第119話 特別課題1
「ドラゴンって、大きいんですよね?」
スワンが3班の後ろから声をかけてきた。
「たぶんね~」と軽い返事を返す。
今日も3班は、1班と一緒にダンジョンに向かっている。
事務所の手前で、ニーナが足を止めて嫌そうな顔で振り返った。
「おじさんたち、またいるよぉ~」
前回事務所に来たときに、レインについて嫌味を言っていたおじさん達だ。
「僕たちで、荷物チェックを済ませておきますよ」
前回は、荷物のチェックをほぼせずに、事務所を通してもらったのだが、本来はいけないことだ。
1班が、3班の台車も押して事務所に入っていった。
「おまえ達、なんちゃら課題ってやつに合格したらしいな~」
前回もベラベラと話していた少し小太りのおじさんが、眉間にシワを寄せてジロジロと見てくる。
「お陰さまで、エインスワール隊に入隊できることは決まりました」
小太りのおじさんが、目を細めて睨み付けてくる。もう一人の背の大きなおじさんは、無表情でみていた。
「ふん! この小僧はどうなるんだ!?」
レインを顎で示す。
3班は腹を立てながらも、相手にしたくはなかった。
「ご心配には及びません。特別課題も合格しますんで」
イアンが爽やかに返すと、レインは「ふふふ」と嬉しそうに笑った。
その笑いに思いっきり顔をしかめたおじさんだったが、レインは気にしてはいなかった。世の中には色々な人がいて、魔力食いである自分のことを良く思っていない人が一定数いると、実感していた。そのかわり、3班のメンバーや自分の周りの人がわかっていてくれれば、別に構わない。
「こんな危ない小僧を野に放つだなんて、けしからんな!!」
「レインが危険かどうかなんて、おじさん達一緒にダンジョンに来て、見てみればいいじゃないですか」
どうで途中までしか着いてこられないのだから、一緒に来ても構わない。
「はぁ~!! こんな危険なやつと、ダンジョンなど一緒にはいれるわけがないじゃないか?」
レインよりも魔物の方が、おじさん達の驚異になりそうなのだが。
「たしかに危ないわ~。おじさんより強い魔物がたくさんいるわよね~」
小太りのおじさんは、真っ赤になって怒っていて、言葉も出てこないようだ。
「このまえ、おまえは何をしていた?」
今まで無言を貫いていた背の高いおじさんが、レインに問いかけた。
「へ?」
きょとんと目を丸くしたレインは、首をかしげて止まっている。
「おまえは、魔力食いだから魔法が使えないんだろ? ダンジョンでなんの役目を果たしているんだ?」
不機嫌そうに見えるが、小太りのおじさんよりも会話になりそうな気配がした。
「基本的には、魔物を探しています。魔力を感じることができるんで、魔物の位置がわかるんです。魔法も全く使えないわけではありませんよ」
「魔物の位置がわかるってのは、かなり特殊な能力だよな。魔物以外も…………人なんかも……」
「魔力を持っているものならわかります。距離が遠すぎると無理ですが」
「そうなのか……だから……」
押し黙ってしまった背の高い男の横から、小太りの男がわめき散らす。
「人の場所もわかるなんて、やっぱり悪魔のような小僧だな!!」
どんな能力も使い方次第、などと言う雰囲気ではなさそうだ。
「おい!! いくぞ!!」
ダンジョン事務所の中から、マシューが呼んでいる。自分達の持ち物検査と共に、3班の分もお姉さんに見せてくれたらしい。
「マシュー、さんきゅ~。じゃ、おじさん達、ばいばい~」
『身体強化』をかけて、おじさん達の横をすり抜けると、お姉さんに挨拶だけしてダンジョンに飛び込んだ。
「よし!! クロコダイルだ!!」
「だよな~!!」
1班のメンバーも張り切っている。
「鉄板、買ってきたのか?」
「これくらいのを6枚な」
両手で四角い形を作っている。一人用の大きさだ。
「じゃあ、尻尾と腕と、両方とっていけよ!!」
3班の勢いに圧倒されながらも、1班も負けじとクロコダイルをさばいて、夕飯用のお肉を確保した。3班の魔道具に『凍結』をかけて突っ込んでいく。
「よし! これくらいでいいでしょ~」
ニーナが最後のお肉を手に台車に近づく。
「蓋、閉まるか?」
ユージがニーナの持った肉と箱のなかを見比べている。
「え?? 閉まらないと、凍らせておけないんじゃ?」
ミハナが慌てて、駆け寄ってきた。
「ニーナ。凍らせるのまって!!」
「おっと!」
ニーナが、魔方陣を描いたところでギリギリ止まった。
ミハナが詰め直して、
「ニーナ! 冷凍しないでここに詰めて!! その後で冷凍しないと、入らないと思う」
「半分づついれようか」
ニーナとミハナが肉と格闘している。
「入ったか? お昼は、もうちょっと先にするだろ?」
イアンが、おじさん達を気にしながら聞いてきた。
遠くにその姿が確認できる。あの荷物では、3階辺りが限界だと思うのだが。
「あんま気にしなくていいと思うけど、さすがに1階でお昼ごはんは早すぎるよね」
「だよな。じゃあ、いくぞ!」
「は~い!!」
元気に返事をすると、レインが隣に来ていた。
手を差し出してくるので、ギュッと握る。
「ニーナ、行こう!」
手を繋いだまま、走り出した。
11階に到着したところで、1班とは別れた。もちろんお肉は半分渡した。
このときには、おじさん達はいなくなっていた。いついなくなったのかも、わからない。
そんなことは気にせずに、恐る恐る12階へ進む。あれだけ怒っていたワイバーンは、階段近くからいなくなっていた。
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