第117話 卒業課題7

 魔方陣を準備しながら低木の下から這い出した。

 一列にならんで魔方陣をワイバーンにむける。今日はレインも魔方陣を構えた。無理のない程度に参戦するつもりだ。


 ワイバーンも気がついて、首を曲げ地面を見下ろした姿勢で、羽ばたきを繰り返している。戻るべきか、このまま通りすぎた方かいいか、考えているようだ。


 今のうち!!


「空気弾!!」

 6人の声が重なる。ニーナとレインの空気弾が中央。それを囲むように4つの空気弾が進む。ワイバーンに逃げられないように一発目だけはフォーメーションを考えておいた。


 ワイバーンは、慌てたように大きな羽ばたきをして、場所を変えるが、避けきれず一発が翼の皮膜を破る。


「空気弾!!!」

 次々と発射される圧縮された空気の弾が、一発、二発、と皮膜を突き破る。


 ピギャァァァァ~!!!


 一度仰け反ったかと思うと、牙をむき出しにして、空気が震えるような大きな鳴き声を上げた。

 上空から、燃えるような目でニーナ達を見下ろしている。


「空気弾!!!」


 ニーナの放った一発が、翼を破る。

 次の瞬間に、ワイバーンは翼を畳んで、急降下。


「うわ! やばい!」

 慌てながらも、魔方陣を描く。近づいてきたのなら、『風刃』が届く!!

「風刃!!」


 翼の傾きを少し変えたワイバーンに、スイっと空気の刃を避けられる。

 そのまま、3班に突っ込んできた。


 あわてて『身体強化』をかけて飛び退くと、地面に激突する直前で翼をひらき、フワリと着地した。


 ピギャァァァァ~!!!


 開いた口を左右に振って、全身で怒りを表している。

 小型のドラゴンとはいえ、地面に立つと頭の先がニーナの身長の倍くらい。尻尾が長く、体は細身で、動きが素早い。


「やった!! 撃ち落とした!!」

 ニーナの嬉しそうな声に、ユージが突っ込む。

「撃ち落としたっていうか、怒らせた!!!」


「地面で戦えるなら、どっちも一緒でしょ~!」


「そうだな! 総攻撃だ!!」

 イアンは、攻撃用の魔方陣をいくつも展開した。


 それを見て、ニーナも魔方陣を描く。


「風刃!!」


 向かっている空気の刃を、軽やかに走り出したワイバーンが牙で受ける。


「嵐!!」

「雷!!」


 間髪入れない魔法の発動に、素早いワイバーンでも避けきれなかったらしい。直撃した雷に、足を止める。


 ギャ!! ゥギャ!!


 少しよろめいたが、踏ん張ると、炎のような瞳で睨まれた。


 ビギャァァァァ~!!


 円を描くように頭を大きく回すと、魔方陣が出現する。


「ヤバい!! こいつ、魔法使うぞ!!」

 同じワイバーンでも、長く生きた個体は魔法を自在に使えるらしい。


 メンバー全員がニーナの後ろに駆け寄る。ニーナは、目の前に身体を覆い隠すほどの大きな魔方陣を描いた。

「防御!!」


 結界にも使われる、防御障壁が出現する。ニーナの魔力をこれでもかと籠めた分厚い障壁。


 ワイバーンが放った火球を障壁で受け止める。火球は跳ね返り、横の方向へ飛んでいくと、地面にぶつかり爆ぜた。


 その威力を見たイアンが叫ぶ。

「各自の『防御』で防げる!! 散開!!」


 ミハナとレインを残して、ワイバーンを取り囲んだ。


 素早い首の動きでメンバーの居場所を確認したワイバーンが、翼を広げて地面を蹴る。


「逃げられる!! 何でもいいから攻撃して!!」

 ミハナの叫びと、ほぼ同時だった。

「風刃!!」

「雷!!」


「翼の付け根を狙って!!」


 四人の魔法が重なる。

「風刃!!」


 右側から放った空気の刃は牙によって止められたが、左側からの魔法は、翼の付け根に着弾した。


 地面を踏みしめ怒りを表すワイバーンだが、地上戦ならこちらに分がある。


 ニーナは、背中に背負っていた大剣を抜いた。他のメンバーも、それぞれの武器を手にする。

 四方から『身体強化』をかけて走るが、ワイバーンが動きを追っているのは、ニーナ。莫大な魔力を籠め、跳んだ。

 正面から切りかかるが、ワイバーンの牙で止められる。牙を少し削ったが、砕くには到らない。ニーナとワイバーンの力比べになる。

「はぁ~!!!」

 ニーナが叫び声をあげて、さらに押していく。

「ニーナ!! そのままだ!!」

 両側からユージとカレン、イアンも走り込んでいる。


 ワイバーンも気がついたが、ニーナとの力比べから引いて迫りくる剣を避ければ、ニーナに刺される。それはできないと思うほど、ニーナの剣を驚異に感じていた。


 ギヤヤヤアァァァァァァ!!!


 急所である首に剣が突き刺される瞬間、断末魔の叫びをあげる。ワイバーンから、力が抜けているのがわかった。切り落とす、とまではいかなかったが、ワイバーンを倒したようだ。


「ミハナ!! やばい!! あっちから何かくる!!」

 レインが、ミハナの服を引っ張った。

 レインの指差す湖の方向をみると、黒いものが空に見える。

「ワイバーン?? 仲間!?」


 ドッスーン!!


 ワイバーンが、地面に倒れる。

「やったー!!」

 ニーナ達が喜ぶなか、ミハナが台車に走りよりながら、てきぱきと指示を出しはじめた。

「レインはあっちの台車!! ユージ! イアン!! 『浮遊』でワイバーンを運んで!! 逃げるよ!!」


「へっ?? なに??」

「早く!! 仲間が向かってきてる!!」


 ミハナの視線の方向をみれば、黒い点だったものがどんどんと近づいて、今ではワイバーンだとはっきりわかる。


 台車を引っ張り、ワイバーンは浮かせて運び、11階への階段に向かって走る。

「近づいてきてる!! 5匹!!」

 レインが叫ぶ。ここから、5匹を相手取るのは、…………大変。

「早く!!」


 ギャァァァ~!!


 鳴き声が、背後に迫っている。

「早く!!」

 ニーナは階段の前で立ち止まった。

 皆が通りすぎたところで、

「防御!!」

 体当たりしてきた、ワイバーンを弾き返す。ニーナもあまりの勢いで尻餅をついた。

「立って!!」

 台車をカレンに預けたレインが、腕を引き上げる。

 レインに導かれるがままに、階段をつまづきながら上っていった。

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