第116話 卒業課題6
「待ってろ、ワイバーン!!」
1班と別れた途端に、拳を振り上げ大声を上げたニーナに、3班の面々は顔を綻ばせる。
「ニーナ、二日だぞ」
「わかってる。その代わり、二日間は皆も撃ち落とすのに協力してよね」
「当たり前だろ?」
ユージの瞳には、力が籠っている。口では二日間といいながら、撃ち落とす気満々のようだ。
「ニーナなら、撃ち落とせるよ」
レインが、繋いだ手に力を込めた。
「もちろん、早いもの勝ちよね?」
カレンが軽く肩を回す。
「誰が撃ち落としても、恨みっこなしね」
ミハナまで、やる気らしい。
「そんなこと言っても、まだ練習してないだろ?」
冷静ぶっているイアンも、不敵な笑みを浮かべている。
「とにかく、湖まで早く行こう」
スピードを上げたニーナに、他のメンバーも続く。
作戦は、考えてきた。しかし、魔法練習場ではスペースが足りずに、思うような練習はできていない。
いつも通りの穏やかな湖に迎えられる。静かな湖面に、抜けるような青空。迎え撃つのに適した場所は、他にはないだろう。
「あっ!! 来たぁ~!!」
レインが上空を見て叫んだ。
「えっ?? もう?」
慌てて空を見上げると、湖の方向へ翼をはばたかせて向かってくる黒い姿が。
ニーナが魔方陣を描くと、レイン以外のメンバーも魔方陣を描く。
レインが「皆、頑張って~」と応援するなか、魔方陣をなるべく遠くに移動させる。
「空気弾!!」
魔方陣に中心、小さく圧縮された空気の玉が、目にも止まらぬ早さで発射された。
ワイバーンに一直線に向かっていくかと思われた空気の弾丸は、ワイバーンを掠めて通りすぎる。
飛距離は十分!!
「おしい! ちょっとずれた!!」
少しのずれが、大きなずれになってしまう。それだけではなくワイバーンも移動しているのだ。その移動も予測して魔法を発動しなければならないから、余計に難しい。
「空気弾!!」
遅れて4人の魔法が発動した。
4つの空気弾がワイバーンに向かう。
ニーナの攻撃で自分が狙われていると気がついたワイバーンは、細かいはばたきを繰り返し、方向転換する。一つ、二つ、三つと空気弾は逸れていき、最後のひとつが翼の先にかすった。
「よっしゃ!!」
ユージが拳を握る。
「かすっただけじゃん!! 空気弾!!」
いくつかの空気弾がワイバーンに向かうが、ワイバーンは旋回して戻っていってしまった。
「あぁ~!! 行っちゃった~」
思ったようにいかずに、がっくりと肩を落とす3班。ユージの魔法が、ワイバーンをかすったことで、魔法が届くことは証明された。それなのに、撃ち落とせなかったことで悔しさはつのる。
「もうちょっと、待ってみようよ」
夕方の一件で、警戒されてしまったのだろうか。夜になるまで待っても、ワイバーンは戻ってこなかった。
「今日こそ、絶対に倒そうね!!」
いつもならば寝起きの悪いニーナが、起こされる前に起きてきた。
「昨日、当たったもんな。ニーナ、何発なら連発できる?」
「結構、魔力食うんだよね~。十発くらいなら、その後戦うのにも問題ないかな」
魔方陣を体から離したところに作っているので、大量の魔力を使う。『風刃』よりも小さな弾丸にすることで、飛ばすことに魔力を集中させる。威力は落ちるが飛距離を増した、3班のオリジナル魔法だ。
弾丸の形は、ライアが見せてくれた鉛玉を参考にしている。
攻撃力は低いのに、遠くに飛ばすことに魔力を使う。ワイバーンを撃ち落としても倒したわけではない。その後に倒すための魔力を残しておくと、ニーナで十発が限界だった。
「じゃあ、それぞれポーションを持参して、何発も連発しよう。一発でも当たれば、落ちてくるかも」
ユージの提案に、イアンが顔を曇らせる。
「一発じゃあ、昨日みたいに逃げられるのが落ちだろ。二~三発は当てたいけど、魔力温存して撃ち落とせないんじゃ意味がないしな」
「じゃあ、連発しちゃおうか!!」
拳を振り上げ、ヤル気満々のニーナ。
「ニーナ!! ちゃんと狙えよ~!!」
「狙うけど、急がなきゃ!! のんびりしてたら、逃げられちゃうよ」
昨日、逃げられたのが、相当に悔しかった。
朝食を取った後、湖まで移動して、低木の下でワイバーンを待ったのだが、なかなか現れない。
「昨日ので、飛ぶルートを変えちゃったのかな?」
ミハナが、眉を下げて空をうかがう。
低木の枝が視線を遮り、広い空を全て見ることは叶わない。しかし、既に警戒されているかもしれないのに、低木の下から出て姿を見せるわけにもいかない。
「ちょっと、歩いて探してみる?」
待っていられなくなって腰を上げるニーナを、レインが繋いだ手を引いて止める。
「おっとっとっと」
「ニーナ。もうちょっとの辛抱だよ」
「え~!! レインがそういうなら~……」
ぶすっとした顔で座り込む。
「まだ、一日あるんだし」
昨日は移動日で、ワイバーンを見つける予定ではなかったのだ。だから、元々、今日が一日目。
「わかってる」
湖は静かすぎて、時間がたつのが遅い。
「ニーナ。もうちょっと、…………だと思うよ」
レインまで、不安そうになってしまった。
「大丈夫。ワイバーンが現れなくても、レインを攻めたりしないから」
ワイバーンの通り道だと確実にわかっていて、見晴らしのよいこの場所で迎え撃つと決めたのだ。もし現れなかったとしたら、敗因は昨日撃ち落とせなかったこと。
沈黙だけが、広がった。
もう、ワイバーンは現れないんじゃないか。そんな思いが広がる。
レインがニーナの腕を引っ張った。
「来た。もうちょっと、引き付けて」
ワイバーンの位置を把握しているのはレインだけ。息を殺して、待つ。
「いいよ!」
飛び出すと、翼を広げたワイバーンが、頭の真上を飛んでいた。
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