第118話 卒業課題8
「わぁぁぁぁ~!!!」
11階に転がるように駆け込むと、1班がテントを立てている最中だった。作業の手を止めて、3班を見ている。
「ワイバーンに追われてる!!」
ユージの叫びに、1班が身構えた。
ニーナが11階にたどり着くと、振り向いて立ち止まった。持っていた一人分のポーションを呷るように飲むと、腕を大きく回す。
階段部分をカバーできるくらいの、大きな魔方陣が出現した。
「防御!!!」
ギャァァァ~!!
鳴き声と共に、火球がニーナの防御障壁に当たる。
ギャァァ~!!
階段からは、ワイバーンがけたたましい鳴き声が聞こえているが、上ってくる様子はない。
空を飛んでいるときにも、怒らせなければ逃げていくような魔物だったので、落ち着けば巣に戻ってくれるはず。
3班が仁王立ちでしばらく階段を見張っていたが、鳴き声が聞こえなくなったのを確認すると、ニーナを残してテントを張りはじめた。その横ではワイバーンを解体し、討伐証明になる牙と革を剥いでいく。魔石と額の宝石も綺麗に取り外した。
階段から鳴き声が聞こえなくなったので、ニーナが他のメンバーに合流すると、ワイバーンはすっかり丸裸になっていた。
「ワイバーンって美味しいのかな?」
「特に図鑑には載ってなかったなぁ」
上級エリアの魔物なので、一般的ではないだろう。肉のためだけにワイバーンを倒すとは思えない。
「毒は、ないと思うけどな」
毒の牙や毒針を持っていたり毒を吐く魔物は、身にも毒が含まれるかもしれないので、食べられないとされている。
ワイバーンが毒を使った攻撃をしてくるとは、どこにもかかれていなかった。
「じゃあ、食べてみよ~!! クロコダイルの仲間だし、きっと美味しいよ!」
「へ? クロコダイルの仲間か?」
「そうでしょ~。鱗があって、尻尾があって、牙があって~」
「ほとんどの魔物は、尻尾と牙はあるぞ」
ユージが突っ込む。
「クロコダイルに翼をつけて、立たせたみたいな姿だったでしょ」
「ワイバーンの方がスマートだったような気がするぞ」
今度はイアンだ。
「それは、仲間だからって、全部一緒じゃないからさ~」
「仲間なのかしら?」とカレンも首をかしげてしまっている。
「まぁ、仲間かどうかはともかく、食べてみるのはいいぞ」
「やったぁ~!!」
クロコダイルは尻尾に油がのっていて、ニーナ達のお気に入りだ。ワイバーンも尻尾が美味しいのだろうと、肉を切り出した。一緒に腕や足からも肉を切り出す。
「クロコダイルより、赤身って感じかな~」
「そうだな。これは、食べごたえがあって旨いかもな」
ワイバーンは、肉肉しくて、これはこれで美味しかった。油がのった蕩けるような肉を食べたければ、クロコダイルというのがニーナ達の感想だ。1班にも焼いたお肉をお裾分けして、その日は就寝。次の日にダンジョンの入り口まで戻ってきた。
「あら? もう倒したのかしら?」
事務所のお姉さんに討伐証明を渡し、売るために持って帰ってきた素材を、次々にカウンターの上に出していく。
「また、今日も大量ね……。これがワイバーンの革で、これは、エメラルドスネークかしら?」
帰りに運良く遭遇したので、ついでに狩ってきたのだ。
「これが、ワイバーンの牙よね?? どんな大きなサイズのワイバーンを狩ってきたのよ……。革の大きさも尋常じゃないようだけど、100年くらい生きているんじゃないかしら」
「そんなに生きてるんですか?」
無邪気に驚く3班に、お姉さんは牙を見せる。
「この牙よ。毎年少しずつ成長していて、ここの縞に年齢が現れるのよ。これくらいあると、100歳は越えていると思うわよ」
「そうなんだ~」
のんきな3班にお姉さんも笑う。
「きっと、ワイバーンの長老を狩ってきたのね」
「長老? だから怒ったのかな?」
「怒った?」
「そう。ワイバーンを倒したら、怒って仲間が向かってきたの」
「あなた達、どうやって倒したのよ。ワイバーンは一匹のときに戦闘するのが普通じゃないかしら?」
1班も近くにいるので、お姉さんは少しだけ小声になった。
ワイバーンは仲間意識の強い魔物らしい。
「そうなんですか? どうしても撃ち落としたかったんで、空を飛んでいるのに攻撃して、・・・そのときは一匹だったのに、倒すってときに仲間が向かってきたんです」
お姉さんは、呆れたように息を吐いた。
「派手に倒したのね。気づかれたのよ。何事もなくてよかったわ」
革を広げて大きさを計っていたお姉さんが、「う~ん」といいながら計算しはじめた。
「これほどの大きさの革は見たことがないわ。いくらで売れるか見当がつかないから、売らずに残しておいて、卒業してからオークションに出すことをおすすめするわ」
「えぇ~。でも、とっておくのも……」
「また、倒せばいいよ~」
卒業してから売るとしても、オークションの手続きは面倒だ。かなり安くなってしまうとはいえ、お金には困っていないので、事務所のお姉さんに売ってもらった方が楽だ。
「え?? でもこんな大きな個体、そうそう出会えるものじゃ……」
いくらになるかわからないものに、値段をつけるのは難しい。あまりに安すぎては、申し訳ない。ただでさえ、エインスワールのダンジョン事務所で学園生が売却すると、普通の半額とかそれ以下のかなり安い金額でしか買い取ってもらえないのに。
「オークションに出すのは、サポートメンバーの仕事ですよね。とっておいたら、どうでしょう。まだ、卒業課題を合格していない僕がいうのは、おこがましいですが」
お姉さんと、揉めていると思ったのか。スワンが近づいてきていた。
「そっか。スワンに売ってもらえれば安心だし、そうするか」
3班が決めると、お姉さんはほっと胸を撫で下ろした。3班の特別課題もスワンの卒業課題も合格していないが、スワンがサポートメンバーになるという確信があった。
「じゃあ、117期生3班の皆さん。これが特別課題です」
お姉さんは一枚の紙を差し出してきた。
「ありがとうございま~す」
紙を受けとると、皆で集まって開いた。スワンやマシューも覗き込んでいる。
『特別課題
階層13でドラゴンを倒し、討伐証明となる爪を持ち帰る』
「ド、ドラゴン……?」
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