繰り返してみる。
「熱!!」
レイン以外の魔法の詠唱が重なる。
肉を焼く鉄板のように、熱せられた地面。
煩わしそうに鼻をならしたドラゴンは、熱い地面を避けるようにモゾモゾと移動する。しかし5人がそれぞれ『熱』の魔法を発動していて、5箇所の地面が熱くなっている。
移動した先が熱かったらしくて、慌てて体を浮かせて不機嫌そうに鼻をならした。
そこへ、ニーナが切りかかる。大剣への魔力はそこそこに、『身体強化』に魔力を注ぐ。尻尾と頭を避けて、ドラゴンの右側から走り込んだ。思った通り、尻尾がせまってくるので、しっかりと踏ん張って大剣受ける。
ガチン!!
飛ばされないように地面を踏ん張るが、勢いが殺しきれない!!
前傾姿勢で尻尾を受け止めたのに、ズルズルと地面を滑って後退する。
「んん~!!」
足の指で地面をつかむように思いっきり踏ん張って、なんとか止めた。
レインがニーナの後ろをすり抜ける。
体勢を低くして、ドラゴンの喉もとに剣を突き刺した。
ギャァァアアア!!!
身をよじるドラゴンに、レインもニーナも吹っ飛ばされてしまった。
その勢いを利用して、回転して起き上がる。
ドラゴンは、後ろ足で立ち上がり、尻尾をブンブンと振り回し始めた。頭の高さはニーナの3倍以上。尻尾の長さを加えたら、どれだけ大きいのか。顎を鳴らして頭を低くすると、黄金の瞳で鋭く睨み付けている。
ギャァァァアアアアアアアア!!
口を開けて、3班のメンバーを順番に睨み付けてくる。地面を踏みしめる音が、ズシンと響く。
「嵐!!」
「雷!!」
「熱!!」
それぞれ、思い思いの魔法を発動する。ドラゴンは、尻尾をブンブン振って、それでも弾き返せないものは爪で弾いて、跳ね返した。
腹這いに寝ていたときは魔法を防ごうとはしなかったのに、今回は尻尾を使った。
体勢を建て直したニーナが、走り込む。
魔力は大剣に半分、『身体強化』に半分。ギリギリまで近づいて地面を踏みしめて、大剣を振る。
届くと思ったのに、身を引いて避けられてしまった。ドラゴンの腹には、少し刃の先がかすっただけだ。
すぐに尻尾が飛んできて、大剣で受ける。『身体強化』の強度が足りず、少しだけ吹っ飛ばされて、地面を転がった。
ギャァァァアアアアアアアア!!
頭を回すように動かしたと思ったら、魔方陣が二つ出現した。いつもニーナが作るくらいの大きさで、相当な魔力がこもっているのがわかる。
体に似合わず小さな翼を、前後に動かしたかと思うと拳大の火球と矢尻のような氷が出現した。
『身体強化』を発動し、軌道から逸れることで火球と氷を避ける。氷は地面に突き刺さり、火球は当たった瞬間に爆発した。爆風で、小石が飛び散る。
牙をむき出しにして、3班を睨み付ける。ドシンドシンと足音を鳴らして後退りしたと思ったら、また地面に伏してしまった。尻尾だけ、ブンブンと振っている。
「えぇ~!!」
3班を薄目だけで伺っている。少しだけ背中側を向けているのは、防御のためだろうか??
「もしかして、もう一回??」
ドラゴンを立ち上がらせるところから、やり直しということか!!
「雷!!」
電撃が背中の鱗の上を進んでいく。
「雷は、意味ないかも!!」
「やっぱり、『熱』だよ!!」
「地面に?? 魔力の効率悪いよね??」
鉄板ほど熱しやすくはない。熱する範囲も広くて、無駄も多い。
「ニーナ、作戦考えよう! このままじゃ、ただ繰り返すだけで倒せないよ」
これの繰り返しでは、ほとんどダメージを与えられない状態で長時間戦うことになる。3班の魔力か体力、もしくは気力が切れて、撤退することになるだろう。
「なんとなく、倒し方はわかったから、一旦戻ってテントを張ろう!」
「イアンわかったの?? すごーい!! 後で教えてね~! とりあえず、お肉、確保しないと!!」
3班がワイワイと12階に戻っていくと、ドラゴンは立ち上がり、場所を移動して、また眠り始めた。
12階にもどって食料にするための魔物を探し、テントを張って夕飯を作るころには、ぐったりと疲れていた。思った以上に魔力を使っていたようだ。
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