第115話 卒業課題5

「やっぱり、飛んでいるワイバーンを撃ち落とすのは、無謀なのかな?」


 ジャンプして少しでも高いところで『風刃』を放つ方法では、タイミングが難しく、さらに命中率のことを考えると、現実的ではない。

 魔方陣を体から離して作る方法では、威力が十分ではないとわかった。

 最終的には、機嫌のよいカーシャ先生に魔法練習場を追い出されてしまった。


「もうちょっと、考えてみようよ。悔しいから」


 大空を悠々と舞う、ワイバーンが目に浮かぶ。


「そうだけどなぁ~」

「カーシャ先生の感じからすると、巣を探すのが王道なんでしょ。どこかに巣はあるってことよね?」


「そうだろうな。巣じゃなくても、決まったところで羽を休めるとか、ワイバーンを待ち受けることができるんだろ?」

 ユージが軽く同意する。


「でもさぁ、ワイバーンまで魔法が届いたら、すごいよね」


「ニーナ。特別課題が間に合わなくなっちゃうよ」

 レインが、情けない声をあげた。


 四六時中、ニーナと一緒にいたいレインにとっては、特別課題は絶対に合格しなければならない。


「でも、悔しくない?」


 ワイバーンを撃ち落としたいニーナに、他のメンバーは簡単には同意できない。

 気心知れた班でパーティを組みたい。それ以上にレインやミハナのことを思えば、のんびりとはしていられない。


「じゃあ、2日間だけ。それを過ぎたら、巣を探そうか」

 ニーナが妥協する。ニーナとしても、特別課題には合格したいのだ。

「まぁ、ミハナがいいのなら」


 エースパーティにならなければ、ガジェット鉱山の特急ダンジョンに入れない。ミハナは少し考えてから、頷いた。


「やったぁ~!! ありがと~」

 ニーナがミハナに抱きつこうとして、手を繋いでいるレインに止められる。

「じゃあ、作戦を練り直さないとだな」


 食堂にはいると、いい匂いが漂っていた。楽しそうに話しながら、肉にかぶりつく姿があちこちで見られる。


「牛肉のステーキか?」

「やったぁ~」


 列にならんで皿を受けとると、いつも使っている机に向かった。


「誰かいるね」

「ホントだ。真ん中だな~。他のところは、空いてなさそうだし、ちょっと詰めてもらうか?」


 いつもならレインが座る席に、明るい髪色の男の背中が見える。ど真ん中なので、その机に座ると、男を囲んで食事をすることになる、


「・・・・、いや、・・・・なんで、来てるんだ?」

 イアンが、声を上げた。

「ん?」


 ズカズカと通路を進んだイアンは、一番端にお盆をおいた。


ライア兄さん、何しに来たんだよ!!」

「あぁ、イアン。手紙をもらったからね~。イアンの顔が見たくなっちゃって」

「仕事は?」

「早引きしてきちゃった」

「何してるんだよぉ~??」

 兄の仕事を、邪魔するつもりはなかったのだが。


 ライアは、魔道具班としては初のエースパーティとして活動している。

 魔道具の開発などが主な仕事なのに、エースパーティを組む必要があるのかとも思うが、必要な材料には魔物素材もある。他のパーティに依頼して採ってきてもらうよりも、自分達で魔物を倒して、その場で調整した方が早いことは多々ある。


「大丈夫、大丈夫。今は、本部で仕事をしていたんだ。最低限は終わらせてきたし、明日早く行ってもいいしね」


 「それより、皆、座りなよ」と、席を立って促してくる。


「じゃあ、失礼しま~す」

 ライアを囲むように座った。


「んで、何が聞きたいんだって??」

 大きな荷物を抱えているので、聞きたいことはわかっているのだろう。

「どうやって、ワイバーンを倒したのか聞きたいんだよ」

 イアンが呆れたように返した。


「ん~。教えてもいいけれど、これは貸すことができないんだよね~。扱いは難しいし、何てったって、僕らの最大の武器なんだから」


「そりゃ、俺らに細かい魔道具の調整は無理だよ。なにかヒントになることはないかと思って。だから、まさか来るとは……」


「イアンに会いに来るくらいいいだろ~。どうせ実家にも帰ってないんだろうし」

「父さんと母さんは、来るからさぁ~」

「じゃあ、俺も来てもいいだろ? なんか、きっかけが無かったからさぁ~」

 ちょうどいいきっかけだったと、ニコニコされては文句も言えない。


 兄弟の言い争いを聞きながら、本題に入る前に食事を済ませてしまおうと、無言で食べ進めるイアン以外のメンバー。


「ちょっと、皆も食べてないで、なんとか言ってよ」

「いや、仲が良さそうで、何よりって言うか……」

 ユージが答えると、ライアが嬉しそうにする。

「やっぱり、仲が良さそうに見える?」

 イアンは、鬱陶しそうだ。それでも自分が送った手紙の返事のために来てくれた兄を邪険にできない様子。


「そろそろ、教えてくれたっていいだろ?」


「もちろん、いいとも」

 バックの中から、筒状の魔道具を取り出した。


「これだよ。ここに鉛玉を仕込んでおいて、ここを爆発させるだろ。勢いよく飛び出した鉛玉が、『風刃』のように魔物に向かっていくって寸法さ」

 3班の視線が魔道具に集まる。

「鉛玉?」

「うん。これだよ。魔道具本体より、こっち作る方が大変だったんだ」

 テーブルに置いた、金属の玉がコロコロと転がった。真球に近い。


「『風刃』と形が違うけど、これで飛ぶの?」

「飛ぶよ。逆に、『風刃』のほうが、遠くまで飛ばすのにはむかない形だよね」


 ライアに言わせると、『風刃』は威力重視の形らしい。防御力の高い魔物の鱗なども撥ね飛ばせる。威力は高くなくても遠くまで飛ばすのなら、球の方がいいと言うのだ。


「これで、どうやって倒したの?」


「簡単に言っちゃうと、ワイバーンが寝ているところを、遠くから何発もこれを撃ち込んで、弱ってきたところに近づいて総攻撃みたいな?」


 本当に簡単な説明だったが、何となく光景が想像できてしまった。

 ライアは、かなり遅い時間まで食堂でイアンを構い倒して、「また来る」と言い残して、帰っていった。

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